　カルディアは海中に沈んだヒロの姿を探した。彼女は呼吸を止めて潜水を続ける。

　少し水中に血が混じっているような感じがして川上の方向に視線を送ると、水面に浮かぶ人影が見えた。ヒロだ！

　カルディアは勢いよく水面に浮上するとヒロ目掛けて泳いでいった。「ヒロ！ヒロ！！」カルディアはただ意識を失って水の上を浮いているだけのヒロの体を掴み水辺まで引っ張りながら泳いでいった。

　ヒロの体を引き上げると呼吸を確認する。顔は少し青くなっていて呼吸はしていないようであった。ヒロの体にまとわりついているタランチュラの糸を剥がして人工呼吸を試みようと考えるが一瞬躊躇する。しかし今はそんな場合では無いと頭を振ってからヒロの鼻を摘まんで唇を重ねて息を吹き込んだ。

「ゴホン！ゴホン！」何度か繰り返してから、ヒロが水を吐き出して咳をする。生きているようであった。

「う、ううう……」先ほど岩場に体を打ち付けたせいで背中に大きな裂傷を負っているようである。ヒロの体を横に向けて傷の具合を確認する。かなり酷いようで苦しい表情をしている。

「えっ、これは？」ヒロの胸の辺りに布が強く巻かれておりそれが器官を圧迫しているようであった。

　カルディアは自分の腰に差していた短剣を取り出すとヒロの布を切り裂いてから引き抜いた。その瞬間少しだけ楽になったようでヒロは静かなため息を一つ吐き出した。

「ああ、良かった……」カルディアはひとまずヒロが助かった事で安堵したようだった。

「カルディア様！ヒロ様は大丈夫ダニか！？」イオを背中に乗せたルイが到着した。

「あっ！ルイとイオちゃん！なんとか息を、吹き返したんだけど背中の傷が酷くて……」安心したのかカルディアの目から涙が溢れ落ちそうになっている。

「イオに任せるダニ！」イオは勢いよくルイの背中から飛び降りるとヒロの背中の傷に手を翳（かざ）す。イオの手が青く輝きヒロの傷を癒しているようであった。ヒロの血色が少しずつ回復していく。

「カルディア様、他にも傷がないかヒロ様の体を調べるダニ！」イオは回復術を使いながらカルディアに指示する。

「そ、そうね……」カルディアは、ヒロの体を確認していく。目視で見える腕、足は折れてはいないようだ。「ヒロ！ここは痛くない？」あばら骨の辺りを優しく触る。反応はないようだ。胸の辺りの損傷が無いか確認をする。

「えっ……！？な、な、何よ！？これ……！！」カルディアは驚きのあまり腰を抜かす。

「どうしたダニ！？なにか異常でもあったダニか！？」イオは手を翳したままカルディアの異変に気づいた。

「ヒ、ヒロに……、おっぱいがあるの！！･･････もしかしたら、さっきのアサシンが術式を！ヒロに何か……、体が女の子になっちゃう呪いをかけたんじゃ！！」カルディアは心配そうにヒロの顔を見つめる。頭が混乱しているようであった。

「カルディア様は何を言っているんダニよ？ヒロ様は女の子ダニ。おっぱいがあって当たり前ダニ！自分より大きくて驚いたダニか！？」イオは当たり前の事を聞くなという態度であった。

「えっ！？ヒロが女の子って……、何馬鹿なこと言っているのよ！私はずっとヒロといるけど……」そういえばヒロの裸などまともに見たことがなかったし、ずっとヒロが男の子だと信じ込んでいた。それにヒロからも自分が女の子だなんて話を一度も聞いたことがなかった。出会ってから先ほどまでヒロが女の子だなんて考えた事など無かった。

　その時、女装をしたヒロの姿、オリオンとのやり取りなどが頭の中を駆け巡る。その途端カルディアは気を失ったように後ろに倒れた。

「カ、カルディア様が！……さすがに二人は無理ダニ！！」イオは反対の手で頭を抱えた。