第26話 初夜


 アイリスはイリアが待つ寝室に来ていた。


「アイリス様、私は何をすればよろしいでしょうか?」


 アイリスを迎え入れたイリアは部屋着を着ていた。

 しかし、それはあまりにも予想外の格好だったので、アイリスはしばらく絶句する。


「アイリス様? いかがなされましたか?」


 イリアの部屋着は、裸にスケスケの袖なしワンピースだった。

 初めて見る格好だったので、アイリスは慌てる。


「えっと……。なぜそんな服を?」

「お気に召しませんでしたか? 前のイリアが持っていた衣装の中から選んだのですが。まだ披露していない衣装だったので、アイリス様は喜んでくれるかと」


 ——イリアは俺が要求したことを全部受け入れちゃうんじゃ……? それでいいのか……? どう対処すべきだ?


 アイリスが考え込んでいると——。


「前のイリアのパターンから推測すると、まずは唇を合わせるべきでしょうか? その後はベッドに横たわり、服を脱ぐことでアイリス様を喜ばせるようですが——」

「——ちょ!? 待って!!! あの……イリアはどうしたいの? イリアの気持ちを優先したいなー」

「私は、まだ感じたことのない快楽を知りたいです。どうやら、前のイリアは寝室でしかその快楽を得ていないようですので」


 ——マジか……。お言葉に甘えちゃっていいのか? 俺は押し倒してあんなことやこんなことをしたくなってきてるぞ……。自制できるか不安になってきた……。


「——アイリス様の体を触ってもよろしいですか?」

「いやいや、慌てないで……先に話し合おう」

「はい」

「こういうことは誰にでもしたいの?」

「今のところ、そういう感情を抱く方はアイリス様だけです。前の記憶がそうさせている、と考えても良いかもしれません」


 ——感情は引き継げないって言ってたけど……これはどう解釈すればいいんだ?


「俺は愛梨にしていたことを全て、イリアにしてもいいの?」

「構いません。むしろ、同じように扱っていただきたいのです」


 ——その表情……愛梨?


 イリアの顔には、『アイリスを愛おしそうに見つめる愛梨の表情』が見えたような気がした。

 その瞬間、アイリスの自制心は崩壊する。

 アイリスはイリアの唇に自分の唇を押し当てた。


 イリアはその後、口を少し開け、アイリスとのキスを濃密化させる。


 ——もう、止められない……。


 今まで溜め込んでいた寂しさを解放するかのように、アイリスはイリアの唇を貪った。


「あ……アイリス様……立っていられません……」

「わかった。ベッドへ行こう」


 アイリスは魔法でイリアを浮かせ、お姫様抱っこをしてベッドへ連れて行った。


 ベッドで横になった2人は、見つめ合う。

 イリアはまだ息が上がっていた。


「アイリス様、触っていいですか?」

「もちろん」


 イリアは何のためらいもなくアイリスの唇や胸を触る。

 敏感な部分ばかり撫でたり、揉んだり……。


「胸が柔らかいです。私と同じような感触なのに……アイリス様の胸を触る方が何倍も心地いいです」


 イリアはその後も揉み続ける。


「イリアの体、触っていい?」

「はい。私に快楽を教えてください」


 2人は触り合っているうちに息が荒くなる。


「はあ……この感覚が快楽ですか?」


 イリアは目を潤ませながら質問する。


「そうだよ。気持ちいいでしょ?」

「はい……今夜はずっと、アイリス様とこうしていたいです。できれば、今後も」

「いいよ」


 その日は、イリアが満足するまでアイリスは体を預けた。




 

 アレックスの執務室。


「アレックス入るよー」


 アイリスは部屋の扉をノックした後、アレックスの部屋に入ってきた。


「やあ、愛しのアイリス。会いに来てくれて嬉しいよ」

「ごきげんよう、アイリス様」


 アレックスはデスクの椅子に座り、イリアはデスクの前で立っていた。


「イリアもいたんだね」

「はい。昨夜の詳細をアレックス様にお伝えしておりました」

「え!? アレックス!?」


 アイリスは慌ててアレックスの方を見る。

 アレックスはその様子に吹き出す。


「僕は事細かく話すよう強要していないよ。『昨夜はどうだった?』と聞いただけ。よくある軽い挨拶だろう?」

「まあ、そうだね……。でもイリアは詳細って……。イリア……アレックスに何を話したのかな〜?」


 アイリスは冷や汗をかきながら聞いてみた。


「最初から最後まで行ったことを全てお伝えしました」

「マジで……」


 アイリスは頭をガクッと下げた。


「ずいぶん楽しんだようだね。今日は僕の番だよ、アイリス」


 少し嫉妬まじりな言い方だったので、アイリスは苦笑する。


「お好きなだけどうぞ、アレックス」

「楽しみだね」


 アレックスは嬉しそうに微笑んだ。


「私は、今日1人で寝室で過ごすのかと思うとなぜか胸が苦しいです」

「イリア、それは寂しさと嫉妬の感情が入り混じっているのかもしれないね」

「なるほど……アレックス様、勉強になります。では、私は報告が終わりましたので、これで失礼いたします。ミラにも同じことを報告に行きますので」


 アイリスは顔を真っ青にした。


「——待って、イリア! ミラさんに詳細はあまり言って欲しくないんだけど……」

「なぜです? アレックス様、アイリス様、ミラには隠し事はしないよう言われていますが?」


 イリアは首を傾げた。


「はははっ。イリアの正直なところがいいね。前のイリアは隠し事ばかりだったから」

「アレックス、笑っている場合? 愛する妻の秘密が第三者に伝えられるんだよ?」

「ミラなら気にしないよ。研究材料として必要な知識だからね。ミラのためだよ?」

「はあ……俺だけ損してない? もう、いいや。どうせ隠そうとしてもしつこくミラさんは聞いてきそうだから」

「では、報告しに行きますね」

「どうぞ……」


 アイリスは沈痛な面持ちでイリアを見送った。

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