第3話 3
剣舞祭が終わった後の夜。俺は夕食を食べていた。
だが、残念なことに父と母が珍しく時間が空いていたらしく何週間ぶりかの家族での夕食だった。いつもは二人が揃うなんてことはめったにないのにどうして今日という日に限って....。
「レイ、今日の剣舞祭準優勝だったらしいじゃないか!さすが俺とシルキーの子だな!シルキーもそう思うよな?」
「えぇ、レイは天才だと思うわ。本当に私たちにはもったいないぐらいの素晴らしい子だわ」
はぁ、この人たちには悪気がないことはわかっている。この人たちの息子になってそう短くない時間を過ごしてきたからわかる。この言葉は本心であるということを。
それゆえに、俺はつらい。なにも言ってくれないことに。
「なぜ負けるんだ!!」
などと叱ってくれたほうがよっぽどましである。ちゃんと俺のことを意識してくれているとわかるから。変な色眼鏡なしに見てほしいと願うのは子供の性だろう。
まぁ、普通はそんなこと考えないのだろうが。
すると、グレイがふと思い出したかのように尋ねてきた。
「そういえば、そろそろレイたちは迷宮攻略じゃなかったか?」
「うん、そうだよ。三日後に始まるはず。今回は前の階層より深く進む予定。なにしろ、パーティーが優秀な集まりだからね。なんで俺なんかが入ってるんだか」
そう、三日後からスタンウェイ高等学校の行事である迷宮潜りが始まる。
学校の近くにある、封印の塔と呼ばれるダンジョンに1パーティーで挑戦することになっている。ここでは進んだ階層の分だけ実技に加点が施されている。ただし、この迷宮潜りは参加が強制ではなく任意での行事だ。剣舞祭とは違ってダンジョン内では死の危険がすぐそこにある。教師や傭兵などが配置されているため滅多なことは起こらないがそれでも万が一がある。例年生徒の約半数がこの行事に参加する。だが、ダンジョン内で死んでしまったという報告は今のところ聞いたことがない。
それでも怖いものは怖いがな。
俺は前世は争いごとなどに疎遠だったからできるだけ無茶はしたくない。
だが、俺は行かなくてはならない。いや、行かされるという表現の方が正しいか。
基本的にパーティーは同じぐらいの強さの中で決められる。一人だけ突出したり、一人だけ実力が伴わかったりすると一気にパーティーのバランスがつぶれるからだ。バランスがつぶれることによってパーティーの生存率も大きく減少する。
これらのことから、パーティーはできるだけ実力が均衡している者同士で組むのが一般的である。
ここで一つ俺のパーティーを紹介しておこう。
まず1人目!整った顔とは裏腹に女を連れ込んでいたぶり回すゴブリンのような性格を持ち合わせている時期剣聖。アレン・ストライク。
2人目は、童顔な面持ちでありながら人の苦しむさまを見て喜ぶ性癖異常者のセーヤ・アラウンド。
セーヤは魔王を打ち取ったパーティーの魔法使いで今は賢者と呼ばれているヘア・アラウンドの息子で魔法に関して彼の右に出る生徒はいない。
そして、3人目はこのスタンウェイ王国の正当な血筋を引き継ぐエリー・スタンウェイ。彼女は俺に当たりがきついので嫌い。剣技も魔法もトップレベルな彼女だがやはり、目を見張るのは戦況を指揮する軍師としての才能だろうか。
彼女に頭脳を介する物事において1度も勝ったことがないので彼女の実力は折り紙付きだ。
そして最後にこの男!!レイ・グランロード。
英雄の家系に生まれたのにもかかわらず突出した何かがない落ちこぼれ。陰口を小さいころからたたかれ続けて泣いた回数は数知れず。それなりに顔がいいぐらいにしか取り柄がないかわいそうな異世界転生者である。
自分で紹介しときながら悲しくなってきたな。
せめて異世界転生するならチートスキルの1つでもくれよ。
まぁ、こんなこと言っている暇があるならもっと努力しろって話だがな。
「ダンジョンに潜るの憂鬱だな。なんで、あいつらとパーティーを組まなければいけないんだ。あいつらのことだ、もしもの時は俺を囮にしそうで震えるぜ」
そんなこんなを考えながら、俺は眠りについた。
そして、待ちに待ちたくなかった迷宮潜り当日。俺たちのパーティーは20階層を向けて歩みを進める。
迷宮深部50階層
そこには何もない。ただひたすらに広がる無。
まだ、魔王討伐メンバーしか踏み入れたことのない階層である。
ここにはほんの一握りにしか知らない真実がある。
ここが魔王を討伐した場所であるということは公にされていない。
理由は様々あるが、近隣住民に不安を与えないためであろう。
魔王は討伐されたためそのような不安は取り越し苦労なのだが。
だが、そこに存在してはいけない人物がいた。
「あぁ、やっと動けるようになってきた。とりあえず、あいつらを殺すか」
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