懐かしい吹奏楽部(吹奏楽部あるあるを読んで)

 思い出というのは、何かきっかけがないと鮮明に思い出せない。今までに体験したことの記憶はすべてあるはずなのに、「その時どうだったか?」と聞かれると大抵忘れている。

 それでもきっかけに触れれば「ああ、そうだった!」と懐かしく思い出される。


 以前本屋で「吹奏楽部あるある」という本を見かけ、懐かしくなって買った。

 私は吹奏楽部だったが、もうきつかった練習のことはあまり思い出せないし、楽器も吹けないだろう。これから先、楽器と関わることもないかもしれない。それでも「吹奏楽部あるある」を読んでみるとどれも「そうそう!」と頷けて、吹奏楽部とのご縁を感じられた。自分は体験しなかったような話でも身近に感じられ、他の学校の吹奏楽部の雰囲気を覗けたようで楽しかった。今でも吹奏楽部の一員であるような気持ちだ。


 吹奏楽部には、吹奏楽部特有の空気が流れている。吹奏楽部に限らず他の「世界」でもそうかもしれないが。本を読んだことで懐かしい記憶を刺激された。仲間とあちこちのホールで練習したこと、舞台に上がったこと、3Dバンド・ブックで練習したこと、色々な吹奏楽曲に触れられたこと、練習中にみんなの音が合わさったこと、演奏会で演奏したこと、文化祭の演奏で盛り上がったこと……。


 メトロノームやチューナーなどの道具も懐かしい。

 よくロングトーンで肺活量を鍛える特訓をしたっけ。腹筋などの筋トレもやったし、学校のまわりを走ったこともあった。


 もちろん良い思い出だけじゃなく、空気の読めない私は怒られることもあったし、今思うと良くないことをしたなという失敗も多い。練習も毎日あってキツかった。


 それでもなんだかあの頃は毎日が輝いていて楽しかった。学校の雰囲気自体好きだったのかもしれない。クラスメートも面白かったし、授業も物作りをできたりして好きなのがいくつかあった。学校には中庭があり、中庭や学校のまわりを散歩したりもした。一人でいる時間も多かったけれど、あれはあれで青春だったんだろうな。



 きっかけがないと思い出せないことでも、こうして思い出してみると次から次へと出てくる。


 合奏していたときは、ホルンのメロディーが綺麗でいいなぁと思った。あと、アフリカンシンフォニーで出てきたティンパニの音がカッコよかった。勢いのある曲のラストを盛り上げるスネアドラムもカッコいい。


 薄暗いホールの雰囲気や、他の学校との合同練習も懐かしい。



 そういえば仮入部の時……。まだ部活が何かを知らなくて、敬語を使わなくてはならないということも知らなくて、新一年生はみんなタメ語で先輩と楽しそうに喋りながら楽器を吹いていた。

 私は進研ゼミの本で「部活では先輩に対して敬語を使う。上下関係が大切」という話を先に読んでいたけれど、先輩たちは仮入部では誰もそんなことを言わなかったし、新一年生も誰も敬語を使わなかったので、「あれっ? おかしいな、あの情報が間違っていたのかな……」と空気に流されていた。


 しかし入部してみると途端に上下関係は厳しくなり、練習もハードになった。しばらくはそれでも早く帰らせてもらえたけれど、その後、家に帰る頃には既に暗くなっているという事実に驚いた。

 演奏や練習、挨拶の仕方にやる気がないと先輩や先生から叱られることも多くなり、サボれない、ふざけられない空気ができあがっていた。やっぱり吹奏楽部は厳しかった。



 さて、厳しくも楽しく、懐かしい吹奏楽部だけれど……今、あの頃に戻れるとしたらどうだろう。もうダメだろうな。今では私は頑張らなくて済む方法を考えているし、上下関係も好きじゃない。厳しく言わなくても伝わるであろうことをあえて厳しく言ったり、努力を美徳とする風潮にも納得できない。


 それでも……。

 あの頃は一応努力し、頑張っていたからこそ得られていた輝きがあったのだと思う。精一杯頑張れば、居心地が悪くなることはない(自分で居心地が悪いと思わなければ)。


 私は今後、あの時以上の輝きをつかめるのだろうか……。いや、つかむしかない。過去の輝きを懐かしんで力を得つつ、これからは自分のやり方を探そうと思う。

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