第7話 少女の連立国
前書き
7~9章は聡明っ子が加入する推理回ですが、サニアとは一旦別行動になるのでこのサブタイトルに致しました。 ヒロイン以外の大型種が出なくなった途端に恋愛要素が増えるのは、もはやこの精霊界の特徴なのかも知れませんねb
ルベライト「どうでしたか? 私達の演武は」
聡「一種の武勇伝を見ているみたいだったよ」
サニア「私もミドルドラゴンアームを使うから、参考になったわ」
ルベライト「気に入って頂けて何よりです」
サニア「それじゃあ、そろそろ出発するから御礼の品を渡して来るわね」
この子は僕にそう告げると、嬉しそうに微笑むルベライトさんの元に銀色の小箱を持って行く。
あの子が、ルベライトさんの耳元で何かを囁くと、彼女は真赤になって俯いた。
宝石箱みたいなデザインだったし、あの子も恋愛とか大好きなんだね。
聡「ねえ、サニアちゃん。 僕も、そう言った御話に興味を持っちゃったよ」
サニア「そんな事、皆の前で言われると……私も恥ずかしい」
戻り際に冗談を言うと、やっぱりこの子は真赤になって俯いた。
いや、僕も本気だったね。
サニア「それじゃあ、ぎゅって、抱っこしましょう」
いつもは御互いに距離を置こうとするけれど、今回は違った。
デートコースだからかな? ……あれ?
でも、サニアちゃんは小さくてもプレシアだから……いっ、いたいのー!
聡「ちゃんと力は抜いてよね。 僕は小型種みたいなものなんだし。
光属性・第一回復魔法」
サニア「こんな時に力なんて抜いたら、余計に恥ずかしい」
この光景を、微笑ましく眺めているサラマンダーの皆さん。
大型種には、そう見えるよね。
僕にはこの子が可愛くてしょうがないけれど。
聡「それじゃあ、いたいのーってならない様に、後ろ向きに抱っこしようね」
サニア「分かった。
何だか、小さい女の子になったみたいで、とっても安心するわね」
どうしよう? 既に可愛過ぎるよ。
満たされている筈なのに、僕はもう欲求不満だよ。
ルベライト「その……あれです。 そろそろ、出発時なのでは?」
一時の後、ルベライトさんは目のやり場が無いと言った様子で僕等に告げた。
サニア「はっ、私とした事が! 聡お兄ちゃん、早く出発しましょう」
聡「そうだね。 善は急げとも言うし」
サニア「待って。 手は……繋いだままでいて」
早く出発しようと焦った僕を、サニアちゃんは恥ずかしそうに俯いて制止する。
僕だって、こんなに手間の掛かる可愛過ぎる女の子の気持ちには応えないではいられない。
聡「そうだね。 やっぱり僕には、善義よりもサニアちゃんの方が大切みたいだ」
サニア「聡お兄ちゃん……大好き」
ルベライト「もう、どちらの善義でも、勝手にやっていて下さい」
聡「いや、それは読みが同じでも、意味が全然違うから!」
真赤になる割には、彼女もそう言った御話に明るいのかも知れないね。
この国での目的を終えた、夕刻の帰り道。
聡「折角サラマンダーの国に来たんだし、温泉に入って行かない?」
サニア「そうね。
恥ずかしいけれど、聡お兄ちゃんとなら……私は、一緒でも大丈夫よ」
真赤になるサニアちゃん。
この言い回しだと、細かく区切られた混浴なのかも知れないね。
僕も、恥ずかしくなって別の話題を振る。
聡「風珠の起き場所は、どうしようか?」
サニア「入口の上空に浮かせておけば大丈夫よ。
遠方から国賓が来た時は、いつもそうしているし」
そして、僕等にとって初めての、二人きりの混浴。
入る前こそ勘違いされないか心配だったけれど、傍から見たら僕も少年だし大丈夫そうだね。
聡「周りが大型種で、助かったよ。
これなら、見た目は仲の良い義理の兄妹だよね」
サニア「確かに、そうかも知れないけれど……私は、恋人として見られたいな」
以前の様に、少女らしい気後れをさせちゃったかな?
即座に気付いた僕は、温泉の濁り湯で温まりながら、サニアちゃんに肩を寄せる。
聡「僕は、サニアちゃんの事をちゃんと恋人だと思っているから、安心してね」
サニア「聡お兄ちゃん、ありがとう。
でも、その割には、こう言った事には距離を置くのね」
あれ、いつもは素直に喜んでくれるのに……これだけ距離が縮まれば、心境も変わるよね。
サニア「やっぱり、私みたいな子供だと、聡お兄ちゃんみたいな大人には釣り合えないかな?」
悔しそうに目線を逸らすサニアちゃん。
そんなこの子が可哀想になった僕は、これまでは言えなかった事も素直に伝えられる気がした。
聡「そんな事は無いよ。
僕は、サニアちゃんを本当に結婚した御嫁さんだと思っているよ。
この世界に許されるのなら、プレシアの皆から認められ次第結ばれたい位だよ」
僕は本音を伝えつつも、君はまだ少女でしょうと諭す様に、この子の髪を優しく撫でてあげる。
サニア「聡お兄ちゃん……そこまで考えて貰えて、私……嬉しい。
私、守られていたんだ」
この子は、心底安心した様子で僕に体を預けてくれる。
それでも、一時の間そうしていると、この子は珍しくも
サニア「ところで、倫理上の問題って何なの?
確かに、小さい女の子を好きになる男性ってプレシアとしては初めて聞くけれど、小型種は皆そうして結ばれて来た訳だし」
ああ、小型種の居るこの世界ではそもそもそう言った認識自体が無かったんだ。
ただ、女性側の意向を優先している様に見えていたんだね。
あの時、やけに人ができているという認識をしたのも、それが理由だったのかも知れないね。
聡「僕等の世界の大勢は、大人中心と言えば聞こえは良いけれど、こちらの世界程小さい子に優しい物じゃないから、少女と一緒に居る男性に対しては世間からの疑念の眼が強いんだよ」
サニア「……何となく、分かったわ。
つまり、聡お兄ちゃんは、そんな世界の中でも年下の異性への愛情を忘れなかった強い人なのね」
聡「本当は、それもサニアちゃん達の御蔭なんだけれど」
サニア「本当に御人好しなのね。 聡お兄ちゃん、大好きよ」
この子にとっては期待外れかも知れないけれど、行く末の事を考えると僕等の世界の事は詳しく知って貰った方が良いと思う。
事故や犯罪を聞かないこちらの世界の人々には、向こうの世界は危険だし。
温泉を満喫した僕等は、この宿に泊まると風珠に乗って小型種の国に向かった。
この子の話によると、プリバドとシュクレはフェアリーとセイレーンの国の様な立地をしていて、湖側のサラマンダーとの国境から遠い森がプリバドの地域らしい。
風珠から降りた僕等が順当にシュクレ側に入ると、そこはやはり幼女の国だった。
聡「上側よりも気候は温暖だけれど、建物はフェアリーの国よりも女の子らしいね」
この世界ではセイレーンの国の有る湖の北側を地図上の位置に見立てて上側と呼ぶ事は、シェリナさんとの会話内容から皆も知っているよね。
サニア「そうでしょうね。
仲の良い異種族が、セイレーンではなくプリバドなんだから」
この子も、水色の線の入った白い外壁やピンク色の屋根から受ける印象は一緒なんだね。 街を歩いている女の子達も、簡素ながら上質な魔法具を持ったあの子みたいな銀髪美幼女だし、御菓子を模した髪飾りやブレスレットで御洒落をしている所も何だか微笑ましい。
僕等が、家々の後ろに作物版のソテツやベリー系の低木等が植えて有る風景を眺めつつ、風の魔法アクセサリーで進んでいると、周囲から不思議そうな視線が集まっている事に気が付いた。
東洋怪異は隣国なのに、風珠がそんなに珍しいのだろうか?
シュクレ「あの、この魔法具、使いますか?
オリハルコンの純度は低いけれど、水属性なの」
サニア「あら、シュクレも水の魔法具を作れるのね。 気持ちは嬉しいけれど、散策にはこの速さでも十分だし、必要になったら御店で買わせて貰うわ」
シュクレ「そうなの?
それじゃあ、御店はこのまま真っ直ぐ進んだ曲がり角に有るからね!」
小走りで去って行く、シュクレの女の子。
本当に安価なら、水の魔法具で飛んで行くのにね。 それに、生産系の小型種同士なのにプリバドと競争にならないなんて、やっぱり優しいんだね。
聡「やっぱり、シュクレの女の子も良い子揃いなんだね。
ところで、今までは姫君や近衛兵との会話だったから東洋怪異の言葉に近い日本語は通じたけれど、あの子も話せるという事は、それは広く公用語として使われているのかな?」
サニア「本当に勘が良いのね。 この世界では、プレシア、サラマンダー、東洋怪異の三カ国の言葉が公用語として使われていて、全ての種族が二カ国語は話せるから、スノードロップを除く各国の国民にとっては、この言葉は慣れ親しんだ物なのよ」
聡「つまり、実は王家の周辺以外に日本語が通じないのは、一カ国だけなんだね」
プレシアの姫君を娶るなら、自国の民や隣国のスノードロップとも話し易い様に、英語に近いプレシア語も覚えるべきだと思うけれど、本当に好都合な異世界だね。
英語と分かったのはラフィちゃんの国の本にMagic Fruitと書いて有ったからだけれど、僕が辞書を渡す前から小蔭ちゃん達は日本語の様な言葉を話していた訳だし、本当にそう言う所なんだね。
それと、この世界には小麦は無いみたいだし、パンは粉物になるらしい魔力の実の殻の二層目で作っているんだと思う。
あれって上側の
外敵が居ないからこその無毒と考えても、魔力の実と呼ぶに相応しい物凄く効率的な貯蔵方法だね。 考察モードの僕が、風景を眺めつつこの世界の食料事情について考えていると、この子も何かを考え込んでいる事に気が付いた。
もしも賛同者の事なら、きっとシュクレの可能性だね。
聡「ねえ、サニアちゃん。
ロリポップちゃんは各国を渡り歩いている分、色んな事を見聞きする機会が多い訳だし、知っていても話さないというだけでは賛同者とは言えないよね」
サニア「まあ、それもそうね。
どっちに転んでも、それと似た様な立回りにはなるわよね」
やっぱり、考えていたのはその事だったね。
サニア「それでも、シュクレが賛同者ではないと言うのは、模擬戦で聡お兄ちゃんが無改造のミックスフロートのコアを投げた場合の話であって、アスピスが魔改造したそれを使った今回の条件では、絶対に無関係とは言えないわよね」
そう言った見方も勿論できるとは思うけれど、僕にはあの子達が一強を良しとするとは到底思えない。
聡「仮にそうだとしても、ロリポップちゃんには僕以外が持つ事は予想できなかった筈だし、氷の矢の原理も偶然作れたで説明できる範囲だったから、それでも仕向けたとは言えないよね」
サニア「確かに湖の魔力はそれだけ強力だし、シュクレのあの子にあんな演技はできないわよね。 結局、有るのは動機だけか。 ……それも、とても
聡「だからこそ、賛同者がどの国でも、時間を掛けて考えられるんだよね」
サニア「全く、御人好しなのは、本当に全員みたいね」
声色こそ予想が外れて残念と言った印象だけれど、最後には嬉しそうにいつもの流し目をしたサニアちゃん。
僕としてはこれまでの事は整理できているから、一旦確認がてら要約をしてみる。
聡「そうだね。 もしも賛同国が覇道的なら、スノードロップの場合はそこまで隣国が怖くない筈だし、きっと土属性の東洋怪異の場合は、火属性の下側を避けて通れるセイレーンの国が狙われる筈。 それでも、強国を怖がったプリバドなら、防衛策になるシュクレの魔法具にも変化が見られる」
サニア「そうよね。
……どうやら、考え方を改める必要が有るのは、私の方みたいね」
一国の姫君としての緊張感や自負を持ちながらも、素直に非を認められる。
僕は、そんなサニアちゃんが可愛くなって、この子の髪を撫でてあげる。
聡「各国の平和のためにこんなに必死に考えて、サニアちゃんは本当に良い子だね」
サニア「聡お兄ちゃん……もしかしたら、技術的に可能な三カ国の内、聡お兄ちゃんみたいな考え方をした人達が、アスピスの賛同者になったのかも知れないわね」
サニアちゃんも、ある程度の方向性が定まった事でようやく安堵の笑みを浮かべてくれた。 それでも、もしそうだとしたら、やっぱり圧倒的な強国では無いよね。
それに、僕と似ている種族と言ったら……
サニア「だったら尚更、プリバドに急がないといけないわね。
水の魔法具を買いましょう!」
聡「そうだね。 御昼までに入れたら、きっと情報収集も進むよね」
方針が定まった所で、あの子のミックスフロートが湖の左側から追い付いて来た。
ロリポップ「あっ、聡お兄ちゃん! サニアちゃんも、こんにちはなの!」
聡「こんにちは。 ロリポップちゃん」
サニア「あら、ロリポップさん、こんにちは。 丁度良い所に来てくれたわね」
ロリポップ「なあに? ミックスフロートに乗りたいの?」
きょとんとしながらも的確な推察をするなんて、随分と器用な子だね。
サニア「随分と勘が良いのね。 正にその通りよ」
ロリポップ「えっへん!
賛同者を推理するには、各国を早く回れた方が便利なの♪」
小型種らしいしたり顔で、無い胸を張る銀髪白ワンピの美麗幼女。(身長は150cm強)
聡「それだけで分かるなんて、頭脳派だね♪
それじゃあ、また風珠ごと乗せて貰うね」
ロリポップ「はーいなの♪」
ミックスフロートに乗ってプリバドの森に繋がる縦方向の分かれ道まで進んで来た僕等は手始めに水の魔法アクセサリーを買ったけれど、この子は東洋怪異の方に向かうみたいだ。
ロリポップ「それじゃあ、またねなのー♪」
聡「またね。 ロリポップちゃん」
サニア「ロリポップさん、ありがとね」
大きく手を振るロリポップちゃんとクールなサニアちゃん。
シェリナさんとサニアちゃんが月明かりの
サニア「もう御昼時か……早い物ね」
魔法具と一緒に買った長い棒アイスを片手にウォーターフロート然とした移動をしながらも、少女らしからぬ感情を表現するサニアちゃん。
流石は、考察勢の姫君だね。
聡「積荷だけの風珠位の速さで進める訳だし、これでも早い方じゃない?」
サニア「確かにそうね。 シュクレの皆には、感謝しないとね」
聡「そうだね。 ところで、温暖な分アイスが美味しいのは嬉しいんだけれど、この先に有るハウスじゃない熱帯植物園みたいなのは、何なの?」
そうなのだ。 眼の前には、ソテツ、ヤシ、バナナ、グァバ等の熱帯植物が綺麗に間伐してある森しかない。
僕等の世界だったら、こんなワイルドな所には近付けないと思う。
サニア「プリバドの森が怖いなんて、一体どこの王家かしら?
確かに暗い所も有るけれど、小型種の地域なのよ」
聡「野生動物、天候の急変、
サニア「どうやら、聡お兄ちゃん達の世界の森は、私達には想像できない程危険みたいね」
つまり、この森林は安全なんだ。
……安全なんだろうけれど、ここを進むのは流石に怖い。
聡「フェアリーの国みたいに、もっと温帯な雰囲気の森を想像していたから、流石にこれは驚いたよ」
サニア「フェアリーは水の流れが速い上側で、プリバドはそれが遅い下側だから、きっとその違いなのよ。 さあ、安全だと分かったら早く行きましょう」
言い終わると、この子は軽装なドレスに付けた氷の魔法具を起動して熱帯ゾーンに入って行く。 水深が違うのなら筋も通るけれど、安全なら仕方ないか。
僕も、ロピスに耐熱魔法を共鳴させてから、この子に続いた。
風珠を連れて森に入ると、そこは……幼女の国だった!
尖ったデザインの黄緑と白のワンピースを着た、150cm以上は有る女の子の栗色の髪の上には、5cm程の赤い蕾が付いている。
本当に、シェリナさんから聞いた通りの小型種なんだね。
聡「少し暗い森の中でも、温厚そうな女の子が歩いていると安心するよね♪」
サニア「言うと思ったわよ。
……まあ、あの子達の可愛さは、皆も認めているのだけれど」
聡「やっぱり、頭に付いている可愛い蕾が、プリティバドを略した種族名の由来なんだね。 さっき手前の道を曲がった女の子も魔法ペンダントを付けていた様に見えたし、噂は本当みたいだね」
サニア「そうよ。 ここは魔力の実の群生地ですもの。
本来は高級品な魔法具も、プリバドの森の中では、誰にでも手の届く物なのよ。
御蔭で、姫君が見分けにくいのだけれど」
聡「経済力や地位による格差が無いなんて、本当に小さい女の子の仲良しこよし集団なんだね。 熱帯の森林なのにチューリップちゃんと言う事はミストカーテンを利用した園芸植物なのかな?」
サニア「私達の世界には園芸という概念は無いけれど、確かにあの子達は頭に園芸してるわね」
……僕は、パワーワード以上に異世界での日本語辞書の威力に改めて驚かされた。
僕等が道なりに進んでいると、前方からあの花の蕾を付けた女の子が向かって来た。 黄緑のワンピースには、ラフィちゃんが持っていた様な通信用の魔法具が括り付けて有る。
聡「もしかして、あの子がチューリップちゃん?
エルフ風に擬人化した、花幼女みたいだね!」
僕が美人な幼女に歓喜すると、サニアちゃんはやっぱりねと
サニア「あの子は姫君の御付きよ。 まあ、チューリップさんも同じ様な見た目なんだけれど」
本当に格差とか無いんだねと唖然としていると、例の幼女は僕等の前で着地した。
プリバド「サニア様と、異世界の……お兄さん? 初めましてなの」
やっぱり、なのロリだった。
最も、髪は栗色だし、おっとりした雰囲気の土属性っ子だろうから、むしろ親しみ易い妹分かな。 無表情に首を傾げた様子も、これはこれで可愛いし。
聡「初めまして。 チューリップちゃんみたいで、驚いたよ」
プリバド「良く間違われるけれど、私はツリピフェラなの。
姫君の御付きをしているの」
この子、名前も似ているんだね。
蕾の色がピンク系な割には、独特な雰囲気が有るね。
ツリピフェラ「チューリップ様の所まで案内するから、この実を食べながら付いて来てね」
この子は、落ち着いた表情のままグァバ風の果実を6個もくれた。
これ、日本だと高いよね。
聡「一人三個なのは嬉しいけれど、こんなに良いのかな?」
ツリピフェラ「この辺りには沢山有るし、森の木々は皆の物なの」
聡「天使さんみたいに良い子なんだね!
それでも、皆の物なら三人で二個ずつだよね♪」
そう言いながらツリピフェラちゃんにも二個を手渡すと、この子は自分で取った物なのに喜んで受け取ってくれた。
ツリピフェラ「ありがとうなの」
ぺこりと礼儀正しく御辞儀をする、天使ちゃんな蕾幼女。
サニア「プリバドとシュクレが、どうして仲良しなのか分かった気がしたわ」
小型種同士みたいな僕等を横目に、クールに考察をするサニアちゃん。
一時の後、僕はそんな考察勢に向こう側の人間らしい質問をしてみる事にした。
聡「(小声)ねえ、サニアちゃん。
良い子しか居ない森なのに、良く荒らされなかったよね」
聞いてから、この子の表情から地雷だったと気が付いた。
地球側の人間と言う種族の中では横行しかねない悪事も、彼女等から見たら本当に軽率な行いなんだね。
サニア「(小声)少なくとも、こちら側の種族には、そんな非道徳的な事はできないわよ。 そうでなくとも、そんな恐ろしい事、強国でも考えないわ。
皆が魔法ペンダント持ちなのよ?」
聡「(小声)ああ、大体察せたよ。
この子達が心配になっただけだから、気を悪くしないでね」
開戦直後に凄い属性値で水の魔法ペンダントが連射される訳だから、水の効かないプレシアか大国の犠牲覚悟以外では手出しできないよね。
それ以前に、そんな浅はかな種族は居ないか。
僕が後悔と安堵の入り混じった様な複雑な気分になりながらも、軽快に飛ぶツリピフェラちゃんに付いて行くと、今度はロピスから何だか良く分からない空気抵抗の様な重みを感じ始めた。 僕が思わずサニアちゃんの方を見遣ると、この子は何の変化も感じていない様子で不思議がる。
サニア「(小声)どうしたの? 向こうの民意は貴男のせいじゃないもの。
聡お兄ちゃんこそ、そんなに気負わなくても大丈夫よ」
そう言えば、ロピスって元々プレシアの儀式用の魔法剣だったよね。
僕は、これを思い出すと、再び声を細めた。
聡「(小声)そう言って貰えるのは嬉しいんだけれど、さっきからロピスが重たい気がするんだ。 森の意志が、怖がっているのかな?」
サニア「(小声)森の意志だなんて、随分と自然を尊敬している様な事を言うのね。
信仰魔法が適性な聡お兄ちゃんには良く似合っているけれど、そう言う事も有るんじゃないの?」
やっぱり、この森に強力な魔法具が持ち込まれるのは、相当珍しい事みたいだね。
サニア「(小声)そう言う事なら、私だけここに残ろうかしら?
……どの道、スノードロップや東洋怪異にプレシアの姫君が入ると何をしに来たってなる筈だし、丁度良かったじゃない」
優しく微笑む、サニアちゃん。
強国を警戒し過ぎる所も、いつも通りでこの子らしい。
聡「(小声)それも良さそうだね。
大国の前で一人旅になるのは、流石に少し不安だけれど」
サニア「(小声)それなら私に考えが有るわ!
聡お兄ちゃんも、きっと気に入ると思うわよ」
聡「(小声)それじゃあ、ここは聡明なサニアちゃんに御任せしようかな」
考えって、何だろう?
僕は、ロピスの鞘さやを左手で掴むと、一先ひとまず森の守り神に祈りを捧げた。
僕等が、黄緑と白の外壁にピンクの屋根という分かり易い御家に到着すると、あの子と瓜二つな蕾幼女の姫君は満面の笑みで手を振ってくれた。
これだけ違えば、この子とは見間違えないねと一安心する。
聡「こんにちは。 僕は、志方聡って言うんだ。 宜しくね」
チューリップ「チューリップ=ブルーミーなの! 聡お兄ちゃん、よろしくね♪」
金色の瞳を輝かせるこの子の髪を優しく撫でてあげると、安心したのか抱き付かれてしまった。 その行動からこの子の心境を察した僕は、背中をトントンしながら体をゆさゆさしてあげる。
チューリップ「わぁ……お兄ちゃん、優しくって温かぁい♪
お兄ちゃん、だーい好き!」
この子は、すっかり安心し切った様子で、シャンナさんみたいに甘ったるい笑みを浮かべる。 そんなこの子も勿論魅力的だけれど、僕にとっては強気な性格でありながらも従順な一面を併せ持つサニアちゃんや、控えめな聡明幼女であるツリピフェラちゃんの方が断然好みだ。
聡「お兄ちゃんも、チューリップちゃんが可愛くて嬉しいけれど、僕は先に恋人同士になったサニアちゃんを幸せにさせてあげたいんだ。
プリバドとの恋は、その後に考えさせて貰うね」
サニア「えっ、聡お兄ちゃん……」
チューリップ「ありがとうなの!
チュリは、女の子想いな優しいお兄ちゃんのために良い子にしているから、その気に成ったらいつでも迎えに来てね!」
ストレート過ぎるこの子の発言に、サニアちゃんの様に真赤になる僕。
サニア「まあ、この子は典型的な小型種だからね。
私達程、恋路に深い葛藤が無いのよ」
俯いて赤い顔を背けながらも、何とかこの国の姫君に理解を示そうと頑張るサニアちゃん。 そんな僕等を見かねてか、ツリピフェラちゃんは三歩引いた位置から補足を始める。
ツリピフェラ「プリバドの中でも、
ツリの様な
聡「植物を見比べても草と木では世代の長さが全く違う訳だし、擬人化されていると言っても何となく分かったよ。
それにしても、やっぱり君は普通の小型種じゃなかったんだね」
ツリピフェラ「そうなの。
この蕾はツリピフェラの形で、ツリの個体名はフローリスなの」
聡「種族名が姓の代わりでも、氏名の順番なんだ。 僕の名前みたいだね」
ツリピフェラ「確かにそれと似ているけれど、プリバドの個体名は皆植物に関係する言葉なの。 だから、同種の中での区別以外は種族名を名前の様に使っているの」
サニア「確かに、皆が園芸関係の名前だと、絶対に混同するわよね」
チューリップ「ああ、そう言う理由だったの! 皆は頭も良いのね♪」
冷静に考察をする僕等の傍らで、元気に喜ぶ蕾幼女の姫君。
明らかに、ツリピフェラちゃんの方が姫君に相応しいと思った僕は、むしろこの子に良い子良い子をしてあげる。
ツリピフェラ「え!?
そんな風にされると、ツリ……嬉しいけれど、恥ずかしいの」
真赤になって俯く、上級者向けな美麗幼女。
やっぱり、この子の方が圧倒的に可愛いよ♪
サニア「聡お兄ちゃんには、やっぱりこう言う女の子が好みなのね」
聡「木本の女の子が一番可愛いんだから、好みだって当然だよ」
この柔和な世界の中で初めて僕にジト目をしたのが彼女だったのは、むしろ想定の範囲内だね。
聡「ねえ、ツリピフェラちゃん。 君は、僕等が遠くからこの森に来た事について、どこまで知りたいかな? もしも興味が有ったら、一から丁寧に話すけれど」
事の収拾を考えた僕は、大人しいながらも真赤になったツリピフェラちゃんにようやく本題を切り出した。
ツリピフェラ「プレシアは強国だから、きっと各国の疑心暗鬼の事でしょう?
木本は魔法具の生成が得意な分、疑われても仕方が無いけれど……ツリは、できる限り協力するの」
聡&サニア「まさか、全て御察しだったとはね。 えっ!?」
完璧にタイミングが一致した事で、御互いに顔を見合わせてしまう僕等。
むしろ、これだけセンスがそっくりなのに、今まで全くこう言った現象が起こらなかった事の方が不思議だよね。
チューリップ「何だか、お兄ちゃん達の方が双子みたいなの」
核心を突き過ぎなこの発言の御蔭で、僕等は四人揃ってクスクスと笑い合う結果になった。
サニア「これなら安心して話せるわね。
ねえ、チューリップさん、一人暮らしをしてみない?」
チューリップ「ここはとっても住み易いから、チュリはそれでも良いけれど……どうしてなの?」
一頻ひとしきり笑った後で本題を振ったのはサニアちゃんだったけれど、この子も一人で暮らせるんだ。
ツリピフェラ「もしかして、サニア様がこの森に残ると一人旅になる聡お兄さんにはツリが付き添った方が良いけど、それだとチューリップ様が一人暮らしみたいになるからなの? 隣国の事まで考えると、プレシアに疑われるのは……三カ国の筈だし」
サニア「……本当の切れ者って言うのは、
チューリップ「どう言う事なの?」
聡「分かり易く言うと、僕はツリピフェラちゃんと一緒に東洋怪異やスノードロップに行って来るから、チューリップちゃんはこの国に残るサニアちゃんの調査に協力をしてあげてね」
チューリップ「ああ、そう言う事だったの! それなら、チュリも頑張るの♪」
サニア「チューリップさん、宜しくね。 聡お兄ちゃん達も、二人で頑張ってね」
聡「ありがとう。 サニアちゃん。 チューリップちゃんも、行って来ます」
チューリップ「二人とも、行ってらっしゃーい♪」
こうして僕等は、あの子の装備もこの家に置いて出発する事にしたんだけれど……これが、オリハルコンランスなんだね。
と言うのも、これだと点対象なツインホーンメイスなんだ。 先端と頭部の六方向が鈍角に尖った刀のガード部分付きの両側1mと、左腕用の盾なんだね。
この形状だと1:1での接近戦よりも、メイス2本分の魔力を活かした魔法攻撃の後に2:1での側面突撃で重量防具を突破する事を意識した集団戦用の火力全振り武器だろうから、こんな物を見たら守り神が警戒するのも当然だね。
この子はロピスの一件を知らない訳だからこれについては聞かないけれど、僕が次に気に掛けたのは、むしろサニアちゃんの本心だった。
あの子の言動は、僕等を二人きりにさせてくれた厚意とも取れるからね。
聡「ねえ、ツリピフェラちゃん。 御付きの目線で答えてくれれば良いんだけれど、各国の姫君は、夫が側室を連れて来る事をどんな風に思っているのかな?」
これに関してはシェリナさんが説明してくれたけれど、セイレーンは特別女性的な人達だから、この子の意見も聞いておきたい。
あの子にとっては、これもきっと悩みの種だと思うし。
ツリピフェラ「抵抗は感じても、むしろ歓迎したい筈なの。
品位が問われる姫君には側室を喜んで迎える器量も当然の様に求められるし、皆に良い男性を独占していると思われるよりも側室と良い関係を築けた方が建設的なの」
……やっぱり、シェリナさんにはそれで良くても、サニアちゃんにとっては難しい境遇なんだね。
聡「そうなると、御嫁さんと気の合う側室を見付けて来るのも、男性の役目になりそうだね」
ツリピフェラ「お兄さん……そんなに女の子想いな言葉、ツリは初めて聞いたの。
これから二人旅だし、木本の女の子は恋にも敏感なんですから、聡お兄さんにも気に掛けて欲しいの」
聡「ツリピフェラちゃん、さっきの言葉は、正しく訳すと距離を置きたいになると思うけれど、向こうの世界の感覚だと、あれはもっと私に振り向いて下さいと伝える時の言い方なんだよ」
僕が恥ずかしさを紛らわす様に言うと、この子は真赤になった後で、そっと僕に抱き付いた。
ツリピフェラ「女の子をこんなにドキドキさせて……聡お兄さん、一生私と恋をしましょう」
聡「ありがとう。 とっても一途な告白をして貰えて、嬉しいよ」
ツリピフェラ「ツリも嬉しいの。 精一杯尽くしますから、宜しくお願いします」
ぺこりと御辞儀をしたこの子が可愛くなった僕は、この子の少しだけ大人びた朱色の蕾を柔らかく撫でてあげる。
聡「大切にするから、こちらこそ宜しくね」
「私からも、その子を宜しくお願いします」
声の方に振り向くと、木陰を彩る草花が、女神の居場所を教えてくれた。
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