第30話 依 頼

 それはある商人からの嘆願であった。


「オリオン様、私達商人は遠くの町からこのバーブンへと食料を運んでいるのですが……」このバーブンという町は商業は栄えているのであるが、食物を作ったり動物を飼育して食料に変えるなどの自給行為はほとんど行われていない。ほぼ他の街からやって来る商人から仕入れで生活をしているそうた。


 最近、その商人達が食物を運ぶ途中に怪物に襲われるという事故が多発しているそうであった。なかなか一介の商人達ではその化け物を退治する事など難しいということであった。


 それで、先日のディアナの一件を解決したオリオン王子に白羽の矢が立ったということであった。


「ヒロどう思う?」オリオンがヒロの意見を求める。


「そうですね……、オリオンがやれというなら俺達は従いますよ」ヒロは腕組みをしながら真剣な顔をして答える。


「あ、あの、ちょっと良いですかね……」カルディアが何かを不思議に思ったらしく手を上げた。


「なんだい?」オリオンがカルディアに微笑む。


「二人は、いつからそんなに呼び捨てで呼び合う中になったんですか?」突然の二人の変化にカルディアはなぜか焼きもちでも焼いているようであった。


「あっ、いや、これは……」なぜかヒロの頬が赤くなった。目が宙を泳いでいる。


「オリオン!オリオン!オリオン!」イオが嬉しそうに走り回っている。


「こら!イオ!ダメでしょう!!」カルディアはイオの口を塞ぐ。


「あはは、いいよ。イオ。こっちにおいで」オリオンは優しくイオに手招きをする。「これからは僕の事を遠慮なくオリオンって呼んでおくれ。僕もイオの事はイオって呼ぶからね」イオはオリオンの膝の上に座る。

「うん!オリオン!」イオは嬉しそうに名前を呼んだ。


「でも、そんな……、王子様を呼び捨てだなんて……」カルディアは張本人のヒロを少し睨み付ける。ヒロはその目を反らすように宙を見つめた。


「カルディア。君も僕の事は名前で呼んでくれ。僕は君達とは友達でいたい。君達ともっと仲良くなりたいんだ」オリオンは逆に頭を下げた。


「そ、そんな、頭を下げないでください……。解りました……、でも急には難しいかもしれませんが、ゆっくりでいいですか?」カルディアは恥ずかしそうに返答する。


「いいよ、それで。カルディア」オリオンは笑顔でカルディアを見つめる。カルディアもオリオンに呼び捨てにされて、なんだか胸の奥がキュンとしたような気がした。


「では、話をもどそうか。どうやらこの砂漠に化け物が出現するらしい。その名前はハルピュアというそうだ」オリオンが説明を始める。


「なんだか可愛い名前だっちゃね」アウラとカカ、イオも作戦会議には参加している。過去の戦いにおいても彼女達の力は十分に戦力として役に立っている。


「名前は可愛いかもしれないけれど、その姿は上半身が人間の女、鷲の爪を持ち、その羽は刃になるらしい」オリオンは商人から聞いたハルピュアの特徴を説明する。


「オリオン様、人の体というからには知性があるのでしょうか?」ヒロが質問する。思わず呼び方を間違えてしまう。


「オリオンダニ!!」イオが突っ込む。ヒロは咳払いをしながらかるくイオを睨み付ける。


「そうだね、イオ。多少の知性はあるようだね。でも話が通じるような相手ではないようだ。助けを懇願した者も容赦なく喰われたそうだ」オリオンは膝の上のイオの頭を優しくでた。


「そうなんですか……」ヒロは出来れば戦闘を避ける事を優先したいと考えていた。ただ、話の通じない化け物であるならばそれは致し方ない。 


「それと、ハルピュアに詳しい者に心当たりがあるんだが、ヒロ、僕と一緒に同行してくれるかい?」オリオンは軽くウインクをしながらヒロに聞いた。


「えっ?……ええ、解りました」オリオンの発したその意味をヒロはよく理解出来なかった。

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