第43話 ヒロミ
ヒロは約束通りイオに肉マンを買ってやる。イオは美味しそうにそれにかぶりついた。
「いいな、これであの件は内緒だぞ」ヒロはイオの耳打ちをするように呟いた。
「解ってるダニ!ヒロ様が頭に綺麗な花の飾りを着けて可愛らしい女の子の格好で街を歩いていた事は誰にも言わないダニ!」元気にイオは返答をする。
ヒロは慌ててイオの口元を塞いだ。
「えっ?女の子がどうかしたの?」カルディアがイオの声を
「いや!なんでもない!なんでもない!!」ヒロは激しく否定をする。
「ふーん、可笑しいの……」カルディアは首を傾げて何処かへいった。
「イオ!」
「すまないダニ……、もう髪飾りの事は言わないダニ」これは気を付けないといけないとヒロは感じていた。
オリオンを先頭に、ヒロ達は彼の故郷アテナイを目指す。途中、オリオンとヒロはあまり会話を交わすことがなかった。間に挟まれるようなってカルディアはなんだか空気の重さに耐えられるか不安になっていた。
「あ、あのディアナは来ないのかしら?」取り繕うようにカルディアは聞く。
「あ、ああ、さすがにディアナがあの格好で来ると城の者達は驚くだろう。ディアナも自分の住まいでゆっくりとしたいと言っていたからな」オリオンが答える。
ディアナはハルピュアとの戦いの功績を評価されて無罪放免となったそうである。実際、少女達の監禁の罪はあったが誰一人殺した訳ではなく、少女達にも十分な食事を与えていた。ヒロから街の人々への懇願もあり、今回は不問にする事になった。
街を出る時には、たくさんの女性が見送りに来て一行の出発を惜しんだ。その大半はヒロに向けられたものであり、涙を流すもの、ヒロに思いでの品を渡すものなど後を経たなかった。
カルディアは嫉妬しつつも、ざまあみろと言う気持ちが半々を占めていた。
「あっ、羊飼いだっちゃ!」アウラが放牧のされている羊を見つける。
「見てくるがいい」オリオンがアウラ達に言うと楽しそうに駆けていく。
「ヒロ様と、カルディア様もくるダニ!!」イオはヒロの手を繋ぎ引っ張る。
「あ、ああ」ヒロがオリオンの顔を見ると、彼は笑顔で頷いた。
「うわぁ、可愛いい!」カルディアは女の子らしい声をあげる。そこに一匹の犬が走ってくる。羊が逃げたさないように牽引をする牧羊犬であった。その牧羊犬はカルディア達の間を縫って一目散にヒロに飛びついてきた。
「ヒロ様!危ないちゃ!」しかし、よく見ると尻尾を激しく振り喜んでいるようであった。ヒロがその手で犬を
「あはははは、くすぐったいよ!ピーター!」ヒロは思わず犬の名前を読んでしまう。
「何で犬の名前を知ってるっちゃ?」アウラは不思議そうに
「あっ、いや、……そんな気がしたんだ。ピーターって顔をしてるだろ」適当に誤魔化そうと試みる。
「言われて見ればそうだっちゃねぇ」なんとなくアウラは納得しているようである。
「ピーター!」犬の名前を呼ぶ声がする。声の主は少年であった。
「あっ、申し訳ありません!もしかして……騎士のヒロ様ですか!?」少年は目を輝かせている。今日、オリオン王子と一行のが旅立つ事は皆熟知しているようであった。
「え!ヒロって有名人なのね!!」カルディアは驚きの声をあげる。
「いえ、あのもしかして、カルディア様ですよね」少年はカルディアの名前も知っているようであった。
「もしかして私も有名人なの!?」カルディアは歓喜の声をあげる。ヒロは少年が先日ヒステリックと言っていた事を思い出して思わず吹き出してしまった。
「ぼ、僕はダフネスと言います。あの……、騎士のヒロ様の話を聞いて、ずっと憧れていました。え、ええと……、握手をして頂いても良いですか?」ダフネスは恐る恐る右手を差し出した。
「いいよ、ありがとう。ダフ。君の事は忘れないよ」ヒロはダフネスの手を優しく握りしめた。
「えっ!?あ、はい、ありがとうございます!光栄です!!」ダフネスは突然愛称で呼ばれて驚いた。そして、ヒロ達は羊達としばらく遊んだ後、放牧地を後にした。
「ああ、ヒロも今日来ればヒロ様に会えたのに……」ダフネスは、ヒロミという名の少女に来ないかと少しだけ期待を膨らませていた。しかし、彼の前にあの少女が現れる事は二度と無かった。
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