第5話 アレックス王子の友人
婚約者に決まった1週間後、アイリスはアレックス王子に呼び出された。
ハーツ王宮、庭園内。
アイリスとアレックスは2人きりで庭園を散歩していた。
「——今日はいい天気ですね」
「はい」
アイリスは愛想笑いを浮かべた。
——あー……やっとレベッカ先生の鬼調教から逃れられた、と思ったら……。次はイケメン王子と散歩かよ……。休ませてくれー!
この世界に来てから、ずっとマナーレッスンなどの貴族教育に明け暮れていたアイリスは廃人状態だった。
今後の対策を練る暇など与えてもらっていない。
——あー、せめて、立川さんが側にいてくれたら……って……あれ? あのマントの人は……。
イリアの仮面使用人を王宮内の渡り廊下で見かけ、アイリスは胸を弾ませる。
「アレックス様、今日はイリア様がここに来ているのですか?」
「え? どうしてそう思うのですか?」
「先ほど、あそこの廊下でイリア様の使用人を見かけたので。婚約者候補面談の時、イリア様に付き添っていた人です」
「あー……彼は王宮に仕えているのですよ」
「ハミルトン家の使用人ではないのですか?」
「まあ、彼は特殊な立場ですね。両家に仕えていますが、どちらかというと王家に重きを置いています」
「そうですか……」
——きっと、王家のスパイとして働いてるんだろうな。だからあんな格好してるんだ……映画みたいだな。
アイリスは勝手に想像してわくわくしていた。
「アイリス、どうされましたか?」
「あ、すみません。その人がどんな人なのか想像していたんです」
アレックスは予想外の内容に目を丸くする。
「どんな人物像を想像したのですか?」
「きっとスパ……裏で怪しい仕事をしていて、変装や格闘が得意なのかなって。マントの内側にはたくさん武器とかを仕込んでいて、変装のために髪を剃ってて、筋肉ムキムキで——」
アイリスは前の世界でスパイ映画を観たばかりだったので、想像が予想以上に膨らんでいた。
「——ふっ……はははははっ」
アレックスは笑い出す。
「アイリスは本当に面白いですね。発想が新しいというか……そんな話をする女性は2人目ですよ」
「他に私のような人がいるんですか?」
「ええ、いますよ。きっと気が合うでしょうね。今度紹介しますよ」
「ありがとうございます」
——紹介してくれるなら、立川さんみたいな人がいいな〜。そうだったらこの世界でも頑張れるかも?
***
数日後。
王宮、面会室前。
アイリスは再びアレックス王子に呼び出された。
「失礼いたしま……」
アイリスは面会室の扉を開け、淑女っぽい挨拶をするが……途中で固まる。
出迎えてくれたアレックスの背後に、ソファーに座るイリアが見えたからだ。
「やあ、アイリス」
「ご、ごきげんよう、アレックス様」
——やっぱり、立川さんにそっくりだ……。かわいい、いや、美人だな〜。
アイリスはイリアに目を奪われてしまう。
「さあ、中に入って」
「は、はい」
——うわっ、あの仮面の怖い人もいる……。
仮面使用人は部屋の片隅に立っていた。
アイリスに視線を向けていたが、すぐにそらし、腕を組んで壁に寄りかかる。
——怒られなくてよかった……。
アイリスはイリアの対面に置かれたソファーに、アレックスは上座の1人用ソファーに座った。
「アイリスにイリアを紹介したくて今日は来てもらったんだ」
「え?」
「アイリスと似たような女性がいる、と前に話したでしょう?」
「あー……」
アイリスは頷くが、腑に落ちなかった。
——気が合いそうには思えないけどなー。前に意地悪なこと言われたし……。可愛いから許したけど。
「アイリス様、またお会いできて光栄ですわ」
イリアはアイリスに微笑みかけた。
「はい、こちらこそ……」
——前と全然違う! かわいい〜! 立川さんみたいな優しい笑顔だ〜!
アイリスはイリアの笑みに見惚れる。
「アレックスからアイリス様が面白い方だと伺いましたの。是非、仲良くしてくださいね」
「はい!」
——あれ? 今、王子のこと呼び捨てにした……?
「あの……おふたりは友人なのですか?」
「まあ、友人と言って差し支えないかと。イリアにはいろいろと世話になってますからね」
——いろいろ……? まさか、元カノとかじゃないよな? 気になる……。
「アレックス、その言い方だと勘違いされるわ」
イリアは少し呆れ顔を浮かべていた。
「アイリスさん、アレックスと私はただの友人なのよ。だから、男女の仲になったことはないから安心して」
「そうですか」
アイリスはホッとした。
——よかった。女である俺が婚約者の王子とイリアさんを取り合うっていう謎の構図は避けれそうだ……。それにしても、あの人がいると落ち着かないな。何か失言して怒られたくないんだが……。
アイリスは視界の端に映る仮面の男をちらりと見る。
男はずっと窓の方へ顔を向けていた。
——あれ? よく見ると……マントの下に着てる服って……俺の高校の学ランに似てる?
じっくり確認したいところだったが、その男がアイリスの方に顔を向けたので慌てて視線をそらす。
——今はイリアさんたちとの話に集中しないとな。
「そういえば、ハミルトン家は魔術が使えると伺いました。私も練習すれば使えるようになるのでしょうか?」
アイリスは期待を込めて聞いてみた。
——魔法とか魔術って、一度は憧れるよな〜! この世界にも冒険者とかいるのかな〜?
「素質があればできるかと。私でよければ、確認してみましょうか?」
「お願いします!」
「では、両手を前へ出してくださいますか?」
「はい」
アイリスは掌を上に向けて差し出した。
「失礼いたします」
イリアはその上に両手を乗せ、目を瞑った。
——わー! 触られたー!!!
アイリスの顔は真っ赤になった。
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