第10話 東洋の盟約
前書き
10~12話は完結編なので、後は読んでからの御楽しみと致しましょう!
ツリピフェラ「(小声)アスピスの身内と、皆で戦う相談をしていたの?」
聡「(小声)天使の話を振った事は状況から分かるとしても、何でそこまで分かったのかな?」
ツリピフェラ「(小声)セフィリカ様は、自分の傷は割と大丈夫だけれど、人の傷は違うの。 ツリ達にも、そんな彼女を放ってはおけないの」
聡「(小声)まさか、ツリピフェラちゃんの口からそんな戦意が聞けるとは思わなかったよ」
ツリピフェラ「(小声)木本の皆は昔から争い事は良くないとして来たけれど、それが理由でシュクレの1000人位と東洋怪異の3000人位を救えなかった事をずっと悔いて来たの」
聡「(小声)むしろ、木本が止めに入ったから東洋怪異も犠牲が増える前に撤退できた様にも聞こえるけれど。
何れにせよ、プリバドの皆が動いてくれるのなら、とっても心強いよ」
むしろ、一気にロウ・エンジェル側の敗走フラグが立った気がするよ。
戦う以上は無慈悲が必要だけれど、僕等にとっての勝利条件は少なくともアスピス以外に犠牲を出さない事だし……セフィリカさんに慎重な作戦を立てて貰うためにも今の内は敢えて伝えないでおこうか。
聡「(小声)ねえ、セフィリカさん。
相手の人数や装備ついて、分かる範囲で教えて欲しいな」
セフィリカ「(小声)そうですね。
本来は落ち着いて話す事なのですが、先を急ぐ訳ですし。 過去のロウ側の人数は私達の三倍だった様なので、戦力もアスピス単体の3倍程度でしょう。
彼女等は、細身な聖剣や背丈の2倍程の長さの槍による近から中距離戦に、光の魔法具による射撃を組み合わせる魔法戦士の筈です」
聡「(小声)そうかな? アスピスの皆がこの地に移住した時に東洋怪異とかが与えた国土によっては、国土面積30が45近くになった物に同基準の45°分の援軍を足した物で、これだけでも五分五分にはなりそうだけれど。
スノードロップ側が援軍と言っても相手は遠征な訳だし、遠距離同士での防衛戦ならかなり有利に見えるけれど。
ただ、きっと相手も光の補助魔法に阻まれる刺突だけでは来ないよね」
セフィリカ「(小声)確かに、歴史書には魔法技術と引き換えに十分過ぎる程の国土を譲り受けたという記載も有りましたが、それは隣国に対する恩恵の表現かも知れませんし、相手が見えない以上、そう言った意味での警戒もしておくに越した事は有りませんからね」
良かった。 やっぱり、別にこの辺りの事を理解していない訳では無いんだね。
聡「(小声)ところで、騎兵……乗り物を使う兵士は居るの」
セフィリカ「(小声)私達と同じであれば、その様な戦法は今も開発されていない筈です。 光の魔法具による飛行は、それだけ便利ですからね」
聡「(小声)勝算は高いけれど、中型種だけの戦争だと、前衛の犠牲は避けられないよね」
セフィリカ「(小声)そのための魔法具の過剰生成なのです。
スノードロップとの共闘を前提とすれば、視野を遮る氷の第四補助魔法も有るので有利に戦えます」
聡「(小声)ミックスフロート・アロー程じゃないにしても、あれと第五魔法を相手の視野外から使えるのなら、確かに安定して勝てそうだね」
セフィリカ「(小声)そう言う事です」
それでも、相手の戦力が予想以上に高い可能性も有る。
確かに、光は部分反射する水系にも通りが悪い分重量弓のアスピスなら有利だし、セイレーンが安全な所から魔力を分け与える可能性も有るから有利と言えば有利だけれど……前線には、犠牲の覚悟が必要だよね。
遠距離ベースで身代わり石も有る訳だから、硬派な戦記物であれば、ある程度筋の通る戦術だけれど。
聡「(小声)……提案して良かったかも。
皆がある程度までなら身代わり石で耐えられる上に、水龍があれ程強い世界なんだから、特に火龍には強者としての務めを果たして貰わないと」
セフィリカ「(小声)サラマンダーとは、そんなに強いのですか?」
聡「(小声)民兵にも、ロウ側の装備だと
セフィリカ「(小声)問題は、彼女等に協力して頂けるかと、合流が上手く行くかですね」
聡「(小声)かなりの豪傑だからね。 正直後者の方が心配だよ」
セフィリカ「(小声)対岸側で火属性の大型種ですからね。
こんな風に言っては失礼ですが、援軍に来て頂ける場合でも、プレシアや東洋怪異を主軸に考えた方が良いかも知れませんね」
聡「(小声)そうだね。
早く勝つ事よりも、犠牲を出さずに粘る事の方が重要になるからね。
……それじゃあ、御城が見えて来たし僕等は東洋怪異に行って来るよ」
セフィリカ「(小声)御願いします。
昨今の利害関係を考えると、私達には信用が無いので」
聡「(小声)この話に便乗して隣国の戦力を削ごうなんて、そんな事をセフィリカさんが考える訳が無いのに。
第一サラマンダーは削げないし、強国を裏切るのは危険過ぎる」
セフィリカ「(小声)私も、そこまで分かって頂ける聡さんに任せれば大丈夫と信じています」
聡「(小声)ありがとう。
期待に応えられる様に、魔法の練習も含めて頑張るよ」
セフィリカ「(小声)こちらこそ、本当に有難う御座います。
どの国にも準備は必要ですし、援軍の有無に関わらず、決行は26日後の吉日以降にした方が宜しいですね」
聡「(小声)そうだね。
模擬戦も吉日にした訳だし、皆もその方が合わせ易いよね」
こうして、セフィリカさん思いな御付きの御蔭も有って移動中に話を纏める事ができた僕は、二人と共に再び風珠に乗って歩を進めた。
東洋怪異の衛兵も、ロピスを乗せた風珠であれば、民家の少ない地域を移動する分には夜中に風珠が浮いていても口出しする気は無いらしい。
マリアンナ「夜中ですのに通して頂けるなんて、流石はプレシアの秘宝ですね」
ツリピフェラ「ツリ達を見た時点で、ある程度は察してくれていたみたいだったの。
実際、彼女等が睨みを利かせているのは両側の大国までだけなのかも知れないの」
聡「スノードロップは真反対だし、プリバドは連立国の森側だからね。
警戒心は薄いんだね」
ツリピフェラ「そう言う事なの。
ところで、丁度林の中だし、そろそろ御風呂にしましょう。
向こうに開けた所が見えるし、膨らむ御風呂もちゃんと積まれているの」
単一種で建国している古風な世界だから、小規模な貿易や戦争以外では夜に移動する人なんてほぼ居ない筈だし、脇道の広場をそんな風に使ってもちゃんと片付ければ問題無いんだね。
聡「大体想像はしていたけれど、やっぱり風珠みたいに膨らませるタイプなんだね」
マリアンナ「少し子供っぽいですが、子育てみたいで良いじゃないですか♪」
何気なく言われた一言に、僕は真赤になってしまう。
確かに、この人はそう言うのがとても好きそうだけれど、こんなに女性の魅力が凄い人が相手だと、僕も意識しないではいられない。
ツリピフェラ「子育てと言うより、新婚さんなの」
マリアンナ「わ、私は別に、子供が欲しい訳じゃないんですからね!」
マリアンナさんも、それだとツンデレ御姉様だよ。
お姉ちゃん付けは、控えめにしようかな?
マリアンナ「……聡様も、一緒に入りましょう♪」
子供向けな家庭用のプールを80cm位の深さにした物に、火と水の魔法具で作った御湯を満たした御風呂に二人で浸かりながら、マリアンナお姉ちゃんは僕を誘う。
聡「マリアンナさん……嬉しいけれど、抵抗が有ると言うか」
マリアンナ「ああ、深めの御湯が怖いのですね。
それでは、私が支えて差し上げますから、安心して入りましょうね♪」
彼女は、この世界の住人らしい勘違いをしながら、両手を広げて柔和に微笑む。
ツリピフェラ「それじゃあ、ツリも……」
聡「ツリピフェラちゃんには、髪を撫でて欲しいな」
支える目的でこの子に押さえられるのは、流石に怖い。
可愛いし、気持ちは嬉しいけれど。
ツリピフェラ「分かったの」
マリアンナ「あらあら、小さい女の子に甘えて、可愛いのですね♪」
こうして僕は、二人と一緒に入浴した訳だけれど、これだと何だか落ち着かない。
聡「ツリピフェラちゃんも、魅力凄いよね。
お兄ちゃん想いで、いつも見ていてくれるし」
マリアンナ「確かにツリピフェラちゃんは、私よりも御主人様を大切にしていますよね♪」
聡「マリアンナさんだって」
ツリピフェラ「聡お兄さん、マリアンナお姉さんも、良い子良い子なの」
聡「ツリピフェラちゃん、ありがとう。
こんな風にされたのは子供の時以来だから、何だか新鮮だよ。
御蔭で、この世界での生活について、もっと聞きたくなって来たよ」
ツリピフェラ「何でも聞いてなの。
でも……ツリにも答えられない事は有るかも知れないの」
聡「そう言う事は聞かないから、安心してね」
マリアンナ「そうですよね。 聡様も、ツリピフェラちゃん想いですし♪」
御風呂の後の遅い夕食でも色々と聞いてみたら、ミックスフロートには貿易用の物も10 隻程有る事や、プリバドの森の魔力の実の一部には魔法の発動を補助する物が有る事も分かった。
シュクレの人数に対して船が少ないと貿易も控えめになるし、上下関係も希薄なら過労という概念は無い筈だけれど、魔法中級者向けの実まで有るなんて、つくづく良心的な世界なんだね。
それと、全員がケモ耳な割に御堅い御国柄の東洋怪異には別の意味で既視感の有る四聖獣も居る事が分かった。 古典東洋の筈だから、礼節には気を付けないとね。
翌日、僕が目を覚ますと、風珠は少し遠くに町が見える所まで湖側を進んでいた。
聡「ツリピフェラちゃん、お早う。
僕等が寝ている間に、こんなに進んでくれたんだね」
マリアンナ「ツリピフェラちゃん、お早う御座います。
あんまり寝ないで大丈夫なのですか?」
ツリピフェラ「ツリはプリバドだから、そんなに寝なくても大丈夫なの」
聡「それは、草本を含むプリバド全体の特徴なんだね」
ツリピフェラ「そう言う事なの。
それよりも、四聖獣の朱雀さんに観察されているの」
その言葉と共に、僕はびっくりして飛び起きた。
何て心臓に悪い鳥耳っ子なんだろう。
ツリピフェラ「こっちに来たの。
知り合いのツリ達が前に立つから、安心してね」
僕等が風珠から降りると、金色の羽根飾りを付けた赤いプレシア兵の様な女性がそこに居た。 剣も火龍達の
刀ではない理由は土魔法の防御壁を突破するためだろうけれど、部分損傷によって消す事ができる物理防御魔法が、そんなに固いんだね。
朱雀「御待ちしておりました。
御城まで案内しますから、安心して付いて来て下さいね♪」
あれ、意外と柔和なお姉さんだね。
中型種の女性だからかな?
聡「有難う御座います。 僕は志方聡って言います。 宜しくね」
朱雀「聡さんですね。 こちらこそ、宜しくね♪」
やっぱり、マリアンナさんの様な柔らかい雰囲気のお姉さんなんだね。
銀色の五芒星の魔法具を付けて炎の翼を纏う飛行型の時点で、絶対に強い回避極だけれど。
マリアンナ「思えば、朱雀さんと直接会うのも御久し振りですね♪」
朱雀「そうですね♪
御互いに対岸の付き人同士ですし、普段は吉日の連絡止まりですからね」
マリアンナ「御元気そうで何よりです♪
玄武さんは特別頑強ですが、白虎さんや青龍さんは御無沙汰しておりますか?」
あれ? 四聖獣なのに、普段から一緒に行動していないの?
まあ、虎と龍ならそれもそうか。
朱雀「あの二人は、いつも通りです。
今頃、自軍を宣伝しに養成所巡りをしている筈です」
マリアンナ「精が出ますね」
聡「ねえ、朱雀さん。
四聖獣って、別々に姫君の親衛隊を持っているの?」
朱雀「その通りです。
ですが、そのために彼女等はいつも部下探しを競い合っているのです」
聡「それだと、貫禄の有る玄武さんならまだしも、朱雀さんの所に強者が集まらなくない?」
朱雀「それも一理有るとは思いますが、武道を志す人は必ずしも覇道的では有りませんからね。 私達の部隊には、弱きを守るために剣を持った、技量を尊ぶ方が多いのです」
マリアンナ「力の龍虎、武略の玄武、心技の朱雀と言われる訳ですね」
聡「要は、四人が揃っていたら割と無敵という事だね」
朱雀「勿論プレシアとサラマンダーの連合軍や、木本プリバドという例外も有りますがね」
そう言いつつ、朱雀さんはシェリナさんの様に苦笑いをする。
ツリピフェラ「ツリ達は、そんなに怖い生き物じゃないの」
聡「そうやって謙遜する所が、木本らしさだよね」
振り向き際にそう言うと、ツリピフェラちゃんは頬を赤らめマリアンナさんは柔和に微笑む。
朱雀「木本にも、可愛らしい一面が有るのですね♪」
聡「お姉ちゃんだって」
朱雀「クスクス、御上手なのですね♪」
すっかり彼女と打ち解けた僕等は、町に着くまでにこの国の風習についても聞いておいた。
朱雀「ですから、聡さんの周りには、その様な問題は起こらないと思いますよ。
それでは、町には玄武さんが居るので、私の案内はここまでとしましょう。
また御会いしましょうね!」
聡「有難う、朱雀さん。 またね!」
ツリピフェラ「またねなの」
マリアンナ「また御会いしましょうね♪」
朱雀さんと分かれた直後に僕等が町に着くと、そこは武家の古民家を小振りにした様な家々が建ち並ぶ、作物と髪型は古典的な防風林の有る城下町だった。
そして、町の入口には衛兵とは明らかに異なる黒い重厚なオリハルコンアーマーに身を包み大型のメイスを装備している、いかにも武略と言った雰囲気の大型種の女性が待って居た。
朱雀さんの剣もそうだったけれど、陸続きだから装備は西洋的なんだね。
聡「こんにちは。 僕は志方聡と言います。
朱雀さんの案内で、僕等はここに参りました」
玄武「聡さん、こんにちは。
城内まで案内致しますので、こちらにいらして下さい」
聡「宜しく御願いします」
何だか、朱雀さんとは全く方向性の違うお姉さんだな。
貫禄凄くて年とか分からないけれど。
聡「ねえ、玄武さん。
白い御城という事は、この国の姫君は白蛇の亜人なんですか?」
玄武「
東洋怪異では、白い蛇は治水を司つかさどるとされていますからね」
水属性なら彼女もきっと優しいでしょうと思った訳だけれど、案の定だったね。
聡「こちらの世界でも、水の管理は国力に直結するんですね。
僕等の国でも飲み水が出る所を蛇口と呼びますが、外国ではそれが龍だったり猫系の大型動物だったりするんですよ」
玄武「この話題に龍虎が出て来るとは、興味深いですね。
こちらの青龍さんも木属性ですし」
聡「木属性って、ツリピフェラちゃんみたいに三元素魔法を使えるの?」
玄武「確かに扱えますが、木本は魔法の達人ですからね。
近接戦を主体とする青龍さんは、光や土を主属性とする物こそ扱えても、水属性や統一型の物は木本専用なのです」
聡「そうなんだ。 ところで、ツリピフェラちゃん。
統一型って、どんな魔法なの?」
ツリピフェラ「上からの重力と下からの水圧で押し潰しながら、周囲からの光の熱量で辺りを一掃する第五攻撃魔法なの。
第四魔法までは、水圧と重力と三色の光線に分かれているの」
えっ、それなんて魔道兵器。
それ以前に、この分だと青龍刀に青いオリハルコンアーマーで、その土と光を使う大型種が青龍なんだよね。
光線が回転しなくても、鎧が鋭く尖っていたらアレにしか見えないよ。
聡「もしかして、この国の中での最強って、青龍さんだったりする?」
玄武「確かに彼女も御強いですが、我が国には多数の猛者が居ますからね」
ああ、通りでこの国とは戦ってはいけない訳だ。
国力も考えると、戦力が有り過ぎる。
ところで、この世界の各種族の強さって、順位付けするとどうなるんだろう?
もしかしたら、この国の姫君とタクティカをする可能性も有る訳だし、今の内に比べてみようか。
まずは最強生物の木本プリバド。
その次は引っ張って強打の水大剣でプレシアの次に玄武さん。
その次に水以外には勝つサラマンダーで、土属性の防御補助と重力持ちな蛇姫がそれに続く。 龍虎は龍に上級水魔法が無くて虎が重量回避型だから多分虎の方が強くて、中型種の中での最強は朱雀よりも龍に挟まれながらも生き残れているフェンリルの考案者スノードロップ。
その次はエンジェルと言いたくなるけれど、草本プリバドの光抵抗と全員魔法アクセサリー、シュクレのコア投げは無視できないから、重量弓を使えるアスピスはこれらの間に入れても、軽量刺突で光属性のロウ・エンジェルはフェアリーやセイレーンよりは強いと言う位かも。
ミックスフロート・アローはアスピス国内のスノードロップに作られた可能性も有る訳だからロウ・エンジェルの魔道兵器にもその様な事は言える筈だけれど、光属性には点火系や氷の霧にも通らない性質が有るみたいだし、この世界の人達で全面共闘をすれば部外者の彼女等に勝つ事自体は余裕の筈だね。
タクティカに関しては天界側の彼女等は関係無いとは言え、状況が状況だし。
和睦による立ち回りの上手さを比べると大体この逆になるんだけれど、大剣みたいな鑓を持つセイレーンですらこの中では最弱なんだね。
スノードロップは、どこを取っても強いけれど。 属性の強さも、強水、土火氷、光風弱水の順だしと考えが纏まった頃、僕等は御城に到着した。
話通りに姫君の間に招かれると、この世界らしい高低差の無い和室の奥に、東洋の姫君向けな囲いと上の開いた御簾みすが有り、そこに白装束と白無垢を掛け合わせた様な格好の若い女性が、大型種の
正に、白蛇の姫君と言う言葉が、しっくり来る女性だね。
蛇姫「聡殿、御二方も、長旅御苦労であったな。
既に勘付いているとは思うが、
彼女は丁寧に
聡「初めまして、僕は志方聡と申します。
御丁寧に、有難う御座います」
僕等も、彼女の様に一礼する。
姫君は嬉しそうにしているけれど、僕等は緊張を隠せない。
蛇姫「まず、過去の小蔭の一件。 聡殿には、御世話になったな」
聡「いえいえ。 あの子が無事だったから良かった様な物で、殆どはシェリナさんの御蔭です」
蛇姫「
ところで、御主等は魔法具の疑惑について調べている様じゃが、
聡「実は、もう首謀者と賛同者を特定してあるんです」
蛇姫「それは誠か!? これで、我が国の民も救われる」
聡「そうなのですが、その国々を責める様な気運が有る今の内はこれらが他国と推察できる事までしか公開しないで、詳細は伏せていて欲しいのです」
蛇姫「随分と肩を持つのじゃな。
……それは、御主の身内にその種族が居おるからか?」
一変して、難しそうな御顔をする蛇姫様。
自国の民に隠し事をする様に言ったから怒ったと言うよりも、純粋にその理由が気に成っている様にも見えるけれど。
聡「それも有るとは思いますが、そうでなくともこの世界の今後を考えたらそうするべきと思うのです。
この国の皆だって、外国との抗争は望んではいないでしょう?」
蛇姫「玄武の様な事を言うのじゃな。
確かに、外国への蟠わだかまりを助長する理由は無いが」
聡「でしたら、できる範囲で協力して頂けませんか?
その国が魔法具を過剰生成した理由は、昔の同胞を警戒しているからなんです。
敵が部外者なら、この辺りは一安心でしょう?」
蛇姫「その話が本当であれば、今の内はな。
じゃが、侵略となれば他人事では済まされまい」
聡「確かに、二カ国が関わっている以上文字通り対岸の火事では済まないでしょう」
蛇姫「儂は協力しても良いと思うたが、国民を
聡「あの国の苦境に巻き込む訳ですから、無理も有りません。
……初対面なのに、こんなに無理な御願いをしてしまい、申し訳有りません」
蛇姫「聡殿は良くやっていると思うぞ。 侵略者には、奇襲が付き物じゃ。
その情報が先に知れただけでも、大きな成果だと思うがの」
聡「有難う御座います。
貴女も、今後を見据えている良い姫君なのですね」
蛇姫「小蔭から切れ者と聞いておったが、そう言う意味じゃったか……もしも武略であれば、是非ともタクティカをしてみたかったのじゃが」
聡「その事なんですが、もしも和睦路線が可能でしたら、戦闘前の準備期間にスノードロップ、アスピス、シュクレの三国で魔法具の通商協定を組んで不侵攻宣言をしておけば、どの強国もそれらには戦争を仕掛けられないという攻略方法は有りますか?
それらに侵攻した国は、明日は我が身と全国から警戒される訳ですし」
蛇姫「……儂の負けじゃ! 御主、中々面白い事を考えるのじゃな。
気に入ったぞ♪」
心底満足そうに喜ぶ蛇姫様。
やっぱり、実年齢は年下なのかも知れないね。
蛇姫「ところで、相手はどの種族なのじゃ?
まさかサラマンダーやプレシアとは言わぬよな」
聡「実は、ロウ・エンジェル。
つまり、軽量刺突版のアスピスなんです」
蛇姫「何じゃ。 細身にしたアスピスであれば、話は早い。
余計な心配をして、損をしたぞ」
分かった途端に、この温度差。
やっぱり、あの二種族は本当に強いんだね。
蛇姫「そう言う話なら、あの二人は頷くであろうな。
身代わり石の持つ範囲で共闘しよう」
聡&マリアンナ「有難う御座います!」
ツリピフェラ「ありがとうなの」
蛇姫「おや、マグノリアではないか。
まさか、
え、今この人何て言った?
視線からして、ツリピフェラちゃんの事だと思うけれど。
ツリピフェラ「ツリ達は木本プリバドだけれど、そう言う事なの」
聡「マグノリア……何だか、ロボットみたいな異名だね」
蛇姫「何を言うておる。
ツリピフェラ「ツリ達は、木本プリバドなの」
蛇姫様は良い人だけれど、やっぱり木本とは色々有ったみたいだね。
聡「この話は、今は止そう。
僕等は先を急ぐけれど、小蔭ちゃんに会ってからにしたいな」
蛇姫「儂としたことが、つい熱が入ってしまった。
ツリピフェラ殿、悪かったな」
ツリピフェラ「大丈夫なの。
今の東洋怪異は、シュクレ想いな良い人達なの」
蛇姫「御主等もな。 小蔭なら、その障子しょうじの前で待っておるぞ。
儂には勿体無い家臣じゃよ」
マリアンナ「小蔭ちゃんも、幸せ者ですね♪」
聡「そうだね。 それじゃあ、蛇姫様。 有難う御座いました」
マリアンナ「有難う御座いました」
ツリピフェラ「ありがとうなの」
正に義帝と言った雰囲気の彼女に別れを告げて和室を出ると、黒猫耳の美麗幼女が待っていた。 見間違える筈もない。
僕の最愛の旧友こと、
小蔭「お兄ちゃん、御久し振りなの♪」
満面の笑みでぺこりと御辞儀をする、白い蝶の柄の入った黒い和装の猫耳なのロリ妹分。 やっぱり、メインヒロインはこの位可愛くないとね!
聡「小蔭ちゃん、御久し振りだね! また会えて、本当に嬉しいよ♪」
マリアンナ「聡様は、可愛い女の子が好みなのですね♪」
蛇姫「確かに小蔭はできた付き人じゃが……御主には、あの様な小娘が良いのか?」
奧から強烈なツッコミが聞こえた気がするけれど、この際だから気にしない。
ツリピフェラ「聡お兄さんには、小蔭ちゃんが一番なのかも知れないの」
小蔭「え、それって……小蔭、嬉しいの!
聡お兄ちゃん、これからも大切にしてね♪」
聡「勿論♪ 小蔭ちゃんは一番親近感の湧く女の子だから、お兄ちゃんも特別大切にするよ」
小蔭「聡お兄ちゃん、ありがとうなの!」
マリアンナ「あらあら♪ 小蔭ちゃん、良かったですね!」
ツリピフェラ「小蔭ちゃん、良かったね。
……次は、あの子の番なの」
蛇姫「マグノリア、何を言うておる?
……やはり、異世界に恋愛を求めるなど、統率者には不条理なのであろうか?」
何だか、最後の二人だけ別ゲーの様な事を言っているけれど……彼女は国民に慕われてる訳だし、戦力的にも全てと戦わなくて良い。
それが、異世界や迷宮の歩き方だからね。 聞き流そう。
そんな事よりも、今の僕には小蔭ちゃんだよ。
僕は、数歩戻って蛇姫様に提案する。
聡「ねえ、蛇姫様。 小蔭ちゃんを預かっても良いですか?
僕と同行する連絡係が居た方が限られた時間の中でも準備をし易い筈ですし、その方がこの子だって嬉しいでしょう」
蛇姫「そうじゃな。
……大切な小蔭を儂の元に縛り付けては可愛そうじゃし、分かった。
小蔭よ、儂の事は案ずるな。 安心して聡殿に付いて行くが良い」
小蔭「蛇姫様、ありがとうなの!
ツリピフェラちゃんとマリアンナお姉ちゃんも宜しくね♪」
マリアンナ「宜しくね♪」
ツリピフェラ「宜しくなの」
今まで通りで安定感の有る二人と、僕の右側を歩こうとする謙虚な小蔭ちゃん。
聡「小蔭ちゃんは、僕の左側を歩いてね」
小蔭「お兄ちゃん、分かったの♪」
こうして、小蔭ちゃんを連れた僕等は、感心した様子の蛇姫様と玄武さんに見送られながら、サニアちゃんの待つプリバドの地域に戻る事にした。
小蔭ちゃんの土属性の魔法具で連絡を入れてみたら、あの子もプリバドと一緒に居る中で僕と同じ結論に達していたみたいだけれど、共闘路線と二人の恋人の話題では流石に驚かれたから、心の準備が必要なあの子の事も考えると東洋怪異の魔法具には感謝の一言だよ。
それと、シュクレを目指す道中で朱雀さんの話を聞いて一時的に合流しに来た龍虎の二人とも話し合う事ができた。
大方予想通りな外見だった彼女等は全面戦闘にも協力的な様子だったから、火龍の皆さんもこの調子と考えると、残るは小型種の連立国だね。
あの時ツリピフェラちゃんが木本プリバドの一般論を説明してくれたけれど、強襲に対する応戦だと輸送技術を持っているシュクレの皆を巻き込む訳だから、木本の中にも懐疑論者は居る筈だし。
少なくとも、青光りする銀色アーマーや腕用の突撃盾に重量鉾と脇差龍剣道の白虎さんや、明らかに強そうな青龍さんとあの子達は違う訳だから、多少の難航は想定していた方が良いよね。
小蔭「聡お兄ちゃん、どうしたの?」
あの頃の様に、猫耳を左右に下ろして上目遣いをする小蔭ちゃん。
龍虎の二人と話した時は僕等の後ろに連れていた風珠に一緒に今は座っているから御互いの表情も良く分かる。
聡「小蔭ちゃん、ちょっとシュクレの皆の事が気に成っただけだから、気にしないでね」
小蔭「(小声)えっ、お兄ちゃんは、ロリポップ様の事が気に成るの?」
ツリピフェラ「確かに、今回はあの子達の協力が必要なの」
マリアンナ「ツリピフェラちゃんも、御明察ですね♪」
きょとんとした小蔭ちゃんの傍らで、普段通りな会話をするOP (オーバーパワー)な御二方。 そうだね。
この子はそう言う意味で鋭敏なんだから、気を付けてあげないといけないよね。
聡「小蔭ちゃん、二人の言った通りだから、安心してね」
小蔭「そうだったの。 聡お兄ちゃん、ありがとうなの」
本当に、良くできた女の子だね。
そんな好意を伝える様にこの子の猫耳を優しく撫でていると、小蔭ちゃんは俯き加減にはにかみながら同じ年の恋人の様に僕に寄り添った。
気恥ずかしくなった僕が湖の方を見遣ると、例の如く水色とピンクの氷塊に乗ったあの子が、湖上に浮かんで追い付いて来た。
ロリポップ「聡お兄ちゃん、皆もこんにちはなの♪」
一同「こんにちは♪」
若干二名「こんにちはなの」
可愛い聡明なのロリの二人と共にぺこりと御辞儀をした元気なのロリのロリポップちゃん。
ロリポップ「聡お兄ちゃんは……上下左右の皆と仲良しなのね!」
不思議そうに僕等を見渡してから、人懐っこい笑みを浮かべたロリポップちゃん。
ツリピフェラ「そう言う事なの♪」
そう言うこの子も、普段より嬉しそうだね。
ロリポップ「それじゃあ、お兄ちゃん達も一緒に乗って行く?
丁度ロリも、サニアちゃんに御話が有るの!」
聡「それじゃあ、喜んで御願いしようかな。
ロリポップちゃん、いつもありがとう♪」
小蔭&マリアンナ「ロリポップ様、有難う御座います」
ロリポップ「どう致しましてなの!」
皆と仲良しなこの子を見ていると、寂しがりやな7人目にも手を差し伸べようとしている僕は背徳感を感じずにはいられないけれど、少しでも皆を幸せにできる様に頑張る所存でいるよ。
小蔭ちゃんを喜んで送り出した東洋怪異の重鎮達や、模擬戦で一緒に戦ったラフィちゃん達の事を思い返して、僕は改めてそう思った。
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