第52話 ハデス

 オリオンはヒロの変化に気がついて微笑んだ。


「な、なんか……可笑しいですか……」ヒロはぼそぼそと小さな声で恥ずかしそうにいったい。


「いや、やっぱりヒロは綺麗だ」オリオンは本音を吐露する。


「……あまり、見ないで……」ヒロは仕草も女性らしくなっている。


「なに、あの、オリオン様の近くに……!」「ちよっと馴れ馴れしくない!」女達の嫉妬の声が聞こえる。


「失礼するわね!私は誰も嫉妬の対処にしてくれないじゃない!」カルディアは腕組みして女達を睨み付ける。


「カルディア様も可愛いダニよ!」イオが慰める。


「ありがと~イオちゃん!あなたは良い子ねぇ~」カルディアは泣きながら彼女の体にしがみついた。


 オリオンは、ヒリウス王こと彼の父に呼ばれて城へ見参する事になった。なぜかヒロ達もそれに同行するようにとの通知が着たことに皆驚いた。


 城の前には多くの門兵が警護している。オリオンは颯爽とした歩みで前に進んで、城へと続く橋を往来する。


「オリオン兄様~」街の少女達よりも数段高級そうなドレスを纏った少女が走ってくる。それは誰が見ても高貴な者であることが明らかであった。


「おー、カシオペア!久しぶりだね」オリオンのその言葉を待たずにカシオペアという少女はオリオンに抱きついた。その光景を見てヒロは口を尖らせて下を向く。そのヒロの様子を見てカルディアとアウラ達は怖くなり少し後ろにたじろぐ。


「お兄様……、この者達は」カシオペアという名前の少女は酷く蔑むかのような目でヒロ達を見る。


「あ、僕の友達のヒロ君、カルディアさん、アウラちゃん、カカちゃん、そしてイオちゃんだ」オリオンはヒロ達を紹介する。「そして、これは僕の妹のカシオペアだ」カシオペアはヒロ達を睨むように見る。特にヒロには何かを感じたようだ。


「お兄様には不似合いな友人達ですね。まあ、いいわ宜しくね」カシオペアは表情を一変して微笑む。「ねえ、お兄様私の部屋でお話しましょう」カシオペアはオリオンの服の裾を引っ張る。


「父上に呼ばれているんだ、また後で……」オリオンはカシオペアの手を取るとゆっくりと離した。


「もう、絶対ですよ」カシオペアは少し残念そうな顔をしたあと、ヒロの顔をまた少し睨んだかと思うと背を向けて歩いていった。


「感じ悪い。あからさまにヒロに敵対心剥き出しにしてたわ。私は眼中に無いみたいだけれど」それを自分で口にしてカルディアは更に不愉快になったようである。


「すまないね、悪い子じゃないのだけれど、世間知らずで……」オリオンは少しだけ庇うように言った。


「妹……さんなのですか?」ヒロは彼女の態度が兄妹のそれとは違って見えた。


「母は違うよ。彼女は第二王女の娘だ」オリオンの言葉で一夫多妻という言葉を思い出した。王様ならきっとたくさんの妻がいるのであろう。ということは、オリオンもきっとたくさんの奥さんと子供を作るのか。


「い、痛い!」オリオンが声をあげる。


「あっ、すいません、つい……」ヒロは無意識のうちにオリオンの手を指でつねっていた。


「女の子だっちゃねぇ」アウラ達はヒソヒソと話ながら楽しそうに笑っていた。




「ハデス叔父!!」オリオンが突然その名を呼ぶ。


「おお、オリオンではないか!よく無事で戻ってこれたものだ」顎に立派な髭を蓄えた中年の男であった。ヒロ達は一目で胡散臭い人物である事をさっする。


「それは、どういう意味でしょうか?」オリオンは鋭い目でハデスを睨み付ける。


「ん?深い意味は無い。次期王が無事に帰って来た事を喜んでいるのだ」ハデスは髭を撫でながら不適な笑いを浮かべる。「それにしても華やかな従者達だな。いつも単独行動が主義であったお前が……どういう心変わりだ」ヒロ達の体をイヤらしい目で舐め回すようにハデスが見る。その顔を見てヒロは虫酸が走るような感覚を覚える。その視線から庇うようにオリオンはヒロ達の前に移動した。


「ハデス叔父、そういえば腹心のロギンの姿が見えないようですが……」オリオンは少し問い詰めるように言葉を放つ。


「ああ……、ロギンの奴は国に返した。大病をわずらい使い物にならなくなったのでな」吐き捨てるように返答をする。


「先ほど城にたどり着く前に、刺客に襲われたのですが、その中の一人がロギンに似ていたような気がしたのですが……」前の戦いの時に、オリオンが刺客の一人のマスクを剥がして顔を確認していたことをヒロ達は思い出していた。


「この世には、顔の良く似た者が三人は要ると聞く。他人の空似だろう」ハデスは不適な笑いを浮かべる。


「そうであればいいのですが」オリオンは軽く会釈をするとヒロ達に目配せをしてその場を離れた。


「あの方は?」色々登場してくる人物にヒロ達は困惑する。


「ああ、あれは父上の弟のハデス。僕が即位するのが気に入らないらしい。まあ、前にも話したけれど僕も即位する気はないのだけれど……、まあ、気の許せない男だ」オリオンはウンザリした顔でため息をついた。


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