とうもろこしの実る頃
うなぎの
とうもろこしの実る頃
皆さん、こんにちは。
お父さん。お母さん。ごめんなさい。
星の民に、深々と頭を下げるように玄関を見てみると、靴を両方どこかに落としてきてしまったようです。
それでも、漸く空気に体が馴染むような落ち着いた居心地の良さがありました。
ボロ戸の隙間から潜り込んでくる潮風に急かされて、少し湿ったサンダルを履いて。
そのまま、抜け駆けするように外に飛び出しました。
・・・!・・・!
お日様は、朝と昼のなかほどの位置です。
からりと晴れた空に限界は見当たりません。
そして、部屋の中よりも鮮烈な潮の匂いがします。
聞かれないので誰にも言わないけれど、この匂いが好きになりつつありました。
中途半端に舗装された道をパタパタと疾走します、この辺りに車はほとんど入って来ないのです。
ふと、猫の知らせで振り返ると、僕に追手がかかるのが見えました。
真っ白で綺麗な服のストーカー、あのスカートを汚さなければいいのだけれど。
それは、遠目で見ても眩しくて、直視できない程に恥ずかしい気もちにさせました。
ザア・・ザア・・・
二人を遠慮無しの大声で呼んでみる。
驚いたのは、僕の方でした。
これは確か。前にもやったような気がします。
「もーなんなのー!!」
あとから出てきたほうが、質問のような或は文句のような問いかけをしています。
イルカのような声は氷菓子で鉄琴を鳴らしたように綺麗で、波間を裂いてよく響く。
この、恥ずかしさと申し訳なさの原因をこちらが聞きたいくらいです。
追いつかれないように、逃げるように、パタパタと疾走する。らんらんらん。
体が軽い。このサンダルを脱ぎ捨てて、原始の力を開放すればきっともっと速く走れるかもしれない。ちょっと走って、尖った石で足を切るかもしれない。
僕は舞台袖から勇敢に出撃するヴァンガード、見えるところに仲間がいないのはいつも不安だから。
たまに振り返ると、二人はニコニコと付いてくる。落ち着いた。
あの笑顔はとってもとてもチャーミング。
あまり調子がいいので、距離は縮まるばかりかぐんぐんと引き離してしまう。
走るのも久しぶりだ。自転車に乗るのとは少し違う、思い切り走るのは気持ちがいい。
ザ・・・・ア・・・!
珍しくのろまな二人にムズムズして、踵を返して二人の元へ向かう、すると思っていたよりも大して進んでいませんでした。
大きくカーブを描いた、道路わきの錆びた手すりの上には、小さな我が家がちょこんと乗って、向こうに見えておりました。
そうそう、大体こんなもの。
勘違いの責任をなすり着けたくて、二人を急かします。
これは、一向に女々しいです。
二人は怒ったり、笑ったり。文句を言ったり、僕を捕えまいとしましたが、猫の様に鰻の様にヌルポと躱させて頂きました。逃げるのは少し慣れています。
また走り出して、距離を開け。海につながる派川の階段を降りた所で少し待ちます。
ずいぶん遅かった割に、情けなく息切れして上下する二人の姿が空に重なって見えたので階段を上り、今度は一緒に、ゆっくり降りました。
この階段は急になっていて少し危ないので、この程度の甘やかしは、どうかお許しください。
それに、小石がむき出しになっている古い道は、転んだ時のことを想像するだけでとっても痛いのです。
終点の上り坂の方を見据えて。小川の冷気で心なしか冷やされた空気を切り裂きながら、向こうまで疾走しました。
左手に見えます一段下を流れる川には、山からの真水が涼し気に流れて、その水面が、地上の木漏れ日を小粋に反射させいます。
この小さな川は、この先砂浜をそのまま横切って海につながります。
昇りの階段も急ですが軽くなった体はひょいひょいひょい、3段抜かしなんてしてしまう。
でも、やはりちょっと疲れてしまった。運動不足の体は酸欠でふわふわします。なんだかとても気持ちがいい。太ももに羽が生えたみたい、でもこれは乳酸がたまっただけ。
上がる呼吸を誤魔化して登りきったところで振り返ると、二人はもう走ってすらいなかった。すっかり落ち着いてこちら見上げているだけでした。
ザア・・・ザア・・・・ザア・・・
海から気ままに吹いてくる湿った風に流されないように、二人を待ちました。
昇り階段は手伝いません。
二人が登りきると、こんがり日に焼けたその手を取って海沿いの道路に向かいます。
車の通りが少ないとはいえ、気をつけないといけません。視界の隅に走行中の車があるうちは、渡らない、動かない、絶対に。
道を挟んだ向こう側は砂浜で、海と陸との境界が大きなカーブを描いて両方にずっとずっと伸びて曲がってその先は、海より青い空色で、広く広く頭の上までスカイブルー。
黄色い太陽、火のように捻じれた花びら。
海沿いの道路脇のヒマワリが大海渡来の捲るような風で代わりばんこに揺れました。
この花がひそかに好きでした。
ヒマワリは、夏だけ強烈な存在感を表す大きな花で、人の身長ほどもあろうかという茎は、太くたくましい。
その頂に付属する花の花弁は鮮やかな黄色で常にお日様を仰いでいる。その可憐な花弁が丸いたわしのようなめしべからびっしり生えています。夏が終わると太陽の光をたっぷり浴びたたわしの部分から大量の種を大地に蒔きます。ひと夏で枯れてしまうこの花の力強い生命力が訳もなく誇らしい気持ちにさせてくれます。
道路を渡りきって砂浜に続くスロープにたどり着き。
二人の手を握り、三角形の鳥居のような門をくぐってゆっくりとスロープを下ると砂浜に着きました。
これから辛くなったら、いつでもここに来てください。
ざあ・・ざあ・・ざあ・・
砂の熱を、足の裏で味わいながら波打ち際まで弾むように歩きます。
こちら。夏の日差しがたまりません。
帽子をかぶせてきてやればよかったと、的外れな後悔をしています。
二人はともかく僕までいつもよりしおらしくてよそよそしい。
そしてなんだか照れ臭い。
「ねぇ。あの・・・。ねぇ!!。」
ザア・・・!ザア・・・!!!ザア・・・!!!
だから・・・・
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