第45話

は魔性のものにございますわ」


「魔性?妖狐なのかい?」


「まさか」


 王妃銀鱗は仰け反る様に大仰に、手を口元に持って言って笑った。


「妖狐ならば高々の人間が、虜となりましても致し方ございませんわ。あれは、その高々の人間のものですわ。それが男を虜と致しますの……かなりの性悪ですわ」


「君が言うなら本当だねぇ……」


 金鱗は銀鱗の、細指に手を置いて言った。

 一瞬銀鱗はほくそ笑んで、金鱗を見つめた。


「王妃様……」


 銀鱗の側仕えの山女魚が、銀鱗に近づいて囁く様に言った。


「……その天子ですが、昨今はと申す者に、うつつを抜かしておるとか……」


「ひな?」


 銀鱗は金鱗を見つめてから、確認をする様に側近山女魚を見つめる。


「はい……愛らしいは如何しておるやら……と、独り言を言うて溜息を吐いておるとか……」


「ほう?とな?」


「はい。目敏く聡い側近の乳母子の伊織が、その者を探す様陰陽師に命じたとか……」


「その者?人であるのか?」


「ああ……伊織は深く知らされぬらしく……天子は探す気はない様にございますよ」


「なぜだ?」


「さぁ……あちらの事は皆目見当がつきません」


 王妃付きの山女魚は、小さく首を横に振って黙った。


「まぁよい……」


 銀鱗は夫の指に、細い指を絡めて言った。


「あの女狐……否々、魔性のものから、他所に気が行けば安堵できる。に関わっては、決して良い事にはならぬと気を揉んでおりました。此処は先王様より、お護り致すよう言付けられておりますゆえ、後宮の乱れは避けとうございますゆえ……」


「王妃よ。よくぞ言うてくれた。それでこそ、魚精王の私の妻であり、王妃である」


 金鱗は一族の面前である事すら憚らず、銀鱗を抱いて賛美する。


「貴方様……」


 銀鱗は恥じらって身を離そうとするが、一族の者達は誰一人として、仲の良い精王夫婦を恥じ入るものはいない。

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