あの夏リメイク

井沢 翔

pray

 小学校の最後の夏休み。俺は黙々と一つのゲームを遊んでクリアした。

 世間はオリンピックに沸いていたようだけど、関係なかった。セミ達の大合唱も耳に入らず、じりじりとした暑さも気にならず、毎日毎日飽きもせず父さんに叱られるまで遊んだんだ。

 あれから八年が経った。相変わらずセミはうるさいし、空調も音ばっかり大きくてまったく効きやしないけど、叱ってくる人は誰もいない。

 ちょっとした躓きだったんだ。ゲームばっかりやっててもモテないし、将来の役にも立たない。気味悪がられるだけだって知ってたから、俺は隠して見栄張って嘘で塗り固めた自分を演じ続けて……それで何もかもがバレた時、俺は動けなくなった。


 俺は今、引きこもりだ。


 なけなしの金で買ったゲーム機に、そっとあの日のゲームをセットする。正確にはリメイク作品だ。

 あの夏みたいにまた夢中になれるかなって。そうしたらもう未練なく逝けるかなって。好きだったゲームを、また愛せたらそれでいいやって。そう思って発売をずっと待っていた。なんにもせずに待っていた。

 冒険が、始まる。

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