第4話 悩める天才少女
美雪との約束の翌日、
「虎徹。今日はやけに楽しそうだな。なんかいいことでもあったのか?」
いきなり心を見透かされ、虎徹は動揺する。しかし、同時に気になったのが、いつもよりも元気のない唯の様子だった。身長145cmと
「べつに、俺はいつもと変わらないよ。是川さんこそ今日は元気なくないか?」
「まあ、アタシにもいろいろあるんだよ……」
クセ毛交じりのショートヘアをかき上げながら唯は言葉を返したが、やはりそこにもいつものような力強さはない。
そこで虎徹が思いだしたのは、朝のニュースだった。詳しくはわからないが、世界中で株価が急落しているとかなんとか。彼女が運用している投資ファンドでも損失が発生しているのかもしれない。
「ニュースで
「ああ。予想どおり下がったから、そこそこの利益になったよ」
自分のような
「なあ、虎徹。高校時代にしかできないこと。いまこの時間にしかできないことって、なんだと思う?」
常に
「そうだなあ……。恋愛したりとか、友達と思い出を作ったりとか?」
ありきたりだと思ったが、彼にはそれ以上の答えが見つからない。
「そういうのとは、ちがうんだよなあ……」
深いため息をついた唯は、そのまま机に
「唯ちゃん。元気だしなよ。きっとなんか見つかるって」
明るい口調で唯に声をかけたのは、彼女の前の席に座る
しかし、彼女の
「是川さん。なにかあったの?」
「うん。じつは唯ちゃん、会長に……」
「舞。
唯をはさんで前後に座る双子の
妹の
また、兄妹共に切れ長の鋭い目つきの持ち主であり、その視線は
しかし、クラスでは明るく社交的で、唯に対しても友人のように接している舞に対して、どんなときでも冷静沈着で、常に唯には敬語をつかう剛。双子の兄妹であるにもかかわらず、二人の性格と態度は正反対だった。
「ごめん。兄さん」
うっかり口をすべらせたことを舞はあやまったが、このやり取りを聞いていた唯が、体を起こして剛に言葉をかける。
「べつに話してもいいよ。虎徹からアイデアをもらえるかもしれないしな」
彼女の言葉に剛はすぐさま従う。
「唯様がそうおっしゃるなら自分はかまいません。
「了解!」
こうして虎徹は、唯が直面している問題について舞から話を聞くことになった。
是川唯は、
順調にその能力をのばしていった彼女は、11歳でアメリカの名門大学に飛び級で入学し、優秀な成績をおさめて15歳で卒業した。
また、この時期に彼女は、
生まれ持った優秀な頭脳と、大学で学んだ豊富な知識。そして、
彼女は、祖父が設立した投資ファンドを運用し、すぐさま
原因は、唯が仕事にのめりこんでしまったことだった。彼女は投資以外のことにほとんど関心をしめさなくなり、食事や
このままでは唯が壊れてしまう。
「高校生のいましかできんことを見つけて、それに打ちこめ。投資もやるなとはいわんが、
それが、祖父から唯にあたえられた課題だった。しかし高校二年の夏になっても、彼女は打ちこめるなにかを見つけだせずにいた。
おおまかな
「おまけに、昨日じいちゃんがブチ切れて、9月の終わりまでになにも見つけられないなら投資は一生やらせん! だとさ。まったくふざけた話だ!」
怒り
「そういうわけなんだけど、なんかアイデアないかな?」
シンプルにいえば祖父と孫娘のケンカだ。けれど、住んでる世界がちがいすぎて自分にだせるアイデアなんてない。それが虎徹の正直な感想だった。
「ごめん。すぐには思いつかない……」
「いいよ。気にすんな。そんな簡単に答えが見つかるなら、アタシもこんなに苦労してないしな」
虎徹に言葉をかけた唯は、再び深いため息とともに机に突っ伏してしまった。そんな彼女を舞がなぐさめる。
「大丈夫だよ唯ちゃん。9月までにはきっと見つかる。そのために、夏休みは世界中を旅するんだし」
自分探しに世界旅行か……。虎徹はそのスケールの大きさに、ただただおどろくしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます