不遇職:詐欺師による4畳半のセーフティールームから始まる世界征服
灰灰灰(カイケ・ハイ)※旧ザキ、ユウ
第1話 世界征服ってなんですか?
世紀末かと思えるぐらいに荒れた教室。そう見えてしまうのは、台風でも通り過ぎたかのごとく机や椅子が乱雑に散らばっているからだろう。窓ガラスなんて割れてないところを探すほうが難しい。
それでも、黄昏に染まる教室はどこかノスタルジックさを感じさせてしまう。
破滅的であり神秘的。そんな矛盾を孕んで煌々と在り続ける。絵画として飾られたとしても何の驚きもないだろう。
差しのべられた手。
細く薄く儚い。そんなイメージを持たずにはいられないような手。その指の一本一本が工芸品のようだ。
普段は永久凍土のように冷たく、冷徹なイメージを持ってしまう瞳ですら柔和に思えてしまう。微笑を浮かべる彼女はとても蠱惑的に見えて、内容なんて頭に入りそうもない。
思うように頭が回らない。麻薬を吸うとはこういう感覚なのだろうか?
脳がまるで雷にでも撃たれたかのように痙攣して、自己の純粋な欲望に逆らえない。
駄目だと分かっていても、彼女の手をとりそうになってしまう。
「北原君、私と一緒に世界征服をしましょう」
何を言っているのだろうか?
こんなこといきなり言われても、新手の新興宗教か詐欺にしか普通思わない。
まだ、怪しげな違法スレスレのインチキネット通販の誘いの方が信じられる。
しかし、彼女の瞳はどこまでも真っ直ぐで混じりけを見せる気配すらない。真っ直ぐというよりは愚直。
言葉に詰まる。
どうすればいいだろうか?
いや、この疑問は嘘だな。答えはもう最初から決まっている。
この疑問は単なる自分に対する確認作業でしかない。
きっと、全てはここから始まったのだと思う。
この手を取らなければきっと違う運命を辿れただろう。
もし、やり直せるなら……それでもと言って僕は彼女の手をとるだろう。
これは、僕と彼女の最初の契約。
RPGみたいになった世界で僕らがした、世界を動かすかもしれない最初の契約。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます