異界ホテル探訪

琥珀もどき

Hotel Blue Star

友人の結婚式に参列するために、地元に帰って来た。

といっても何年か前に実家は他県に引っ越したので、ホテルに泊まるしかない。

予約したホテルは駅前だったが、さてどこだったか...まずは検索しよう。




ふとスマホから顔を上げると大きな、ホテル...?

目の前に巨大な門があった。白っぽい石造りの門で、まぶしいくらいに輝いている。その門を覆うように白と水色の花が咲き乱れている。

門の両脇にはどこまでも続く白い壁。壁にも一面に植物が茂っている。

綺麗だな~。一体どんな高級ホテルだろう?俺が予約したのは駅前のビジネスホテルなんだけどなぁ。


しかもこんなに広い場所は駅前にはないはずなんだが、ホテルを探しているうちに迷ったのか。周りを見渡してもこの建物と野原しかない。どこだここは。一応地元なんだけどな...



ところがこのホテル、予約したホテルと名前が一緒だった。門の横の金ぴかのプレートにしっかりと刻まれている。


Hotel Blue Star


確か予約サイトではホテルの名前と値段しか見てなかった気がする。痛恨のミスだ。

もう中に入って聞いてみるとしよう。俺の予約が入ってなければ出ればいいし、うん、そうしよう。俺は思いきって門の中に入った。

門の中はまっすぐ道があって、両脇に木々が茂っている。

正面には大きな噴水があって、その向こうに白を基調としたお屋敷があった。屋根は水色で、なんかこれ童話に出てくるお城みたいなカラーリングだな。窓がたくさんある。ホテルだもんな。ベランダには水色の花があふれんばかりに咲いている。やっぱり俺のホテルはここじゃない気がしてきた。



建物の入り口に近づくと、

「いらっしゃいませ、カウンターはあちらでございます。」

「あ、ありがとうございます」



すごく柔和な笑みを浮かべたスタッフに出迎えてもらった。

どうしようこれでホテル間違えてたら...



意を決してカウンターに向かう。

「あの、宮部修一で宿泊の予約入ってますか」

「はい、承っております。ホテル予約サイトのトリカゴからでございますね、ご予約番号をお願いできますでしょうか」

にっこりと笑う受付の人に、俺は安堵した。よかった、間違えてなかった。

ていうかこのホテル、本当はもっとお高いんじゃないだろうか。



「それではわたくしがお部屋までご案内いたします」

いつの間にか横には別のスタッフが来ていた。



部屋は広かった。明日の朝食おすすめメニューまで教えてくれたスタッフが帰ったあと、俺は寝室のベッドにダイブした。シーツは真っ白で柔らかいし、このサイズ感、さてはキングサイズか。

寝室はベランダに面していて、一面が窓になっている。窓の向こうには広大な針葉樹の森が広がっている。ということはここはホテルのちょうど裏側に当たるのか。わーすごーい。俺の記憶では、駅前に針葉樹林なんてなかったと思うんだけどな。

俺は考えることを放棄した。



夜はジャグジーの風呂を楽しみ、レストランで食事をした。和洋中のレストランの中から選べる食事券をチェックインの時にもらっていたので、和食にした。明日の披露宴ではフレンチだろうから、被せることはないだろう。いや~締めの鯛茶漬けは最高だった。これは明日の朝食も楽しみだな、と思いながら俺は眠りに落ちた。



翌朝、スタッフがおすすめしてくれていたオムレツなど(なんと目の前で作ってくれた)朝食を堪能していると、せわしなく留袖やワンピースの人が動き回っているのに気が付いた。ロビーの立札を見て分かったのだが、今日ここで結婚式があるようだ。こんな素敵なホテルで式を挙げられたらいいだろうな。まぁまず彼女がいないんだけど。

で、部屋で正装したところでふと気が付いた。ここがどこか分からないのに式場までたどり着けるんだろうか。



フロントでチェックアウトするときに聞いてみる。

「あの、ここから式場の桜庭迎賓館ってどうやったら行けますか」

「はい、桜庭迎賓館最寄りの駅までシャトルバスが運行しておりますので、よろしければそちらをご利用ください」

「そうなんですね、ありがとうございます!」

ラッキー!!というわけで俺はシャトルバスに乗り込んだ。

空色の綺麗なバスで、車体にはHotel Blue Starと書いてある。涼しげな青い花柄が素晴らしい。開いたドアから石鹸のようないい香りがしている。こんなバスに乗るのは初めてだ。



バスの中には先客がいた。綺麗な水色のワンピースを着ている。見た感じ結婚式にお呼ばれした人のように見えるが、俺以外にもこのホテルに泊まっていた人がいたのかと驚いた。

「突然すみません、あなたも結婚式ですか?」

「えぇ、そうなんです。新婦の友人でして。あなたは新郎のご友人ですか?あ、良かったら隣どうぞ」

「ありがとうございます!俺は新郎の友人で呼ばれてて、あ、12時からの式なんですけど」

「じゃあ一緒ですね」

彼女は微笑んだ。その微笑みは柔らかく、そういえばホテルのスタッフもこんな風に柔らかに微笑んでいたなと思い出した。

そこからバスが駅前に着くまでの間、俺と彼女は話し続けた。

このホテルに泊まることになった経緯や昨日の夕食の話。彼女も和食にしたらしく、鯛茶漬けの話で盛り上がった。彼女はヘアセットもこのホテルでしてもらったと言った。かわいらしい小さな水色の花がいくつかお団子に結いこんであった。

「その飾りかわいいですね、良く似合ってます」

「ありがとうございます。せっかくだから服に合わせてもらったんです」

彼女はそう言って嬉しそうにはにかんだ。






さて、俺はその時の彼女と結婚式を挙げることになったわけだが、どういうわけかあのHotel Blue Starはいくら検索しても出てこなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る