第8話 私は彼を好きだと再確認する
「なるほどね、あの人が佳奈ちゃんの彼氏だったんだ」
「うん、まぁ…………どうなんだろ?今では本当に分からなくなっちゃった」
ここから電車で一時間のところに住んでいる親戚の家族が夜の間だけ私の家に遊びに来ていた。私の両親は、リビングで親戚のおじさんとおばさんとお酒を飲みながら談笑している。
私は自分の部屋でいとこの
「でも、彼氏さんがその美香さんっていう人と付き合っているかどうかは、本人に直接聞いていないんでしょ?」
「うん…………」
「だったら、ちゃんと確認しなきゃダメだよ。もしかすると、とんでもない誤解をしているかもしれないんだから」
湊くんの言う通りだ。確認してみないと分からない。
そんなことは分かってる。何度も何度も聞こうとした。
でも、私の中の臆病な心がそれを邪魔する。
アオくんと一緒に登校する度に確認しようと試みては怖気づいてを繰り返して、彼が喋っている内容が頭に入ってこないくらいに葛藤するばかりだった。
アオくんのそばにいる時はいつも心が落ち着いて心地よかったのに、今はただただ苦しいだけ。
ついアオくんから逃げてしまう。そんな自分が嫌でしょうがない。
こんな思いをし続けるくらいなら、もういっそのこと私はアオくんの彼女ではなかったのだと割り切った方が楽なんじゃないだろうか?
「私は友達としてでもいいからとにかくアオくんと一緒にいられればそれでいいの。だから、大丈夫。きっぱりと諦めた方がいいときだってあるんだよ」
私はそう言って湊くんに笑顔を振りまいた。
「佳奈ちゃん…………」
そう、早く諦めてしまえば苦しい思いをしなくて済む。
アオくんが美香さんと楽しそうに話しながら帰っている姿を見たとき、すごくお似合いだなと思った。アオくんがお揃いのものを貰ったのは二回目だと言っていたけど、一回目はきっと美香さんから貰ったものなんだろう。
私はアオくんが幸せになってくれるなら、誰と付き合ってくれてもいい。
私はそれを優しく見守るだけでいい。
「佳奈ちゃん、我慢しなくていいんだよ」
「…………っ…………!」
湊くんの言葉を聞いた瞬間、ずっと中に押し込んでいた感情が一気に放たれる感じがした。目から水滴がぽつりぽつりと落ちてくる。
なんで?なんで私は今、泣いてるの?
「泣くほど我慢してたんだね。佳奈ちゃん、自分の気持ちに正直になった方がいいときだってあるんだよ」
アオくんと過ごしてきたたくさんの日々の思い出が、次々と私の頭の中に浮かんでくる。
「私は……アオくんが好き。ずっと近くで見てきた。だから、他の誰にも取られたくない!」
アオくんが美香さんと一緒に歩いているのを見たとき、本当は悔しかった。
簡単に諦められるわけないじゃん!
だって、小さい頃から十年以上もずっとアオくんのことが好きだったんだから。
「うん、いつもの佳奈ちゃんに戻ったみたいだね」
「ありがとう、湊くん。私、アオくんから真実を聞くまでは絶対に諦めない!」
私はそう強く心に誓った。
♢ ♢ ♢
次の日の朝、登校するときの待ち合わせの時間にアオくんはいなかった。
仕方なく一人で学校に向かい教室に入ると、アオくんはすでに席に着いていた。
「あ、佳奈ちゃん。おはよう!」
私に気づいた友達が、元気な声で挨拶をしてきてくれた。
「おはよう」
私も挨拶を返してから、ふとアオくんの方に視線を向ける。
「あっ…………」
すると、アオくんと目があった。
しかし、彼はすぐに視線を逸らし、男子グループに混ざりに行ってしまった。
「………………」
これ、完全に避けられてるよね。
そりゃそうか、私もずっと避けてきたもんね。
どうやら私は、アオくんに嫌われるようなことをしてしまったようだ。
「ほんと、ダメだな私…………」
それから私は、休み時間になる度にアオくんに話しかけようとしたが、彼はすぐに席を立ってどこかに行ってしまった。
追いかけようとはしたけれど、チャイムが鳴ると同時に友達に囲まれてしまい、すぐに振り切ることができなかった。
「どうしよう…………」
話しかけるタイミングを見失い、ついに放課後になってしまった。
終礼が終わると同時にアオくんは教室を出て行ってしまった。
「アオくんっ!」
私は急いで教室を出てアオくんを追いかけようとしたが、すでに廊下には彼の姿はなかった。
「どこ行ったんだろう?」
とりあえず私は走って、一階にある昇降口へと向かった。
アオくんの下駄箱を覗くと、そこには外靴が残っていた。
「まだ学校にいる」
そう確信した私は、必死になってアオくんを探しに学校中を走り回った。
しかし、どこに行ってもアオくんはいなかった。
まだ見ていない場所は残り一つ。
「屋上に行こう」
そう決めた私はすぐに屋上へと向かった。
ずっと走ってばかりだったから体力が限界に近づいてきていた。
何回先生に注意されたか分からない。
それでも、私はアオくんを見つけることだけを考えて走った。
「アオくんっ!」
私は勢いよく扉を開けた。しかし、そこにアオくんの姿はなかった。
私はそのまま屋上の場所に足を踏み入れ、吹き荒れる風を全身に浴びた。
「………………」
もう、疲れた。
絶対に諦めないと自分で言っていたくせに、現実はこんなもんなんだ。
結局、私は口だけだったんだ。
「佳奈!」
彼のことを何もかも諦めようとしたそのとき、後ろから誰かが私の名前を呼ぶ声が聞こえた。
それは、私が昔からずっと間近で聞いてきた声だった。
「えっ…………」
振り返ると、そこにはアオくんが立っていた。
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