第2話 プレシアの姫君

 2話スタートの方が多い事から、作品全体の前書きはここに載せました。

 冒頭にも有る様に、本作は主人公の行動次第で序盤から物語が変化する事から分岐型の面白さを意識した12話アニメ風の恋愛小説です。


 その中でも2種類有る内のA√は調和の物語を意味するハーモニックテイルらしく音響で例えると、恋愛描写は明るく柔和なE♭(ミ♭基点)で物語はサニアに合わせたD♭(レ♭)ですが、凛とした快活のDと言われる東洋を含み女性的な中型種を目指す民意はむしろ古典西洋のB系(シ系)に近いので結構色々なタイプが調和しています。


 音響考察からのサニアちゃんですから尖って見られがちですが、初手という事でA√はかなり分かり易さを意識しているので、色々有った女性陣の御話の中では順当に進めた入門編と言えましょう。(中型種の身長は、東欧辺りから来ています)



 快活寄りなミシ+♯系と繊細や逆境寄りなドファ+♭系の音度表での立ち位置等は検索案件ですが、それらの対岸にはむしろ楽し気な元気少女も含まれるのでBGMについてはそちら側の方が良い場面も多々有ります。


 少女漫画にも多いアイドルのE G系統とマスコットに代表されるソミソのCon5はむしろ女性向けですし、ベース音が男性的なAmは主旋律を高音域にすると男女の恋やアメリカの母親感も演出できますからねb


 同じ体勢でのフロート移動はアニメ化用の最適化でもあるので、映像化したらどうなるのかを考えつつ彼目線やヒロイン目線で楽しむのも面白そうですよね♪



<i429143|31396> (サニア=セレイティス  熟考すると真の勇者)

(みてみんには彼女のリアルなシルエットも載せて有ります)



(次に小蔭ちゃんが出て来るのは10話な様に、第1話を読まないと彼等の心境が掴みにくい部分も有りますが、ここで2話スタートの方向けの解説もしておきます。


 魔法具の過剰生成疑惑の首謀者を特定できれば最も疑われている東洋怪異の蛇姫につかえる旧友の妹分こと宵月小蔭を助けられる。


 事情を知った志方聡しほう さとるは人望から疑われていないセイレーンの国の時期姫君であるシェリナと共に精霊界に降り立ったが、彼女との会話の中で彼が一際興味を示したのはこの一件の解決に最も貢献しそうな属性一致の姫君のサニアであった)



第2話 プレシアの姫君


聡「そのサニアちゃんって言う子は、とっても良い子なんだね」


シェリナ「確かに私も、彼女自身はとても良い姫君だと思っております」


 珍しく、とげの有る誉め方だね。

 隣の愁いなのかも知れないし、両種族の不仲を察した僕は彼女等両方のフォローをこころみる。


聡「その子達が素直で、シェリナさん達が奥ゆかしいから、そう思えるのかも知れないね」


 上手く言えた自信は無かったけれど、彼女は納得した様子で微笑んでくれた。


シェリナ「本当に、そうかも知れませんね」


 魔法の話は一段落したし、次は拠点だねと思っていると、陸の方から一人の女性がやって来た。 これが有名なセイレーン……じゃない。 大剣みたいな鑓持ってる。


 流石に鎧はローブの上に中量級の物だけれど、この分だとサニアちゃんの国の兵士が相当に硬いんだろうね。


 あの名作では扱い易い数発斬りの性質だったけれどこれは防御貫通の突撃型だし、この流れだと彼女等には水魔法も効かないと思って良さそうだね。


近衛兵「姫様、御待たせ致しました。

 本当に、湖は異世界に繋がっていたのですね」


シェリナ「そうです。

 辞書の文面をかんがみると、彼はその世界の中でも一際魔法に詳しく、こちらの世界を半ば知っている様にすら思える御方です」


 まるで対等な地位の人と話す様に会話を始めるシェリナさん。

 確かに彼女らしいけれど、セイレーンの兵士さんも慣れ親しんだ様子だから、こちらの世界ではそれが普通なんだろうね。



近衛兵「それは興味深いですね。

 それに、彼が魔法に詳しいのであれば、尚更得意とされる属性が気に成りますね」


シェリナ「驚いて下さい。 信仰魔法です!」


近衛兵「それは素晴らしい! きっと、和睦を貴ぶ御方なのでしょうね」


 ……友達感覚?

 いや、僕等の世界が権威に対して御堅過ぎるだけなのかも知れないね。


 僕が国賓扱いな事よりも、御嬢様育ちなシェリナさんの国が権力に柔軟過ぎる事に僕は驚きを隠せないけれど、この分ならこの異世界の良識の中でも問題は起こりにくそうだね。 人に他者を受け入れにくくさせる要素って、大抵御堅い格式や譲れない主義とか信念だし。



近衛兵「そんなに荷物を持っていては重いでしょう。 これを御使い下さい」


 彼女は、その言葉と共に僕に水色の水晶の付いた銀色の円盤の様な物を手渡した。


近衛兵「風の魔法アクセサリーと呼ばれるフェアリーの魔法具で、長時間浮遊できる物です」


聡「有難う御座います」



 内心何だか低歩数縛りRTAみたいだとも思うけれど、流石にこれは突っ込まない。

 深夜アニメだって、一般的には製作費縛りプレイだからね。

 あの辺りも、もっと費用と寛容さが有れば優しい世界になれるのに。


 それにしても、普通は御嬢様と庶民の区別が明確なら、御国柄も厳格な筈なんだけれどと思いながらも、姫君が良い距離感を望んでいるのか、庶民の教育が進んでいるのかと憶測しつつ、女性同士の会話を楽しむ二人を傍目に浮いていると、何かを思い出した様に二人が振り向いた。



シェリナ「別荘に着けば御城に続く転送用の魔法陣が有るので安心して下さいね」


聡「やっぱりそれ、御付きの人の言葉じゃない?」


 僕が違和感をこらえ切れずに切り出すと、二人はきょとんとした様子で顔を見合わせる。


シェリナ「聡様は、本当にサニアさんの様な事を言うのですね。

 貴族の出身なのですか?」


近衛兵「失礼致しました」


聡「僕は庶民だけれど、僕等の世界は年とか役職とかの上下関係に厳しいから、何となくね。 それでも、セイレーンさんもわざわざ向こうの世界の僕に合わせる事は無いから安心してね」


近衛兵「有り難きお言葉」


シェリナ「寛容なのですね」


 さっきから英国騎士の様な近衛兵さんと、安定感の有るシェリナさん。



聡「寛容なのは、むしろこの世界の方なんじゃないかな?」


 僕がつくづくそう思いながら続けると、二人はクスクスと柔和な笑みを浮かべた。


聡「それにしても、転送陣の移動先って固定なの?

 魔法具との複合で移動先を変えられたら、湖面の魔力が危険でも外交や貿易に役立つと思うんだけれど」


 一時ひとときの後、僕が当たり障りの無さそうな事を聞くと、二人は真剣な表情で再度顔を見合わせる。


シェリナ「偶然にしては、出来過ぎていますよね?」


近衛兵「姫様、予定を繰り上げましょうか」


 偶然? 予定の繰り上げ? 一体何がそんなに不思議なのだろうか。



 砂浜から坂を上り短い林道を抜けた僕等は、乳白色の貝を思わせる色合いの高級そうな別荘の一室から彼女の御城に続く転送陣に入った。


 元々は、一日掛けて彼女の国を紹介する予定だったみたいだけれど、彼女は付き人と別れると僕を個室に招いた。


 姫君への挨拶が後でも良いのは、僕等の関係を知っている彼女の御厚意らしいけれど、この流れは流石に気に成る。



聡「姫君の厚意には感謝するけれど、来て早々個室に招くなんて、まるで人払いをしたみたいだね。

 それでも、言い辛い事が有るのなら取り敢えず話を聞いてから考えさせて貰うね」


 すると彼女は、とうとう堪え切れなくなったという様子で独白し始めた。


シェリナ「一緒なんです……全部」


聡「何が、一緒なの?」


 彼女の尋常ではない様子に、僕も何を言われても良い様に心の準備をする。


シェリナ「本日の、特に先程の聡様の御言葉は、語尾こそ異なりますが、全て同じ状況に立たされた時のサニア=セレイティスさんの発言と……一緒なんです」


 考え過ぎだと思いたいけれど、思い当たる節も有り唖然とする僕。

 それでも、僕にはむしろ、それは逆に微笑ましい事な様にも感じられた。



聡「立場も性別も違うのにそんなに似ているなんて、何だか義理の妹みたいだね」


 一瞬、僕の言葉に首をかしげたシェリナさんも、納得した様にいつもの彼女に戻り微笑む。


シェリナ「あんなに可愛らしい御姫様と、頼れる聡様がそっくりなんて、不思議な御話ですね」


聡「正に、ファンタジーの世界だよね」


シェリナ「それでは、当初の予定通りにこの世界の事を御話し致しますね」


 先程までとは一変して気を取り直した彼女は、隣り合う白い丸椅子の左側に腰掛けると古風なメモ帳を目の前の丸テーブルに広げて、魔法具らしいペンで簡単な世界地図を描き始めた。



 セイレーンのローブ風の服にも、内向きのポケットとかは有るんだね。


 等と庶民的な観点で感心しつつも、僕は足元の真赤な絨毯じゅうたんに緊張しながら彼女の隣に腰掛ける。


 それと同時に、僕が描かれた地図に目を遣ると、そこにはドーナッツの輪を斜めの線で区切った図形が有った。


聡「二つの丸の内側を湖と考えると、それらの間が国家の有る陸地だよね」


シェリナ「良くこれだけで分かりましたね」


聡「ああ、これから書き足す予定だったんだね」


シェリナ「音楽系の魔法具に長けるセイレーンの次期姫君が芸術にうとかったら、他国の方々に笑われてしまいます」


 珍しく口許をとがらせるシェリナさん。


 彼女の身長は、平均的な僕に近い位有る訳だけれど、敢えて若干の上目遣いをする辺りは彼女なりの女性らしさだよね。



 表情の割に柔らかい手付きで湖周辺の地図を描き上げた彼女は、饒舌じょうぜつに地理の話を始めた。


 湖の周囲に円形の山脈なんて、広大な平地が有るから勿論違うけれど、何だかカルデラみたいだね。


シェリナ「この世界の陸地は際限無く広いと言われておりますが、中央に描いた湖の遠方にはその全域を囲む様に山脈が存在するため、私達は外の世界とは外交を持っていないのです」


聡「つまり、この辺りの人々にとっての世界は、あの湖の周辺なんだね」



シェリナ「そうです。 こちらの世界は、上側、右側、下側、左側に分かれ……」


 これは流石に止めないと! と思い立ち、僕は彼女の言葉を遮る。


聡「ちょっと待って。 上や右では、どっちに進めば良いか迷うんじゃない?」


シェリナ「あら、これですか?

 湖の流れは右回りなので、特に地図上での場所は水の流れが速い私達の国を上側として、そう呼んでいるのです」


聡「何だか、時計みたいだね」


 僕が午後3時頃にこっちに来た時は、こっちでは午前6時頃の明け方の太陽みたいな物が湖の左側に見えたから、北から南を見た時の左手側は東だし、幸い僕等の言う北側が上みたいだね。



シェリナ「正に時計です。

 私達の世界の物はプレシアの国の特産品で水の魔法具ですが、貴男の世界にも同じ様に光の来る方向を参考にした物が有るのですよね」


聡「そう考えると、辞書って便利だね。 それじゃあ、続きを聞かせてよ」


シェリナ「それでは、各国の話に移りますね。

 これはきっと、聡様の得意分野ですよ♪」


聡「ゲーム知識、OP (オーバーパワー)だね」


シェリナ「きっと、そう言う事ですね!」


 クスクスと微笑んでから、彼女は丁寧に各国の紹介を始めた。



シェリナ「まず、ここが上側の中央でセイレーンの国ですね。

 特産品は音楽系の魔法具です。

 現在の姫君は私の御母様で、名前はセレーネ=エル=セレスティアルと言います。


 その真上には、フェアリーの国が有ります。

 特産品は風の魔法アクセサリーです。 私達よりも1割近く小さい小型種で、姫君はラフィール=ウェル=エスペシアちゃんです。


 上の右側には、アスピスと言う小国が有ります。

 文字通り、魔力の抽出を専門としています。 魔法具作りが二番目に得意な種族でもあり、姫君はセフィリカ=ガーネットさんです。


 左の上寄りはサニアさんの国なので最後にして、右側には小蔭ちゃんが帰った東洋怪異の国が有ります。 この国を治めているのが蛇姫様で、ここでは生活に役立つ魔法具が幅広く作られています。


 下の右側には、可愛いつぼみを略したプリバドと砂糖を意味するシュクレの連立国が有りますが、他種と共同して国家を作ったあの子達が今回の一件の黒幕とは思えないので、次に移りますね」



 本当にそうだろうか?


 今回の一件は、消費マナに対するオリハルコンの生成効率に起因する訳だから、平和利用を目的に作られた機構が他国から勘違いされた可能性は十分に有り得る。


 勿論この場合でも、その技術が兵器応用される可能性は有るのだけれど。


 物憂げに考える僕の様子に気付いたシェリナさんは、一時の間を置いてから紹介を再開する。



シェリナ「下の中央の温泉地には、サラマンダーの国が有ります。

 冷気に弱く、熱に関わる魔法具が特産品なので、隣国の対策として特に保温系の魔法具を重要視している模様です。

 大柄ながら和睦を貴ぶため、姫君のルベライト=キーネストさんは各国から信頼されています。


 左の下寄りには、芸術が得意なスノードロップの国が有ります。

 名前の割に気候は穏やかで、このままの格好で私達が入っても凍える心配は無く、特産品は冷気に関する魔法具です。

 隣国が共に強大なので、姫君のコーティス=ミスティヴェールさんの手腕が問われています。


 最後は左の上寄りのプレシアの国ですね。

 特産品は水時計等の水に関わる魔法具です。

 この国を治めるサニアさんは、各国の疑心暗鬼を明確に嫌っているため、彼女が何らかの方法で黒幕をあぶり出そうと動き始めるのは、時間の問題と言われています」



聡「もしかして、人を無暗に疑いたくないとか?」


シェリナ「合格です。

 これを聞いた方々は皆さん揃ってプレシアを怖がるのですが、貴男様がサニアさんと結ばれたら、きっと良い御兄さんになるのでしょうね」


 彼女は、優しくも憂いを帯びた瞳をして見せた。


聡「折角良くして貰っているのに、ごめんね」


シェリナ「この世界では殆どが女性なのですから、姫君の私と言えども希少な男性である聡様の御心を尊重するのは当然な事なのです。

 複数の女性を大切にされる男性が殆どでなければ立ち行かない人口比でもあるので、御相手が聡様でしたら、私は側室でも大丈夫ですからね」


 真面目な彼女が、この話題で冗談を言う訳が無い。


聡「女性が生まれ易い世界も、大変なんだね」


 僕は、各国の状勢以上に、彼女等の境遇に目が行っていた。



シェリナ「質問は、有りませんか?」


 一時の間を置いて、彼女が切り出す。


聡「プレシアやアスピスの外見と、可愛らしい連立国の事が気に成るな」


シェリナ「御主人様にしては、随分と基礎的な事を聞かれるのですね」


聡「僕の前提知識も、新作には非対応だからね」


 不思議そうに首を傾げたシェリナさんが、気を取り直して話し始める。


シェリナ「長身ですが、見た目は普通の女性ですよ。

 ですが、詳しい話は明日にしましょう。

 連立国については私も詳しくありませんし、明日はあの国に向かいますからね」



聡「そっか。 それじゃあ、用が有ったらまたここに来てね」


シェリナ「そうですね。 御母様は、丁度先客が居るので挨拶は御食事の時で良いと仰っていましたし、御風呂の準備はその後に致しますので。

 ……それに、私の御部屋は隣ですから」


 そんな事を含み笑いで言われた僕は、落ち着いて仮眠を取る事すらできなかった。


 その後は、シェリナさんを30代にした様な外見の御母様への挨拶や手の込んだ御料理とかに僕は終始緊張していた訳だけれど、一番驚いたのは白身魚風に盛り付けられた白い果実だね。


 繊維質で果汁の多い熱帯フルーツの様な食感だったけれど、これは魔力の実と言う主菜らしい。 全てが魔力で循環する優しい世界。

 僕は、そんな事を思いながら豪奢ごうしゃな一日を過ごした。



聡「設備が良いって、最高だね!」


 昨晩の事を思い返しながら翌朝を迎えた僕の第一声は、この一言だった。


シェリナ「違いの分かる御方なのですね♪

 むしろそこまで、あの子みたいに思えますが」


 苦笑しながらも合わせられるのは、もはやシェリナさん特有の安定感だね。


シェリナ「それでは、朝食を済ませたらあの子達の国に向かいましょう。

 サニアさんは、小さい頃に聡様の辞書の逸話を聞いた時から、ずっと御兄さんが欲しかったみたいですし」


聡「そうなんだ。

 僕もあの辞書の一件以来、ずっと妹みたいな子が欲しかったんだ」



シェリナ「本当に、似た者同士なのですね♪」


聡「流石にこれに関しては、小蔭ちゃんの影響の方が大きいと思うけれどね」


 昨日と同じく、西洋風の豪華な食事を終えた僕等は、二人だけでプレシアの国境に向かった。


 部外者に優しい強国に戦意が無い事を示すためとは言え、彼女の単独行動を認めるなんて、セイレーンの国民も随分と思い切ったね。


 さりげなく行動資金や護身用の魔法具の身代わり石までくれたり、小振りな肩掛け鞄を除いた荷物の隠し場所について直に理解してくれた事も考えると、確かに彼女等らしいけれど。



 国境線が厚くないのは種族別の建国で民意的にもスパイが不可能だからとしても、二国間を2時間近くで移動できる風の魔法アクセサリーを低級品と考えると上位の物には警戒が必要だよね。


聡「それにしても、魔法アクセサリーって、風属性にしては移動速度が遅いよね」


 そうなのだ。

 少しだけ浮きながら移動している割には時速20km位しか出ていない。


シェリナ「風属性が苦手な、水の中型種が使っていますからね。

風属性で小柄な種族なら、この倍速は出ますよ」


 つまり、彼女と移動速度が同じ僕には、副属性として水が含まれているんだね。


聡「そうなんだ。 それでも僕達、結構な距離を移動したよね」


シェリナ「そうですね。 連立国の御話もしましたし、そろそろ国境ですね。

何としても、戦争だけは避けなければ成りませんね」


聡「そうだね。 戦いは、やるとしても演習や模擬戦までが一番だよ」


 シェリナさんは、プレシアの戦力以上に、戦争自体を避けたいみたいだね。



 それと、移動中に聞いた話では下側の連立国は小さい女の子達の仲良しこよし集団らしい。 プリバドは希少な魔力の実を精製して作る魔法ペンダントを、シュクレは氷魔法で動く船のミックスフロートを作れるらしい。


 やっぱり、小型種の連立国も部外者ではなさそうだねと考えていると、僕等は砂浜を見渡せる丘に有る国境の門に到着した。

 話は通っているみたいで一安心するけれど、この流れだと相当な強国だよね。



衛兵「その格好は!

 話には聞いておりましたが、本当に異世界という物が有るのですね」


 セイレーンローブを着ていても、足元の長ズボンで異世界の格好とは分かるよね。


聡「そうです。 見た所この国はとても厳格そうなので、姫君に謁見えっけんするのは難しい事だとは思いますが、小国に戦火が及ばない様に御願いできたらと思い、僕等はここに参りました」


衛兵「ほお……その言い回し、姫君が興味を持たれた事にも頷けます。

 安心して下さいませ。

 国賓として迎える準備が整っておりますので、シェリナ様もこちらへどうぞ」


聡&シェリナ「有難う御座います」


 門前の3人は、先端付近まで均等の太さをした全長1.3m程の極太剣や銀色の鎧を装備した大型種の女性だったけれど、僕等は快く通された。


 やっぱり、3人目は案内役だったんだね。

 それにしてもこの大剣、両刃型で突撃も可能だから盾を併用して重量による打撃を活かす万能型だね。

 リーチの短さは、防具の硬さや先の尖った腕用の突撃盾を含む攻撃速度で補完するのかな?



聡「この魔法具、使いますか?

 左腕の盾も面積以上に重そうだし、使い切ったら僕が帰りに歩きます」


衛兵「それでは、有り難く使わせて頂きますが、魔法アクセサリーも長持ちする物なのですよ」


 一安心した僕は、彼女と一緒に魔法アクセサリーを持って、遅めに浮遊し始めた。


 街中だから低速飛行でも大丈夫だけれど、向こうの世界の格好の僕が兵士と一緒に浮いている姿は、頭一つ分位の身長差やローブのデザイン以外はセイレーンと似ているこの国の人々にはどんな風に映るのだろう?



 プレシアは大型種だけれど、水属性の筈だから見た目以上に繊細なのかも知れないし、185cm以上有るからと言って豪快と予想するのは早急そうきゅうだよね。


 多分彼女等が氷属性も効くと言う水龍なのだろうけれど、もしかしたらこの世界の伝説上にはプレシオサウルスの様な首長竜が描かれていて、それがこの種族の語源なのかも知れないね。


 僕がそう思い始めた頃、僕等は丘の上に佇む御城に到着した。


衛兵「こちらへどうぞ。 姫君の元に、御連れします」


聡&シェリナ「御願いします」



 厳格な御国柄に緊張しつつ玉座に通された僕は、この国の姫君を見て唖然とした。

 ウェーブの掛かった肩程までの暗い水色のツインテールに藍色の瞳。

 そして黒のドレス。 ……間違いない。

 サニアさんとは、水面越しに僕と手を振り合っていた、あの女の子だったんだ!


サニア「え、湖の御兄さん!?」


シェリナ「あら、サニアさんもこちら側から聡様と友好を深めていたのですか?」


 え、シェリナさんは僕とこの子の関係を知らないの? ……そっか。

 湖の随所とあの泉が裏表の関係で映し合っていたと考えると、湖側のシェリナさんが僕等の関係を知らないのも当然か。



サニア「そっか。

 あの水面は異世界同士を映し合っても、こちら側の対岸は映さないものね。

 それにしても、いつも数秒だけ聡御兄さんが優先する先客が、貴女だったとはね」


シェリナ「あら、優先して下さっていたのですね」


 納得した様に微笑むサニアさんと、僕の左腕に抱き付いて意味深な笑みを浮かべるシェリナさん。


 ……さっきの思考が同じだったのは気になるけれど、幸い、僕等の世界ではあるあるな、彼女等同士の衝突は起こらなそうだね。


 辞書と水時計が有るのなら時間は秒とも数えられるし、彼女等は男性の少ないこちら側から僕を慕っていた訳だから独占欲が小さくても筋は通るけれど、これ程感覚が違うとは意外だね。



サニア「それじゃあ聡御兄さんは、私には尊敬語を使わないでね」


聡「ありがとう、サニアちゃん」


サニア「ちゃん付け……嬉しいかも」


 真赤になるサニアちゃんと、戦慄する兵士達。

 そして柔和に微笑む安定のシェリナさん。

 このシュールな絵の中でも身の安全が保障されているのは、流石は異世界と言うべきだろうね。


サニア「それじゃあ、本題に入りましょうか。

 シェリナさんから各国の話を聞いていたらで良いけれど、聡御兄さんはこの一件の黒幕をどの国だと思いますの?」



 異世界の速さで立ち直ったサニアちゃんは、真剣な面持おももちで難問を問いて来た。

 僕は、東洋怪異とプレシアを除外した上で中堅国家の属性と立地から覇道の現実性を検討し、難しい一カ国以外は不可能と判断すると、特産品と種族の特徴から二カ国を疑う事にした。


聡「僕は……プリバドとシュクレの連立国かアスピスの国だと思いますが、スノードロップの可能性も視野に入れておくべきと考えます。

 氷属性の魔法具は、左側の各国に有効ですし」


 僕がそう応えた瞬間、シェリナさんを含む全員が驚き、場は静まり返った。


サニア「……一緒だわ」


 何故か一人、サニアちゃんだけが満足そうに微笑んだ。



サニア「どうやら、噂は本当みたいね」


 噂? 僕が到着したのは昨日だけれど……セレーネさんが連絡したのかな。


シェリナ「やはり貴女も、そう思いますか?」


サニア「考えている時の雰囲気まで一緒だと、疑い様が無いわよ。

それでも、興味深いわね」


 瞳を輝かせるサニアちゃんに、僕は朗報を伝える事にする。


聡「実は僕、光属性の信仰魔法の適性が有るらしいのですが、副属性に水魔法の適正も持っているみたいなんです」


サニア&シェリナ「何ですって!?」



サニア「……信仰魔法の適性の持ち主なんて信じ難いけれど、優しい聡御兄さんですものね。

 それにしても、貴女は彼と一緒に居たんじゃないの?」


シェリナ「一緒には居ましたが、副属性の話は聞いておりません。

 水魔法を、使えたのですか?」


 数秒の間、真剣に考え込むサニアちゃん。


サニア「分かったわ。

 その風の魔法アクセサリー、移動速度が一緒だったのでしょう」


聡「そうです。

 水属性の人が遅くなるのなら、光属性と別属性なら速く飛べる筈ですよね」


シェリナ「気付きませんでした」



サニア「それにしても、初めて見た信仰魔法の適正の持ち主が、私と全くの同属性とはね」


 感心するシェリナさんを横目に物憂げな……むしろアンニュイな表情をするサニアちゃん。 それにしても、フランス辺りの言葉が似合う子だね。


聡「サニアちゃんには、それ以上の水魔法が有るよ」


サニア「私もそう思いたいけれど、やっぱり、こんな嫉妬はいけないわよね」


 水から光を得た彼女にとって、光から水を得られる僕は、正面から負ける可能性が有る対等な相手に見えるのだろう。

 そんな境遇の中でもこの言葉が出て来るなんて、とても良い子なんだね。



 一時の間を置いて、サニアちゃんが口を開く。

 何となく、優しい目をしている様にも思える。


サニア「分かったわ。

 貴男に信仰魔法と水魔法を教えてあげる。

 ただし、私から魔法を教わる以上、絶対に私と対等以上にまで強くなって見せなさいよ」


 柔和な笑み? ……ああ、そうか。

 それなら、僕の返答はこれにしよう。


聡「有難う。

 僕も、サニアちゃんの義理の御兄さんみたいになれる様に、精一杯頑張るね」


サニア「そんな風に言われたら、私……恥ずかしくて……ごめんなさい!」


 彼女は真赤になって俯くと、顔を上げた途端に走って左奥の通路に引っ込んでしまった。 これは……あれだな。

 可愛らしい、猫みたいと言う事にしておこうか。


 150cm以上有るとは言え10歳程の姫君が空席になった数秒後、右前列の兵士達の後方からサニアちゃんを30代にした様にはあまり思えないとは言え気品の有る黒いドレス姿の190cm程の女性が、僕等の正面に現れた。


 年と衣装からして元姫君だと思うけれど、きっとこの人があの子の母親だね。


元姫君「娘の不敬を御許し下さい。

あの子は、貴男が期待以上の御方で嬉しかったのですよ」


聡「何となく、分かります。

それにしても、元姫君にしては随分と御若いのですね」


 そうなのだ。 そう言った年齢にはとても見えない。


元姫君「まあ、御上手なのですね♪

 こちらの世界では、先代と先々代の姫君が、現在の姫君に対して半分ずつの影響力を持つ助言を行うため退位が早いのですよ」



聡「姫君が50%で、先代と先々代が25%とすると、五分五分の場合はどうするのです?」


元姫君「その場合は、その法案は棄却もしくは明らかに片方が優勢となるまで議論を致します」


 つまり、手前二代が反対した場合は、姫君も意見を押し通せない訳だね。


聡「絶対的な権力者が居る割には、歯止めが効く構造なのですね」


元姫君「即座に御理解なさるとは、聡明なのですね。 申し遅れましたが、私はこの国の元姫君でサニアの母親のソフィア=セレイティスです」


聡「そう言えば、こちらも名乗るのが遅れていましたね。

 僕は、志方聡と言います」


僕が一礼してから一歩下がると、シェリナさんもそれに続く。


シェリナ「小母様おばさま、御久し振りです」


ソフィア「シェリナさん、御久し振りですね。

 遠方から御越し頂き、有難う御座います」


シェリナ「私こそ、謁見を御許し頂き光栄です」


 やっぱり、王家の会話って普通はこうだよね。

 僕がそんな風に思いながら彼女等の所作に見惚れていると、ソフィアさんは僕に目線を合わせる様に屈むと女性的に話し始めた。



ソフィア「聡さん、貴男にでしたら安心してあの子を任せられるので、手間の掛かる娘ですがどうか宜しく御願い致します。

 国政については私と先々代がおりますので、貴男はゆったりと娘との時間を満喫すると良いですね」


聡「御心遣い、感謝致します」


ソフィア「慣れ掛けの敬語も可愛らしい……まるであの子を見ている様です♪」


シェリナ「私も同感です」


 彼女と同様に、柔和に微笑むシェリナさん。

 この子、本当に14歳位なのかな?


 それにしても、母親が公認しても娘想いな父親は中立みたいだね。

 どこの世界も、父親は父親か。



ソフィア「シェリナさん、私達も貴女方の国は疑っていませんから安心して下さいね」


 セイレーンの時期姫君が僕に同行した理由も、プレシアの元姫君なら言わずもがなか。


シェリナ「御言葉ですが、プレシアの方々がアスピスを疑われるのでしたら、その中間に居るセイレーンやフェアリーも安泰とは言えません。

 聡様が先程言われた三国を、どの様に確認なさるのかを教えて頂かなければ、私も安心して自国には帰れません」


 セイレーンも、流石は時期姫君だね。

 ソフィアさんも先を読み続けている様な僕等には隠し事はできないと思ったのか、今まで以上に落ち着いた瞳で話し始めた。



ソフィア「27日後の吉日には、通例通りに模擬戦が行われますよね。

 アスピスとフェアリーに関しては、その時に自ずと判明する事でしょう。

 あの戦いには、国の威信を懸けますからね。


 強力でありながらも和睦を貴ぶスノードロップに関しては、彼女等が国の威信を掛けたくなる様な行事を全国的に行えば魔法具の生成技術は測れるでしょう。


 小型種の連立国については、国民性を考えると他国の影響を受けにくいと思われるので、彼女等が何に興味を示すかを中心に今後の動向を見守る必要が有りますね」


 ……良かった。 これなら、戦争にはならなそうだね。


シェリナ「貴女から、その言葉を聞けて良かったです。

 これで私も、安心して国に帰れます」


ソフィア「そうですね。

 あの子も、誰も戦争自体なんて望んではいないと言っておりましたし、この分でしたら二世代先まで安泰でしょう」


 それを聞いた途端、シェリナさんは、はっとした様子で僕等を見詰めた。

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