Ⅵ,Guess
『意外と早かったな』
そうグループチャットにてメールを打つのは金髪の生徒。別に聴かなくても良い退屈な授業に辟易としながら彼は続ける。
『誰が誰に
送信した数秒後既読が付き返信が表示される。
『敗北したのはChariot《チャリオット》。敵は不明。しかし、近くにDevil《デビル》の存在を確認』
これは予想外だな。とすると、Devilの奴が動かしたのだろうか?
『Devil《デビル》からの報告は?』
『一切無し』
裏切りか?いや早すぎる。それに、奴にそれは不可能なはずだ。
金髪の生徒は携帯の画面を睨み付けた。
『ちゃんと首輪はつけておけ。どうやら今年の
去年のようなヌルゲーにはなりそうに無いな。
『分かっているとも』
『りょ』
『バッチグー』
三人から返信が来た。『あいつ』はどうせまた通知を切っているのだろう。朴念人め。
『情報屋に当たってみる』
『頼んだ』
さてどうしてやろうかな。覚悟しておけよ生意気な後輩共。この戦い、そんな簡単には舞台に上がれると思わない方が良い。
お前らはこの戦いの本質を知らないのだから。
精々、今の内に殺し合いに精を出すがいい。
金髪の生徒はスマートフォンの電源を切ると鞄に放り入れた。
Ⅹ
ふわあ、と欠伸をする。正直授業は退屈だ。高校1年の内容はすでに春休み中にほとんど予習済みだ。
この教師という生き物は教科書を音読するだけで金が貰えるのか。実に羨ましい限りだな。
俺はそんな事を考えながら亜麻鬼から聞き入れた情報をノートにまとめて書き記していた。
俺の席は現在最後尾にあるため教師にこちらの様子が視認されることはない。というか一部の生徒が居眠りをこいていながらも何の注意も受けていないのを見るに、この教師も生徒も共に、既に諦めているらしい。まだ四月だというのに。
すると突然、隣から肩を叩かれ声を掛けられた。
「ねぇ、教科書ないなら見してあげようか?」
クラスの女生徒だ。名前は記憶にない。
俺が教科書を机の上に置いていない事を気にして声を掛けたらしい。だが生憎、教科書は意図して出していないのだ。元より聞くつもりも無いからな。
「いや構わない、ありがとう」
礼儀正しく、マニュアル通りの返しをする。別に忌避しているわけではないが、あまり関わりをもってほしくはないというのが本音だ。
この『戦い』においてそんな関係は邪魔でしかない。
それに、俺には──────
「それ、なに書いてるの?板書じゃないみたいだけど」
「何でもない。俺の事は気にせず授業に集中してくれ」
俺はノートをそっと閉じて机に伏した。そうして寝たフリをして俺は残りの二十分程を過ごした。
もちろん眠れるはずなどなかった。
「いやぁお早う。気分はどうだい?」
終業のチャイムが鳴り亜麻鬼が絡んできた。
「最悪だ。目の前に悪魔がいやがるからな」
授業が終わり休み時間に入ったところで亜麻鬼が絡んできた。さっきまでとはうって変わって優等生的な話ぶりだ。いつものこのテンションでいてくれれば良いのに。
「次の授業は何だ?」
「もうお昼だよ」
亜麻鬼に訊ねた筈だったはずが、返答は左隣の席からだった。
「ねぇ二人とも、お弁当一緒に食べない?」
先程の女生徒だ。全くどこまでも優しい人だな。
「え?いいの?じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかな~」
「俺はパス」
俺は席を立ち教室を後にし、食堂に向かった。掌には五百円玉が握られている。
食堂はそこそこの賑わいを見せていた。教室2部屋程の場所に生徒達がわらわらと所々で群れを形成し食事と談話を楽しんでいた。
俺は食券機で300円の蕎麦を注文しそれをカウンターで受け取った後、箸を手に取り何処か座る場所を探した。
出来ることなら端が良い。そう思いながら周囲を一望し食堂の一番奥、人気が無いちょうど良い席を発見したのでそこに座った。
食堂を利用するのには些か抵抗があったが。
…なかなか悪くない。蕎麦もインスタントではあるもののコシが強く歯ごたえもしっかりとしていて食べ応えがある。また利用しよう。
さて、そんなことよりも俺が一考すべきはこの決闘についてだ。22人の生徒による進級と願いを掛けた殺し合い『アルカナ戦争』。進級には誰か一人を殺した上で年末度まで生き残らなければならない。至ってシンプルなゲームだが、これはそんなに簡単なことじゃあない。いかに自分の情報を隠蔽した上で他の『
──故に足りない。情報の量もその信憑性も。
…どうするべきか。
「あの、隣良いですか?」
突然の事だった。そこには丸眼鏡を掛けた身長150cm程の女子生徒が立っていた。トレイの上には大盛のカレーライスが鎮座していた。
…なんと2皿も。
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