第50話 襲 撃

 ヒロの傷もかなり癒えてきた。

 イオの治癒術の効果はオリオンも今まで見た術師の使う者のレベルを凌駕すると驚いていた。


 カルディアの一度失った腕を再生させた事も、あんな野外でそれも短時間では考えられないということであった。


 ヒロは大事を取ってカルディアの馬に同乗し、ヒロの馬にはアウラが乗る事になった。彼女は上手に馬を操っている。


「師匠はどうしてヒロの事をワザワザ男の子として育てたんだろう?女の子のアサシンだって珍しくないのに……」カルディアは馬の手綱を操る。彼女の腰に手を回し後ろに座るヒロの存在に少し緊張している。それにしても背中にあたる柔らかい胸は自分の物より大きいのではと溜め息をつく。


「そうだな。俺は里の皆と会うことも無かったし、子供達と遊んだ記憶もない。それに……、爺に拾われる以前の記憶も無いんだ……」寂しそうに空を見上げる。


「僕も少し疑問があるんだが、どうしてその君の養父は君の術式を封印していたのだろうか?それとヒロの使うその術式は正直いうと僕達が日頃術式と言っている物とは全く次元の違う物のような気がする」オリオンはその力をたりにして、彼女への畏怖を感じてしまったのだ。今は一時でもヒロに対してそんな感情を持ってしまった自分の事を恥ずかしく感じている。


「そうなんだよな。そんな事をしなければカルディアに剣術以外で負ける事なかったのになぁ」里での訓練ではいつもカルディアに負け悔しくて夜通し泣いた日も珍しく無かった。もし、あの頃に自分が術式を使えたなら、もっと色々な事を出きるようになっていたかもしれない。


「嫌な言い方かもしれないが……、人に会わせず、性別を偽り、術式を封印した。それは自分の所からヒロが逃げないようにしていたのではと僕は感じる」オリオンのその言葉を聞いて一瞬耳を疑った。


「そ、そんな……」ヒロはネーレイウスとの生活に疑問を抱いた事などなかった。むしろ身寄りの無い自分をずっと育ててくれた事を感謝していたくらいである。


「そういえば、ヒロ達の住んでいた場所も凄い密林で入る事も出る事もなかなか難しい場所だったよね」彼女も初めの頃に弟子入りしようと行った時は、何度も道に迷ってしまい出直した事を思い出していた。


「そうまでして、ヒロを里の者と引き離す意味が解らない」オリオンは真剣な顔をして前を真っ直ぐ見ている。


「それは爺が皆から村八分にされていたから……」ずっとそう思っていた。


「いいえ、師匠は里では英雄だったわよ。変わり者ではあったけれど、私が師匠に弟子入りしたって話をしたら、訓練所の師範にまで羨ましいがられたんだもの」里の者と話をする事のなかったヒロにとって、それは初めて聞く話であった。


 会話を続けているうちに、遠くにに大きな城壁が見えてきた。それは今までヒロ達が見てきたブランドーなどの街が比にならないほどの光景であった。


「あれが僕の故郷、アテナイだ」オリオンが指差した。

 

 しばらくすると前方から鎧に覆面姿の男達が馬に乗って近づいてきた。それは誰の目から見ても好意的な存在には見えなかった。

 遠くから弓矢が数本飛んでくる。オリオンとカルディアは馬を操りつつそれを刀で切り落とす。


「何者だ!僕をオリオン王子と知っての狼藉ろうぜきか!!」

 男達は突進してくると無言のまま切りかかってきた。


「問答無用というわけか」オリオンは男の刃をかわして1人切り落とす。その男は馬から落馬して絶命したようであった。


「アウラ!」ヒロはこのままカルディアの後ろに居ては彼女の邪魔になると判断して自分の馬に飛び移った。そしてアウラの後ろに座ると馬の手綱を握りしめた。そして馬の脇に備えていた愛剣を抜き取ると参戦する。


「こ、これ程の手練れだとは聞いてないぞ!?」男の一人が驚きのあまり声をあげる。もっと易々とオリオン達を討伐できると踏んでいたのであろう。しかし、ここしばらくの出来事でオリオンはともかく、ヒロやカルディア、そしてアウラ達も戦闘慣れしているようであった。


 数人の男を切ると、残った者は後ろを振り返りさっさと退散していった。


「逃げられると思うなよ!」ヒロが追いかけようとするとオリオンはその手を横にしてそれを制止した。


「ヒロ、もういい!どうせ、城に戻れば相見あいまみえる事になるだろう」オリオンは馬上から降りると先ほど切りかかってきた男の覆面をむしりとるように奪った。男はやはりすでに絶命していた。


「なるほどな……」オリオンは男の顔を確認して何かに納得したようであった。


 ヒロは愛剣を鞘に収めると、アテナイの城を睨み付けた。


 

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