アイ・ミスト・ユー
伊島糸雨
0.Prorogue
これは、私の物語だ。
時間の流れの中で生み出されてきたたくさんの主人公たちからすれば、私は取るに足らない存在だろう。何か目を引くようなこともない。他者への影響という点でも、世界への影響という点でも、私はひどく矮小な存在だ。ここにセカイ系は実現されない。この手で掴める一握りを大切に胸にかき抱くことしか、私にできることはない。
けれど、これは私の物語だ。他の誰のものでもなく、社会の物語でも、世界の物語でも、誰か複数の人物たちの群像劇ですらない。どこまでも地続きで果ての見えない、私という生の時間のその一片が、ただ存在したというだけことだ。私の主観で、私が失って、失ったままだというだけのお話だ。
さようなら、私の大切な人。
私はあなたを抱えたまま、霧の中を歩いていく。
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