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 晴れて王太子との婚約破棄に成功し、騎士団入りを果たしたマデリーンだったが、しかし、ここで誤算が生まれた。


(おかしい……)


 マデリーン十七歳。


 騎士団入りから二年が経った頃のことだ。


 もともと剣の腕は申し分のなかったマデリーンは、あっという間に騎士団の中で団長の右腕にまで上り詰めた。


 第五騎士団長であるベルタは二十七歳。マデリーンよりも十も年上で、独身を貫いている。すらりとした肢体は小鹿のようで、マデリーンは常々、こんな風になりたいと憧れていた。


 さて、そのベルタに呼び出されたマデリーンは、とんでもないことを聞かされた。


 それは、マデリーンを王太子ブライアンの専属の護衛に任命するというものだった。


(なぜだ? わたしは、むしろ、ブライアン殿下の妹のフロランス姫の護衛だろう?)


 ブライアンには、第一や第二騎士団の、屈強な男を護衛につけておけばいい。繊細な姫に屈強な騎士を貼りつかせると息が詰まるので、ここは自分の出番だったはずだ。


 マデリーンが納得のいかない表情を浮かべていると、ベルタは言いにくそうに説明した。


「それが……、これはブライアン殿下の希望なのよ」


「なんですって?」


 マデリーンは目を剥いた。


 二年前に婚約破棄をしたブライアンは、この二年間一度も会っていない。もちろん、騎士の仕事中に遠目に姿を見かけることはあるが、話は一度もしていなかった。


 そのブライアンだが、マデリーンと婚約を破棄したあとも、なぜか別の令嬢と新たに婚約関係を結ぶこともなく、二十二歳を迎えている。王族――特に、男性の王族は結婚が遅いこともしばしばなので、急ぐような年ではないのかもしれないが、婚約の噂くらいたってもよさそうなものだった。


「その……、マデリーンは気心が知れているから、と言われてね」


 気心が知れている? 何を寝ぼけたことを。マデリーンはまったくブライアンに気を許していない!


 マデリーンは苛々したが、一国の王太子の希望を簡単に退けられないことくらいわかっている。


 ここでぐずぐず言って、ベルタを困らせたくはない。


 マデリーンは盛大にため息をつくと「仕方ありませんね」と渋々ながら了承した。

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