第5話 決戦、プレシア国
シェリナ「フェアリー同盟……友好的な小国に焦点を当てた、良い名前ですね」
セフィリカ「その様な趣向の枠組みに所属するのは初めてですが、面白い考え方ですよね」
ラフィール「そう言って貰えると、ラフィ嬉しいの♪」
聡「良かったね。 ラフィちゃん」
ラフィール「お兄ちゃん、ありがとうなの! ラフィ、お兄ちゃん大好き♪」
満面の笑みで抱き付いて来るラフィちゃんが可愛くて、僕は真赤になってしまう。
聡「お兄ちゃんも嬉しいけれど、皆の前だと恥ずかしいと言うか」
セフィリカ「小さい女の子を好きになる男性も、居るのですね」
恥ずかしがる僕を見てカルチャーショックを受けているセフィリカさん。
そして、圧倒的な安定感で柔和に微笑んでいるシェリナさんの優しい声。
これはもう、喜と哀楽の備わった子供に優しい等身大としての彼女の個性だよね。
シェリナ「それでは、私は御母様に報告して参りますね」
聡「そうだね。
彼女の居ない所で決めたから説明が大変だと思うけれど、御願いするよ」
セフィリカ「それでは私も帰路に就こうと思いますが、聡さん、今回の一件はとても参考になりましたよ」
その言葉と共に、彼女は見た目通りな、とても
聡「いえいえ。 僕は、基礎ができているセフィリカさんに助言をしただけですし」
セフィリカ「戦術に関してと言うよりも、歩み寄りに関してです」
聡「そうかな。
ラフィちゃんには前から懐かれていたみたいだし、シェリナさんも控えめな距離感には理解を示していたから、そういう意味でも基礎はできていたと思うんだけれど」
セフィリカ「
実直な青年と聞いていたので正義感の強い方を想像していましたが、女性に理解の有る温和な方なのですね。 アクアさんも、そう思うでしょう?」
アクア「そうですね。 聡様は、私達の様な考え方のできる優しい御方です」
セフィリカさんは、格式張った表情のまま頬を赤らめる。
頼りになる経験お姉さんと思っていたけれど、こんなに可愛い顔もするんだね。
アクアさんも、柔らかく微笑んでいる。
本当はシェリナさんと面識が有ったからだけれど、恋に関する洞察力も流石はこの世界の女性だね。
ラフィール「ラフィは、お兄ちゃんとお姉ちゃんが仲良しで、嬉しいの♪」
ラフィちゃんは、安定の良い子だね♪
話が一段落して二人きりになった所で、僕は先程から考えていた事をこの子に提案してみる。
聡「ねえ、ラフィちゃん。 模擬戦までの間も、僕と一緒に行動しない?
僕等は模擬戦でも一緒に動く訳だし、フェアリーとは立回りについても色々と話したいから」
ラフィール「えっ、お兄ちゃんは、ここに残ってくれるの!? 大歓迎なの♪」
聡「良かった! ラフィちゃん、ありがとう」
サニアちゃんには悪いけれど、小型種やっぱり可愛いよ。
聡「立回りに関してもなんだけれど、皆の分の盾も二つずつ作れないかな」
ラフィール「盾って、角が有って水に強いのだよね」
聡「小型種の盾なのに、丸くないんだね。
それでも、水抵抗が有るのなら、きっとそれだよ」
ラフィール「分かったの! それじゃあ、近くに住んでいる子にも伝えて来るね♪」
飛んで行っちゃった。
皆で協力してくれるなんて、やっぱりフェアリーは良い子過ぎるよ。
それにしても、ラフィちゃんって家族とは別居しているのかな?
これは別荘だと思うけれど。
御礼のために、料理本らしい絵本に載っていた魔力の実を、ロピスの水魔法で削り始めた。 何で分かったかと言うと、魔力の実って、その辺りに生えている色と中身がパイナップルみたいなソテツの事だったんだ。
温帯の様な気候でも自生してあの味なのは分かったけれど、
ラフィール「その剣から、水魔法が出ているの?
何だか、プリバドの魔法具みたいなの」
聡「実はこれ、この世界の魔法剣なんだ。
ところで、ラフィちゃんの家族って元気なの?」
セイレーンみたいとまでは思われる筈だから素直に話すけれど、それ以上を気付かれない内に僕は丁度気に成っていた事を聞いてみた。
純粋なラフィちゃん相手だし、考え過ぎかな?
ラフィール「パパとママは、森の奥の方で暮らしているの。
二人はもしもの時のためって言ってたけれど、ラフィは皆で仲良く暮らしたいの」
ああ、会議用の別荘ではなく、別居だったんだね。 それなら確かに御家だね。
周辺国の戦力を考えると、王家の別居も必要な事なんだね……。
聡「ラフィちゃんの気持ちも、御両親の判断も、両方筋の通っている事だから難しいけれど、少なくとも僕は君の味方だよ。
もし僕に婚約者が居なかったら、結婚を持ち掛けたい位だよ」
ラフィール「お兄ちゃん! ラフィ、お兄ちゃんの御嫁さんになる♪」
シャンナさんの一件から気を付けないととは思っていたけれど、こんなに純粋で健気な境遇に居る小さい女の子を見たら、放っておく事なんてできなかった。
二人目の御嫁さんでも良いと嬉しがり、料理を始めたラフィちゃんに、僕は真面目に確認する。
聡「ねえ、僕等の世界では、あの木みたいな植物には大抵毒が有るんだけれど、大丈夫なの?」
ラフィ「どくって、なあに?
魔力の実の中には硬いのも有るけれど、これは美味しいの」
聡「ああ、毒自体が無いのなら大丈夫だね。
それなら、実の周りも安心して粉物にできるね」
一安心すると、後ろの扉がノックされた。
盾の一件、もう広まる目途が立ったのだろうか?
フェアリー「盾の御話、広めて来たの!」
聡「随分と早かったね! ありがとう。
皆に協力して貰えて、お兄ちゃんは嬉しいよ」
ラフィール「ラフィも嬉しいの! ありがとうなの♪」
フェアリー「ラフィール様にも喜んで貰えて、何よりなの!
それじゃあ、またね♪」
フェアリーちゃんは、良い子過ぎる笑顔で御辞儀をすると、さっきのあの子の様にぴょんと跳ねて飛んで行った。
円形の枝状に建物が有れば早いよねと考えながらも、この国の御料理が気に成って振り返ると、エプロン姿のラフィちゃんは今までに一度も見せなかった寂しそうな表情で俯いた。 多くの道具は合理性の下作られるから、他人の空似は突っ込まない。
ラフィール「ラフィ、皆の事は大好きだけれど、皆が帰っちゃうといつも寂しいの。 ねえ、お兄ちゃんは、ラフィを置いて行かないでね」
聡「そうだったんだ。 ラフィちゃん、寂しかったよね。 良く我慢したね」
寂しがるこの子を見ていると、思わずこの子の全てを受け入れて、愛してあげたくなる。 二人きりだし、僕は弱々しく震えるこの子を抱き寄せると、子守唄であやす様に背中をトントンしてあげる。
ラフィール「お兄ちゃん……実はね、ラフィ、この事を話したのはお兄ちゃんが初めてなの」
聡「どうしてかな? 皆も、ラフィちゃんの事が大好きな筈だよ」
この子の瞳を見ていると、義妹と仲の良い兄の様に、優しい言葉しか浮かばない。
ラフィール「ラフィは姫君だから、身近な人に弱い所を見せると、皆が心配な気持ちになるの。 それでも、お兄ちゃんは、ラフィの弱さを知っても……ううん、それを知る程、弱いラフィを大切にして、安心させてくれるの」
なんて純粋な、可愛い女の子なんだろう。
こんな事、いつもは絶対に言えないけれど、この世界の中でなら、この子にも打ち明けて良いかなと素直に思える。
聡「手間の掛かる子でも、
僕から見たら少女なんだし、弱くたって良いんだよ」
甘えてくれる、ラフィールちゃん。
……少なからず、シャンナさんの気持ちが分かった気がした。
ラフィール「それじゃあ、急いで御料理、完成させちゃうね!」
気を取り直して、ミトンをした手で、多分スノードロップ製の冷蔵庫から既に成形してあるパン
まずは総合栄養食の魔力の実から油を出してその後に葉物野菜を炒めるとしても、魔力の実にも粉物の様に使える部分が有るのかな。
聡「御料理の仕方は、僕等の世界と殆ど変わらないんだね」
ラフィール「えっ、そうなの!?」
聡「御手伝いするよ。
いつもと道具が違っても、これの水魔法なら洗いながら切れるからね」
僕は、そう言うと包丁よりも的確に狙えるロピスの水魔法で、葉物野菜の下処理を始めた。 ふと、これを果物ナイフみたいに使っている所をプレシア兵に見られたら大変だなと思った。
正確には、鞘に納めたロピスの逆向きのロッド部分から有線式ウォーターナイフ風の水の刃を出しているんだけれど、これだとどちらかと言うとリンゴ用のあれだし。
それに、これを持って戦場に立っても我先に国宝使いを打ち取ると全力で向かって来る筈だし、この時点で模擬戦では絶対に前列には立てない事を確認できただけでも良しとしようか。
この子と一緒に動く以上陽動役は難しいし、水魔法が効かないなら用途は防御系。
補助魔法を併用して魔法バリアを張れないか、検討してみる価値は有りそうだね。
ラフィール「どうしたの?」
聡「ロピスの使い道について、考えていたんだ。
強い武装が大好きなプレシア兵がこれに目掛けて向かって来る前に、遠くから味方の役に立てないかなって」
ラフィール「プレシアの皆が向かって来たら、ラフィ怖いの」
聡「確かに怖過ぎるよ。
全く、小さい女の子に怖がられるなんて、女性としてどうなんだか。 それでも、遠距離なら攻撃魔法しか届かない筈だから、対魔法バリアが役に立つと思うんだよ」
ラフィール「お兄ちゃんは、水の補助魔法が使えるの!?
シェリナちゃんみたいなの♪」
一転して、嬉しそうに微笑むラフィちゃん。
本当に、シェリナさんに懐いているんだね。
聡「シェリナさんと比べると、僕は攻撃魔法と接近戦が苦手な代わりに、回復魔法が使えるんだ」
ラフィール「やっぱりお兄ちゃんは、女の子よりも優しいの♪」
確かに、魔法の適性が100%性格に依存するのなら、そう言う事になるけれど。
聡「シェリナさんは、セイレーンだからね」
ラフィール「ああ、それで水の攻撃魔法なのね! 納得なの♪」
聡「僕も、その方が納得できるよ。
それじゃあ、御食事が終わったら、早速試してみようか」
ラフィール「分かったの♪」
この子の事情を考えて夕食を仲良く食べさせ合いっこした僕等は、早速ロピスの対魔法バリアを試してみる事にした。
聡「ところでラフィちゃん、何で魔法ペンダントを持って来たの?」
ラフィール「ラフィ、風魔法しか使えないから、水の壁だと撃ち抜いちゃうの」
聡「大丈夫。 僕は第四魔法まで使えるから、少しだけれど風魔法も軽減できるよ」
ラフィール「第四魔法って、シェリナちゃんと一緒なの! お兄ちゃん、凄いの♪」
つまり、ラフィちゃんは第三魔法までなんだ。
生産系の種族だから、直接的な魔法は苦手なのかな?
聡「それじゃあ、始めようか。
水属性・第四補助魔法。 ロッド・オブ・ピアース!」
ラフィール「分かったの。 風属性・第一攻撃魔法なの!」
僕がロピスを横向きに構えて詠唱すると、補助魔法の上に水の鏡の様な物が発生した。 案の定、風魔法の発動のサインである緑色の光の後に、衝撃は来なかった。
ラフィール「いたいのー! ラフィ、いたいの、きらいなの!」
聡「ラフィちゃん、ごめんね。
まさか、風魔法を跳ね返せるとは思わなかったから」
ラフィール「ラフィもなの。
でも、風魔法をこんなに防げるなんて、第五魔法みたいなの」
聡「そうだね。 これなら、実戦でも十分に使えると思うよ」
鏡が出たのは数秒間だったから安定させるのは難しそうだけれど、これは思わぬ収穫だね。 もしこれを遠距離に張れれば、ミックスフロートのコアの冷気を地表から上向きに跳ね返して、効果範囲と威力を上げる事ができるからね。
それからの一週間は、勿論反射魔法の練習と、作戦の試案だった。
ラフィちゃんは、風魔法を反射されたその日の内に二つの盾を完成させた。
同属性の第一魔法を痛がって軽量鎧まで着て来るなんて、余程痛いのが嫌いなんだろうな。
色々と試してみて分かった事は、反射するのはダメージの一部のみで併発した水の補助魔法のランクに依存するらしい。
一般論としては、攻撃魔法以外は魔力よりも属性値の方が重要みたいだから、あの子の見立てでは副属性の属性値が高い僕には、かなり向いているらしい。
第四補助魔法ならラフィちゃんの第三攻撃魔法の殆どを反射できたから、魔力や属性値が高い種族の第二攻撃魔法位の反射量だと思うけれど、魔法バリア系でこの効果ならかなり有力だね。
そして僕等は、模擬戦の前日を迎えた。
布陣は事前に整えておく物らしくここには三カ国の軍勢が揃っているけれど、どれも重い鎧についてはシェリナさんから良質な軽量版の物を借りる事になっている。
水系の鎧は中が涼しいみたいだし、僕等の世界のそれよりも高性能だからね。
僕は、右腰に手前が極太な1.5m程の突撃剣を差してオリハルコンアーマーに身を包んだセフィリカさんを見付けて、フェアリーの立回りとロピスの反射魔法について話す事にした。
勿論この事はシェリナさん越しにセイレーンの皆さんにも伝えて有るから、彼女等には指示を出さなくても回復系の効果を広げる補助魔法は使ってくれる見立てだ。
聡「セフィリカさん、こんにちは。 何だか、物凄く強そうだね」
セフィリカ「強い方が望ましい情勢ですからね。
遠近両刀の安定感を、見せて差し上げます」
彼女は、その言葉と共に小盾を付けた左腕に持っている重量弓を見せ付ける。
弓を置いて左手で剣を引き抜けば、右手が前の両手持ちと左腕の盾で戦えそうだけれど、重量的にはミドルドラゴンアームの3割増しと言った所だね。
……向こうは大型種の片手剣だけれど。
聡「そう言って貰えると、とっても頼もしいよ。
ところで、あれから僕はフェアリーの国に留まって作戦を思案していたんだけれど、聞いてくれる?」
セフィリカ「丁度私も、それを聞きたかった所です。
貴男は、彼女等とどこか似ていますし」
聡「シェリナさんからも、サニアさんみたいって言われたよ。
まず、プレシア側はアスピスの弓を警戒するから散会戦術は取れないけれど、コア投げも警戒するから部隊を一箇所に集中させる事もできなくて、結果的に陣形を組んだ部隊を数個に分けて進軍して来る筈なんだ」
セフィリカ「真面目に考えると、そうなりますね。
中央と左右の三部隊でしょうか?」
聡「三部隊だと、中央が先に消耗して同じ規模で囲めないから、その隊列は合流速度重視だね。 前衛に2割程の精鋭を固めて残りを左右と中央に分けて波状攻撃という方が合理的だよね」
セフィリカ「初手でコアを使うと、残りの8割に同時攻撃をされる訳ですね。
確かに手堅い」
聡「勿論、部隊を6個に分ける可能性も有るけれど、殆どこれの変則型に収まると思うんだ」
セフィリカ「確かに、正面突破を凌ぎ切った直後に、三方向から囲まれる所は同じですね。 コアで一方向を切り開けば引き撃ちも可能ですが、近接戦では有利を取れない以上、やはりかなりの強敵ですね」
やっぱり、魔法具で引き撃ちができるセフィリカさんから見ても難敵なんだね。
聡「そこでだよ。 僕は二つずつ盾を持たせたフェアリーに、片側を食い止める様に動いて貰う戦法を広めておいたんだ」
セフィリカ「確かに、左右の一方を食い止めれば、中央の部隊がそれに近付く形になるので、コアで一掃という事も可能ですが……怖がりなフェアリーに、良く納得して貰いましたね」
聡「両腕に盾が有る安心感って、結構な物なんだよ。
怖がりな女の子にとっては、特にね」
セフィリカ「本当に、女性よりも女性的な方なのですね。
武略としては、逞しいですが」
聡「誉め言葉と捉えておくよ。
それと、この剣はコアと物凄く相性が良いから、紹介するね。
ロピスって言うこの魔法剣は、水の補助魔法と併用する事で、魔法を部分的に反射できるんだ」
セフィリカ「つまり、遠距離の地表を反射魔法で覆えば、大変な事になるのですね」
聡「良く分かっていらっしゃる。 それじゃあ、模擬戦を期待していてね」
セフィリカ「はい。 聡さん、やりますねえ」
彼女は、Greatなその言葉と共にとても嬉しそうに微笑んだ。
模擬戦の当日。
プレシア兵は僕の予想通り、中央の部隊が突き出た構成で進軍して来た。 確かにあれは、冷気の爆風に対しては有効な陣形だけれど、弓矢に対してはどうだろうね?
聡「両サイドにはまだ距離が有るし、ラフィちゃん、ここは中央に集中しよう」
ラフィール「分かったの。 皆、正面から迎え撃って!」
聡「攻撃魔法には気を付けてね。 水属性・第二補助魔法!
ロッド・オブ・ピアース!」
フェアリー「はい、ラフィール様とお兄ちゃん。 風属性・第三攻撃魔法なの!」
両腕の小盾を構えながら、両手の魔法アクセサリーで強化した風魔法で引き撃ちを始めるフェアリー達。 場の属性値の御蔭で、かなりの高機動だ。
プレシア兵「来たな、水属性・第四攻撃魔法!」
フェアリー「きゃあ! それでも、湖みたいで凄かったのー」
プレシア兵「クッ、魔法バリアとは
どうやら、水魔法で引き込んでから叩く戦法には、ロピスによる軽減が効いているみたいだね。 フェアリーはきっと紙耐久だから、バリアの切れ際が狙われないかが心配だけれど。
セフィリカ「私達も迎え撃ちます。 光属性・第三攻撃魔法!」
えっ、魔力消費武器ではなく、光の攻撃魔法なの!?
僕がそう驚く間もなく、重量弓らしい発射音と共に、プレシア兵に矢が向かう!
それでも、通りはあくまでも盾で減衰した程度みたいだね。
やっぱり、あの人達は本当に水龍なんだ。
プレシア兵「この程度!」
セフィリカ「まだまだ! 矢は数を積んでこそ真価を発揮する物ですよ!」
アスピスに備えてか、プレシア兵は衛兵が持っていた様な少数戦用の中量盾ではなく防御範囲に特化した集団専用の重量盾を装備している訳だから、これは当然の結果かも知れないね。
プレシア兵「防御陣形、二型!」
即座に、盾を構えた前列が横にずれて縦列の側面に移動する。 あれはダメージを分散させて、回復魔法を利用する戦法だね。
それにしても、あの四角い陣形は多分ファランクスだよね。
それでも、遠くを見渡しながら指揮を執る中で、僕はある違和感に気付いた。
聡「ラフィちゃん、陣形を左斜めに寄せよう。
森が苦手なセフィリカさん達の事を考えると皆を先導するのはセイレーンの方だけれど、中央の進軍が遅いから囲まれない様にね」
ラフィール「分かったの。 皆、囲まれない様に左斜めに並ぶ様に迎え撃って!」
フェアリー「はいなの。 風属性・第一補助魔法。 風属性・第三攻撃魔法なの!」
しっかり加速魔法を使いながら弱点で攻撃するフェアリー達。
前列で不利を取っても、これなら勝機が有りそうだ。
プレシア兵「防御陣形、三型! 水属性・第三攻撃魔法」
何故だろう? 中央の進軍速度が遅過ぎる。
左右から扇形に挟む様に変化したと考えた方が妥当だろうね。
左側の突破すら厳しそうだし、僕は透かさずセフィリカさんに通信を入れる。
聡「セフィリカさん、かなり早いけれど、理力を分け与えたセイレーンを右側に押し出して。 斜め向きに中央の集団に、コアを打ち込もう。
あの陣形は、対遠距離の一網打尽型だよ」
セフィリカ「そうですね。
この出方は様子見という印象では有りませんし、行きましょうか」
プレシア兵「水属性・第四攻撃魔法!
我等が切り開く! ミドルドラゴンアーム!」
フェアリー「いたいのー!」
セフィリカ「やりますねえ!」
プレシア兵「クッ! ならば魔法剣です! 水属性・第三攻撃魔法!」
フェアリー「きゃあー!」
引っ張られた!?
集団の第三魔法でバリアを破壊した直後に引き込んだんだね。
そこに、返し切りバリの速さで炸裂する魔法剣!
……あの人達、亜人って言うレベルの強さじゃない。
しかし、そんな状況にも慣れているかの様に、ひたすら重量弓を撃ち続けるセフィリカさん!
聡「光属性・第三回復魔法! 水属性・第二補助魔法。
早過ぎて、発動が追い付かない!?」
回復魔法の発動時点で、彼女等はアサシン的な動きもできるタンクファイターなんだと察した。
身代わり石と移動速度で持ち返せるのが救いだけれど、これだとまるで人の姿をした
属性で有利なフェアリーが二方向で、セイレーンが右側で何とか凌いでいる中で、僕は意識を集中させる。
聡「セフィリカさん、行くよ。 水属性・第四補助魔法!
ロッド・オブ・ピアース!」
セフィリカ「御願いします! 光属性・第四攻撃魔法!
ミックスフロート・アロー!」
プレシア兵の足元が湖の様に鏡張りになる。
そこに、激しく白光する氷の矢が襲い掛かる!
それに合わせて、セイレーン達も氷耐性の補助魔法を唱える。
セイレーン達「水属性・第四補助魔法!」
プレシア兵「総員、保温系の魔法具を構えよ!」
防がれる!?
そう思った瞬間、
聡「これが、ミックスフロート!? これじゃあ、ホワイトアウトじゃないか!」
猛烈な寒風に遮られて、プレシア兵達の言葉は聞き取れなかった。
圧倒的とは、この事か。
フェアリー「さむいのー!」
凍えながらも、何とか身代わり石で受け流して僕等の所まで逃げ帰って来るフェアリー達。
聡「光属性・第四回復魔法!
……風属性のフェアリーって、氷魔法に強いんじゃないの!?」
ラフィール「ラフィも、さむいの、きらいなの!」
ああ、細身な程体が冷え易いのは、この世界でも同じなんだね。
つまり、大柄なプレシアには氷属性も冷やし切れば有効という程度で、弱点属性と言うよりは直撃したから効いたんだね。
プレシア兵「……まさか、これ程とは」
屈強なプレシア兵も、3割は撤退したね。
……それにしても、あれを受けて生きているんだ。
そんな中、ラフィちゃんの魔法具にサニアちゃんからの連絡が入った。
サニア「ラフィールさん、皆さんも、聞こえているのでしょう。
どんな魔改造をしたのかは後でアスピスを問い正すとして、今の状況から第五魔法でフェアリー達を突き崩しても、これだけ消耗した兵でセイレーンを跳ね除けながら後列を叩くとなると、こちらの方が不利よね」
ラフィール「それじゃあ、サニアちゃん!?」
サニア「ええ。 実戦なら一旦城に引いて後日再戦する所だけれど、模擬戦としては私達の負けよ」
聡「そっか。 模擬戦だから、初日に有利を取った方の勝ちなんだね」
セフィリカ「そう言う事です。
遠距離である以上、判定勝ちを狙うのが得策でした」
実際、彼女もプレシアと本気で戦ったら勝てるとは思っていなかったんだね。
もしも再戦なんてしたら、こちら側には前衛で引き撃ちをしたフェアリー達が居ない訳だから。
第五魔法を出し惜しみして、倒し切れそうなセイレーンを口実に負けを認めた時点で僕等に花を持たせてくれた事は想像に
セフィリカ「やはり、プレシアは敵に回したくない強国ですね」
サニア「それでも、今回は所詮シュクレの産物とミックスフロートを侮った私達の完敗よ。 それより、巻き込まれて可哀想なフェアリーに、早く保温系の魔法具を分けてあげないとね」
聡「ありがとう。 御願いするよ」
敵に回しても、やっぱりサニアちゃんは、サニアちゃんだね。
気高い分、引き際も潔い。 それにしても、あの子は本当に侮ったのかな?
同じ立場なら僕もああした可能性は有るけれど、それは小型種のミックスフロートよりも主兵装の重量弓を警戒した場合だね。
プレシア兵「使いなさい。
私達も、少女が凍えているのを見過ごすのは、心苦しいので」
フェアリー「お姉 ちゃん、ありが とう なの。 さ、さむ いのー」
ラフィール「ラフィ も、さむ いのー」
聡「それじゃあ皆に、水属性・第三補助魔法 光属性・第四回復魔法」
ラフィール「あ、ありが とう なの」
プレシア兵「先程までは敵同士だったと言うのに、有難う御座います」
聡「こう言う時は、御互い様だよ」
プレシアの皆さんも、戦力こそ怖ろしくても、心は優しい女性なんだね。
プレシア兵「御強いのですね。
プレシアの国民としては、是非とも国益とは無関係な形で国宝であるロピスの使い手とは一戦交えてみたい物です」
聡「
僕もロピスも決闘向きの性質じゃないし、水魔法で引き込んで大振りからの魔法剣なんて物を見せられたら、とてもじゃないけれど戦いたいとは思えないよ。
それに、水属性も効かないんでしょう?」
プレシア兵「一戦で見切るとは中々の洞察力。
是非とも、軍師に欲しいですね」
セフィリカ「貴女方も、冗談が御上手なのですね」
生粋の
それでも僕は、敢えて近付きはしなかった。
彼女も、それに気付くと御堅い表情に戻る。
セフィリカ「流石は聡さんですね。 貴男の指示は、常に的確でした」
聡「セフィリカさん、どうしてここまでしてくれたの?
あの魔法具は、明らかにシュクレが作れる様な代物ではないよね。
あんなに露骨な魔改造なんてしたら、魔法具の過剰生産国がアスピスなのは、誰が見ても分かる事だけれど」
セフィリカ「今は、私の口からは聡さんの境遇が私達と重なって見えたとしか言えません。 賛同国が疑われる可能性も考えてそれは私達ですと明言しますが、理由までは許して下さい」
……きっと、ロピスの鱗型のガード部分からプレシアの剣と察したんだね。
聡「それだけでも、教えてくれてありがとう。
一応確認しておくけれど、ミックスフロート・アロー並の物って、アスピスだけでは作れないよね」
セフィリカ「はい。 御察しの通り、あれはミックスフロートが取り込んだ湖の魔力を抽出、増幅した物ですから、私達には一からそれを作れる程の魔力は有りません」
僕にも他の属性は扱えない訳だし、彼女等に氷の魔法具を作れないと言うのは事実だろう。
サニア「そこは、第四魔法までの生産系の種族なのね。
それはさておき、貴女が素直に打ち明けていれば、フェアリー達は痛い思いこそしても、寒い思いまではしなくても済んだのよ。
賛同者を守ろうとしている事に関しては、確かに私も評価するけれど」
聡「サニアちゃん、今は
それでも、セフィリカさんは、絶対に良い人だよ」
セフィリカ「聡さん……」
聡「そうでしょう。 セフィリカさん」
セフィリカ「有難う御座います」
サニア「全く、仕方ないわね。
何個も作れる訳では無いのなら、多少話を先延ばしにしても危険という事は無いでしょうし、私達だけでその賛同国とやらを探してみるわ」
ラフィール「ラフィには、十分寒かったし危なかったの!
皆だって、痛がってたし」
そりゃあ、痛いだろうね。
ミドルとは言えドラゴンアームだし、あの子達も良く頑張ったよ。
聡「サニアちゃん、そうなんだって。
次は、もう少し手加減の仕方を覚えて来てね」
サニア「そうね。 今度までに、辞書に載っていた手加減用の打撃技を練習しておくわね」
ラフィール「ありがとうなの♪」
両刃剣には、
シェリナ「あらあら、随分と技量に自信が有るのですね♪」
決着を確認して、シェリナさんもやって来たみたいだね。
聡「セイレーンも凄かったよ。
あのプレシア兵に大剣みたいな鑓で牽制していた訳だからね」
シェリナ「光栄です♪」
話が一段落した所で、僕がふとセフィリカさんの方を見遣ると、戦いの後とは思えない程打ち解けた僕等の事を、彼女は優しくも遠い目をして眺めていた。
目が合った瞬間、彼女は僕に一際優しく微笑み掛けた。
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