狙撃手の少女は観測手が欲しい
@ss353
第1話 前編
「ちょっ、やめぇ……て。そこ……んっっ、敏感だから」
私はベッドに座りながら、私の膝の上に座らせている茶髪の少女の耳を舐める。
「やめないわよ、これ罰なんだから」
そう言って私は彼女の耳を甘噛みする。
「あっ……それだめぇ」
……なんでこんな事になったか。それは数時間前に遡る。
「はぁ、今日の任務は確か……帝国の兵士を麻酔銃で眠らせて、敵を全員無力化させたら帝国と敵対しているテロリストの方々に連絡を入れれば良いんですよね、司令官殿」
私は吹雪の中、迷彩服の上にロングコートと言う少々変わった格好で小銃を構え、地面に伏せながら無線機の向こう相手に話しかける。
「あぁ、正解だ。良いな?くれぐれもこの前みたいにめんどくさいからって爆撃機に爆撃を要請したり、砲兵隊に砲撃要請をするなよ?」
あー、なんかこの前やった気がする……
「でもさ、あれは実弾訓練中の砲兵隊と爆撃隊が弾が余ったって言ってたから」
「とにかく……ダメだからな?」
仕方ない。
「なら連合艦隊に」
「やめなさい?」
流石に冗談だけどね。
「冗談」
「お前が言うと冗談に聞こえん」
うっそだぁ。
日頃の行いはまるで聖人の様に良いのに。
「そんなに面倒なら観測手ぐらい付けてやろうか?」
「……考えておきます。ところで何故今日は麻酔なんですか?私としては背中の相棒をぶっ放したいのですが」
と言いながら私は背中に背負っている小型の砲の様なものを撫でる。
「お前の相棒、20ミリ対物ライフルは使うなよ?ただの肉塊になっちまうからな。で、理由は……帝国軍の女性兵士はアイツらのオモチャ、男性兵士は奴隷として使えるからだそうだ」
まったく、正義の共和国が聞いて呆れる。
これだから民兵はダメなんだ。
統制が取れない。
「……私も帝国の民兵に捕まったら彼らのオモチャ行きですかね?」
「共和国最強の歩兵のお前が捕まるようなら我ら共和国軍はもう終わりだよ」
「過大評価をどうもありがとうございます」
「過大じゃ無いさ。正当な評価だ。多少の問題事を除けばな」
「では、そろそろ作戦開始時間の19時なのでこれより無線封鎖を……必ずや共和国に勝利を」
「行ってこい……必ず帰ってこいよ」
「こちらベオウルフ、了解」
まったく、なんでコードネームがベオウルフなんだか。もっと可愛らしいのがあるでしょ。私だってか弱い少女なんだからさ。
私は小銃の上のスコープを覗く。
ターゲットが確認できる。
4人の帝国兵だ。
1人が女性兵士、残りは男性兵士だ。
装備は私と同じボルトアクション式の小銃だ。
ただ、スコープは付いていない。
さて、片付けるか。
まずは先頭の男性兵士の頭に狙いをつけて、引き金を引く。
その兵士は倒れた。
周りの残りの兵士は慌てだした。
私はボルトを引く。
空薬莢が排出口から飛び出す。
ボルトを戻して別の兵士に狙いをつけて引き金を引く。
空薬莢が雪に落ちる。
再びボルトを引き、戻し、狙いをつけて引き金を引く。
また兵士が倒れる。
これで最後、ボルトを引いて戻して発砲。
……エネミーダウン。
そう心の中で呟き終わった瞬間、最後の空薬莢が地面に落ちた。
私は立ち上がる。
さてと、テロリストの無線は……この番号だったかな。
「あー、こちらベオウルフ。敵の無力化が終わりました」
「お、ベオウルフか。了解した。今車でそっちに行く」
車か。
まぁあの兵士たちを運ばなきゃいけないしね。
一応、周囲の警戒をしながら、車の到着を待った。
しばらくすると車のエンジン音が聞こえ、私の前に黒色の装甲車が停止する。
「……よお、ベオウルフさん。この速さで任務完遂か。流石だな」
帝国製の小銃を背負っているいかつい男が出てきた。
確かこの人がテロリストの統率者だ。
「いえいえ、私なんてそんな……」
「謙遜するなよ。にしてもまさか、共和国最強のベオウルフ様が銀髪美少女とは驚いた。共和国の銀髪と言えば……元王族の血筋か」
共和国はもともとは王政だった。民主化したのはつい数年前のことだ。
王族の血筋の女性は銀髪になると言う特徴があるのですぐにわかる。
「まあね」
「にしても元とは言え王族ともなればボンボンだろうに。なんで軍人なんてやってんだ?」
「色々あるのよ、王族にも」
「へぇ、ソイツは俺には一生分かることはないな」
そんな話しをしながら私たちは眠っている帝国の兵士を装甲車に入れる。
「これで最後……っと」
「おう、ありがとな。じゃあ、この装甲車に乗ってくれ。俺たちのアジトで約束の報酬を渡す」
「了解」
私は装甲車の助手席に乗る。
装甲車が走り出す。
「ねぇ、なんであなた達はテロリストなんてやってるの?」
「テロリストとは酷いな。俺たちは革命軍だ。俺たちは帝国を民主化したいから帝国と戦っているのさ」
勝てば官軍負ければ賊軍……か。
彼らが官軍になれれば良いけどね。
そして、私たちは彼らのアジトについた。
まさか、天然の洞窟を改造したものがアジトだったとはね。
「ベオウルフ、こっちだ。おいお前ら、帝国兵士はいつものところにぶち込んでおけ!」
彼について洞窟の先に進んで行くと、開けた地下の部屋に出た。
「これが共和国軍に向けた報酬金だ」
大量の金貨が入った袋を渡された。
「そして、これは俺からお前への個人的な礼だ」
これまた大量の金貨が渡された。
両手が埋まってしまった。
あー、こんなことになるなら相棒じゃなくてリュックサックを背負ってくるんだった。
ふと、この部屋の端の方を見ると手と足を縄で縛られた茶髪の少女が見えた。
軍服を着ている。
恐らく帝国の兵士だろう。
「ねぇ、あの子って非売?」
「アイツか?……そこそこ高いぞ。俺たちが今日、楽しむ予定だったからな」
私はボスにさっきもらった金貨の入った袋を投げ渡した。
「……いいだろう」
ボスが彼女の縄を解く。
彼女は縄が解かれたのに逃げようとしたりはしなかった。
何もかもを諦めた目だ。
「ねぇ、そこのあなた」
私は彼女に話しかける。
(私は誰かに話しかけられた。顔を上げると美しい銀髪の少女が目の前に立っていた)
「私のとこに来ない?」
私は彼女に手を差し伸べる。
(一体、彼女は誰なんだろう?服装からして共和国の兵士だろう。ここに居てもどうせあの男たちの欲求を解消するだけの機械になるだけだろう。なら私は……彼女にかける。わたしは彼女の手を取った)
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