第36話 君の歌
オリオン達の計画した作戦はこうであった。
まず、積み荷を乗せたと見せかけた馬車と商人達が砂漠を横断する。
それを襲うべく飛び出してきたハルピュアを迎え撃つ、そして奴の戦力を削ぐ為に、ディアナの術式を使いカルディアの歌声を砂漠中に伝わる位大きな音で拡散しハルピュアの戦意を喪失させた所を、オリオンとヒロ、そしてアウラ達で仕留めるというものであった。
カルディアはディアナと共にスフィンクスの背に乗りハルピュアの出現を待っている。
「ヒロ様、アウラ達はルイと一緒に行動するっちゃ」アウラ達三人はルイの背中に股がり移動する。ここ最近の戦いで経験を積んだ事によりこのカルテットのコンビネーションは抜群に相性の良いものになっていた。
オリオンの使い魔、火の鳥フマもすでに空中に待機している。
「ハルピュアの奴やって来ますかね?」ヒロはオリオンに尋ねる。
「ああ、ここ最近はハルピュアを警戒して移動する商人の数が減っているので奴も飢えてきてるだろう。きっと来るはずだ」オリオンは自信満々で答える。
地響きが始まる。ヒロはディアナに監禁されていた時に起こった地震を思い出した。たしかにその規模と揺れ方があの時の地震に似ている。
「オ、オリオン様!あれを……!!」商人の一人が指を指す。その先の砂がまるでアリ地獄のように辺りの砂を吸い込んでいく。その中央から大きな女の顔があらわれる。
「ハ、ハルピュアだ!!」男達は悲鳴のような声を上げた。
「お前達は、馬車を捨てて逃げるんだ!!」オリオンが指示する。男達は急いで馬車から馬を離して逃げていく。ハルピュアの目的は荷物のようで逃げていく者を追う素振りは見せなかった。
「ヒロ!行くぞ!!」
「はい!!」オリオンの掛け声を合図にヒロはハルピュアに近づいていく。
荷馬車を物色していたハルピュアは、馬車が空なのを知って激怒しだした。ヒロとオリオンに姿を見つけると奇声をあげながら走ってくる。その大きさは馬三頭ほどの大きさで、翼を使って空を飛ぶことも出来るようであった。獣の前足でヒロめがけて爪を立てその体を切り裂こうとする。ヒロはその攻撃を刀で受け止める。
「な、なんて力なんだ!!」ヒロは今まで受けた獲物の中でもこんなに威力のあるものを経験したことはなかった。オリオンがハルピュアを横から切ろうとするが刃の羽で受け止められてしまった。
二人は後ろに下がって距離をとった。ハルピュアも二人の隙を探るように唸り声をあげている。
「カルディア!歌を!歌を頼む!!」ヒロがカルディアに歌を唄うように指示する。
「あ、はい!任せて!ディアナ、お願い!」カルディアは喉の調子を整える。
「解ったわ」ディアナはカルディアの口元に手をかざしたかと思うと、もう片方の手を宙に向けた。これで所謂、人間スピーカーのような役目を果たすそうだ。
「えーと、あ~あ~」カルディアの歌声が響き渡る。
その瞬間、ハルピュアの動きが止まる。
「えっ!?」ヒロは目を見開く。
「な、なに!」オリオンも感嘆の声をあげる。
「これは……!?」カカとイオが顔を見合わす。
「これは、あの地獄の亡者の歌声だっちゃ……!!!」アウラは顔を真っ青にして耳をふさいだ。
どうやら、アウラ達が昨夜、宿屋で聞いた呪われた声とは、カルディアの歌声だったようだ。
スフィンクスの上で気持ち良さそうに歌うカルディアの姿が見えた。
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