第2話 2
氷雨 零
ごく普通の高校生である。勉学においても運動能力においても平均。何においても平均。それが氷雨 零を表すのに最も的確な言葉である。
ただ一点、体が弱いという点を除けばだが。
生まれてから死ぬまでの17年間、彼にはいつも病がついて回った。それは軽い病気から重い病気まで様々だったが、彼に身体的な面での自由を与えられることを神は許さなかった。
もちろん、短い人生で彼はできる限り謳歌したつもりだがそれにしてはあまりにも時間が足りなかった。
彼は恨んだであろう。自分だけに試練を与え続ける者を。
それ故に彼は無神論者だったのだが最後に縋ってしまった。
神という存在に。
最初は喜んだ。自分が異世界に来たことに。
なんせ病院通いがルーティンみたいなものだったため、俺は時間をつぶせる小説やゲームが身近な存在になっていた。
特に異世界に行って活躍する冒険譚などは心惹かれるものがあった。
この代わり映えのしない生活に刺激が欲しかった。非日常という名の刺激を。
まさか自分がその当事者になるなんて思ってもみなかったが、不安より好奇心が勝ってしまうことは仕方ないだろう。
さらに、俺が生まれたのはグランロード家という名家。貴族ではないにしてもそれなりに発言権を持ち、国に影響力を持つ立ち位置にあり自慢ではないがそれなりに裕福だと自覚している。
そのおかげで俺は幼少期の頃から父の背中を追いかけるために努力してきた。もちろん零が持ってる知識も総動員してだ。
ここで勘違いしてもらうと困るのだが、俺は父の背中に追いかけているが父と同じ道を歩むことはしない。
なぜなら、俺は子供ながらにわかってしまったのだ。
この父はたどり着ける境地にいないと。
グレイのトレーニングしている姿を見かけたことがあるが、あれは人のたどり着ける境地ではない。それにグレイと戦った魔王とやらも相当に強いことが分かったので危険を冒してまで父の軌跡を歩む必要はない。
それに、俺はこれからのこともすぐに悟った。いや、悟ってしまったというべきか。
グレイとシルキーとの間に生まれた俺のこれからのこれからの人生を...。
というわけで、俺はいざという時に自分を守れるくらいには強くなろうと決意した。
そして生前にも叶わなかった世界を見るという夢を叶えるために。
俺は世界を見て回るという夢を叶えるために両親に師事した。
幸い俺の周りの環境はとてもよく強くなるためにはうってつけの家だった。
朝からグレイと剣術の訓練をし、昼からは聖女であるシルキーに専門ではないが人並み以上にできる魔法を師事した。
訓練を始めた当所はグレイとの訓練を最後まで遂げられないことも少なくなかったが、あれから10年。
今ではそれなりの強さを手に入れたと思う。
剣術にしてもそうだが魔法に関しても上から3番目の第3級魔法士のレベルに10歳の時に達した。これがどのくらいすごいかというと、第3級魔法士になるには国における魔導士の10%ほどであり、10歳で第3級になるのは前人未到のことだった。
その第3級魔法士に10歳でなった俺は一般的にすごいはずなのだが、俺は皆から褒められることはなかった。
父と母の存在。
これほどまでに俺を苦しめる枷だとは知らなかった。
「あの二人の子供なら普通だろう」
この言葉が俺の成長に歯止めをかける。
国の人々は俺のこと見ていない。それは両親にも当てはまる。
みんな英雄と聖女の陰をみている。2人はそんなことないと思っているのかもしれないが、俺にはわかる。本当の俺。レイ・グランロードを見ていないと。
そのことが分かった瞬間からレイ・グランロードの歯車は壊れてしまった。
剣の腕も15歳から全くの伸びず、魔法に関しても成長する兆しが見えない。
周りのみんながどんどん育っていく姿をみて、一層焦りが俺の心に靄をかける。
一向に成長しない俺を見て人びとは俺のことをこう呼ぶ。
------生き恥さらしと、と。
------もう誰も俺のことは見てくれなくなった。
------英雄と聖女である親の威光なしでの俺を。
------ただの17歳のレイを。
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