土曜日のおでかけ〈2〉
ぼくらは電車に乗り、三十分ほど先にある駅に降り立った。
そこは繁華街やデパートなんかが揃っていて、遊びに行く時にはいつも利用している。
それに何より、ここには老舗の画材店があった。
土曜日ということもあって、駅前広場はすごく混雑している。
「すごい人ですね」
「まずはデパートに行きましょ」
「は、はい」
ぼくが先輩の後に続こうとすると、すかさず双葉ちゃんが割り込んできた。
(警戒されてるなー……)
苦笑しながらも、人混みを縫いながらデパートへ。
普段こういう場所に余り来ないから、正直、目が回りそうだった。
一方、先輩は馴れた調子で人混みの中を泳ぐように歩き、メンズ館に向かう。
「渉くんはどんな服が好み?」
「どんな、ですか……。
そういうものに、全然興味がなくって……」
「でも服はどうしてるの?」
「まあ、ディスカウントショップで見つけて買うくらいで、特には……。
ブラウン物とかもよく分からないですし」
「ブランド物を買う必要はないわ。
大切なのは清潔感だし。
双葉はどう思う?」
「……知らない」
「双葉。何でもいいから、言ってみて」
「う。
……お姉ちゃんに賛成」
「ね?」
先輩はにこりと微笑んで、ぼくを見る。
「あ。はい」
そうしてぼくらは、メンズ館にある店に入った。
そこもカップルや家族連れで賑わっている。
先輩はすたすたと歩くと、どこかの風景を描いたような、柄物のシャツを見せる。
「これ、どう?」
「それ、ですか?」
「あそこで試着できるから。サイズはMでいいでしょ?」
「あ、はい」
「じゃ、着てみて」
「分かりました」
先輩に薦められるがまま、試着室に入った。
ひとまず着てみる。
鏡を見ながら、
(似合わないなぁ)
と、我ながら思ってしまう。
変というより、普段着ている服とは全然違うから、違和感しかない。
「どー?」
外で呼びかけられた。
「あ、はい。着られました」
シャッとカーテンが開けられた。
「ど、どうでしょうか?」
先輩は腕組みしながら、眺めてくる。
「あんまり合わないね」
「ですよね。
……ぼくもそう思います」
「双葉。渉くんはどんな服が似合うと思う?」
「え。何でもいいよー」
「何でもいいなら聞かないから。
どう?」
「いっつも、ボタンダウン着てるから、それでいいんじゃない?」
「そうね。
渉くんにはシャツみたいなカジュアルな格好は、似合わないかも。
そっちにしましょ」
「あ、はいっ」
そうして先輩にあーでもない、こーでもないと、色々悩んだ挙げ句、どうにかこうにか決められた。
「ありがとうございます。先輩のお陰でどうにか決まりました」
「いいのいいの。楽しかったし」
「それじゃ買って来ますね」
「大丈夫。お父さんからお金を預かってるから」
「いえ。自分のものですし」
「駄目。
今日は私が無理矢理、誘ったんだから。
それにお父さんも、渉くんに買って上げたいんだから」
「……分かりました。
それじゃ御言葉に甘えて」
「よし」
そして店を出た。
「そういえば、先輩と双葉ちゃんは服は買わないんですか?」
ぼくが水を向けると、先輩は双葉ちゃんに話を振る。
「どうする?」
「別に」
「でも最近新しい服を買ってないでしょ?」
「でもどこかに行く用事もないし」
「折角来たんだからさ。
ちょっと選ぼう。
折角、渉くんもいるんだから、男の人の意見も聞けるし。
気に入ったものがなかったら、買わなきゃいいし」
「いいよ、私――」
しかし双葉ちゃんの抵抗も虚しく、先輩に手を引かれてしまう。
「ちょ、お姉ちゃん……!?」
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