第2話 この世界は

 あなたは少女に手を引かれ歩き始めました。風景は依然として変わらず、目的地があるのか疑問に思うほど、白いままでした。

 それでも少女は歩き続けます。なにかに突き動かされるように...



「そろそろかな」


........


「何が、だって..?」

「もちろん『世界』さ!これから私たちのが行くところだ!」


 あなたは未知の世界に飛び込みます。好奇心なのか恐怖なのか...心臓の鼓動が速くなっているようです。呼吸は浅く、汗が頬を伝っています。


「着いたぞ!」


 少女は大きな声で言いました。ですがあなたの目は白い空間しか捉えていませんでした。


ーーーッ!!


 あなたは困惑したでしょう。この一瞬まで白いだけだった空間が、瞬きをした次の瞬間には.....

 あなたの見慣れた風景、元いた世界が広がっていたのですから。


 だが何かが違う。何かが決定的に違う!、とあなたは思ったのでしょう。なぜなら...


「ハッハッハッ!なんだいその顔は!

 鳩が豆鉄砲を食らったかのような顔だ!」

「あっ!もしかして...この世界は君のいた世界なのかい?...何かが違うって感じだね。そうなると、この『世界』は君のいた世界の時間軸に近いのだろう。」


......?


なぜなら...


「ああ。今回の『世界』は君のいた世界に酷似した世界だ。私たちがこれから『観て』いく世界は、いわゆる"パラレルワールド"なんだよ。」


 あれから少し時間が経ち


「ここならゆっくり話ができそうだね。」


 あなたと少女は偶然見つけた広場でベンチに座って休憩することにしたようです。


「早速だが、私たちがこれから行こうとする『世界』は全て"パラレルワールド"だ。」


......


「何ぃ?もっと、異世界!!ってとこを想像してただって?」

「まぁ無いこともないけど......そもそもねぇ!世界ってのはそこに住む知的生命体が築き上げたものだ。パラレルワールドってことは、その世界の舞台は同じ"星"だろ?法則や生態系が大きく変わるような『世界』になることなんて滅多にないんだよ。」

「君のいた世界を基準にすると、どの『世界』も異世界みたいなもんだと思っていたが...。」

「それにねぇ!」


.....


「........」

「ゴホン、、、話に戻ろう。」

「私は世界を見届けたい...これは教えたから知っているだろう?私は、私の見届けたい"世界"がなんなのか考えたんだ。」

「そして、私はあの白い空間は『世界』、いわゆる"パラレルワールド"へ移動するための場所だとわかった。突然どこかの『世界』へ放り出されて驚いたよ。戻るときも突然だったしね。」

「最初のうちはただ『世界』を見て回った。とても楽しかったとも。それぞれの『世界』にはそれぞれの文明や文化、生命があってだな...。」

「しばらくそんな事をしていた時に気づいたんだよ。"一度行った『世界』には二度は行けない"ってね。」


.......!!


 少女の声に力が入り、話が続く。


「『世界』を訪れない、なんてことはできなかった。ある程度時間が経てば、白い空間から強制的に『世界』へ移動する。」

「そのとき私は直感でわかった。『世界を見届ける』っていうのは、二度訪れることのできないこの『世界』を『観て』、記録して回ることだとね。」

「一度訪れてしまえば、二度目はない。訪れた『世界』の後、未来は、滅んでいるのか発展を遂げているのか、誰にもわからないんだよ。」

「私が訪れた『世界』には二度と行けない。その『世界』の未来は誰にもわからない。言い換えれば、その『世界』には"先"が無いんだ。」


 少女は弱々しい声で言った。


「そんなの悲しすぎるじゃないか。」


 だが、次の少女の言葉には決意が秘められたかの如く力がこもる。


「だから!唯一『世界』を移動できる私が『観て』記録するんだ。私が観た『世界』が確かなものだったということを残すためにね。」


........?


「何がここまで私を動かすのか...」

「それは私にもよくわからない。わからないことだらけなんだ。」

「白い空間に居た以前の記憶は無いが、"私が生まれてきた理由は必ずあるはずだ"と、それが"世界を見届ける"ことだと、私は考えている。」


........


少女の表情が少しずつ和らぐ。気持ちの昂りが徐々に冷めてきているのだろう。


「行くことができなくなった『世界』が、本当に無くなるのかわからない...か。」

「...大きな木があるとしよう。その木は際限なく、ゆっくりと育ち続ける。」



「その木の枝を折った。その枝はその後どうなると思う?」

「折られた部分はいずれ再生するだろう。元に戻ることは二度とない...。だが、折られた枝は違う。そのまま朽ちるだけだ。」


.....?


「何が言いたいんだって顔だね。」

「この『世界』も同じなんだよ。行くことが出来なくなった『世界』は白い空間との繋がりが無くなったと言える。以前教えた通り、白い空間はいわば"枝分かれする木の根元"だ。あとは言わなくてもわかるだろう?」


 あなたは思ったでしょう?「話が長い」と。表情には出さないようにする努力も虚しく、少女には伝わってしまったようだ。

 少女の肩が少し震えているのがわかる。これ

は怒りによるものだろう。


「ああ!熱弁した自分が馬鹿みたいだ!もう君なんて知らない!助手失格だ!」


......


「いくら謝ろうが無駄だね。君1人で元の世界を探すといいよ!」


 少女はベンチから立ち上がり、歩きだしてしまった。

 あなたはすぐに追いかけて必死に、何度も謝ります。


「プフッ...アハハハハハハハハハ!」


 少女は必死になるあなたを見て、思わず吹き出してしまったのでしょう。


「アッハッハッハッハ!フーッ!フーッ!」

「何なんだいその顔は!なんだ君は?顔で人を笑わせるのが得意なのかい?」


......っ!


「スマン、スマン。ふふふっ」

「わかった。さっき言ったことは取り消す。久しぶり大笑いさせてもらったよ。だが次は無いからな。私の助手だ!小難しい話でも理解してもらわねば困る。」


 あなたはホッと胸を撫で下ろした。それを見た少女は満足そうだ。


「よし!時間は有限だぞ、助手くん!」

「さっそく出発だ!」


 すっかり気を良くした少女は、ズンズンと歩き始める。その後ろには、やや疲れた表情のあなた。


 さぁ、ここからが本番です。

 あなたと少女の物語の幕が上がりました。

 これからどうなってゆくのか。

 あなたの目で確かめていきましょう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る