僕が君で№1ガール
白川ちさと
第1話 彼女はいつも一位
彼女はいつでも一位だ。僕が知る限り、一位じゃなかったことなど一度もない。
小学校の時のかけっこでも真っ先にゴールテープを切ったし、中学の時の期末テストでも一番上に名前が載った。横で彼女を見ていた僕が何位でゴールしても、テスト結果に名前が載らなくても。地球の予定表に書かれているかのように、それはいつも決定事項だった。
そして、入学式のこの日。
「若い草の芽も伸び、桜の花も咲き始める、春爛漫の今日、私たち、新入生一同は――」
真新しいノリの効いた紺色のブレザーに赤いチェックのスカートの制服姿の彼女が
つまり、高校入試で主席だったということだ。
「あのクールビューティ、同じクラスだよな」
「知らないのか。彼女、
「へぇ。いるもんだな。文武両道の才女って」
近くに座っている男子がひそひそと話しをする。それが終わらないうちに、壇上の彼女が言葉を区切った。
「新入生代表、1年3組、鶴ノ原マイ」
学校が同じだったことも驚きだけど、なにも同じクラスじゃなくてもいいのに。
平々凡々な男子高校生、秋野陣とスーパー女子高生、鶴ノ原マイは幼馴染だ。
しかし中一のとき以来、一言も口をきいていない。
僕がこの四月から通うのは、
実を言うと、僕はギリギリの補欠入学だった。つまり主席のマイとは、一位と最下位で学力に天と地の差がある。とは言え、この学校はそこまで成績の振るわない僕でもなんとか合格できたレベルだ。マイならば、楽勝だっただろう。
志望校選び放題だったマイがこの学校選んだ理由は、たぶんこれだろう。
「男なら剣道で一本取るべし」
「君、卓球好きじゃない? 卓球が好きって顔しているよ」
入学式が終わって、クラスに戻るみちすがら、先輩たちの部活勧誘が始まった。
栗亜学園は学力こそそこそこだが、体育会系の部活にかなりの力を入れている。特待生も多数いるそうだ。全生徒が何か部活をしなければならないという校則まであった。
まぁ、僕は勉強もそんなに出来ないし、運動も出来るわけじゃない。だから、適当に楽そうな文化系の部活に入るつもりだ。
「あ、おい。見ろよ」
僕にチラシを渡そうとしていた卓球部の人が隣の人を肘で突く。よく見ると周りは一斉に、僕の後方、体育館の出口を見ていた。
「鶴ノ原さんだ」
そうつぶやいた途端に、僕なんて見向きもせずに、先輩たちはマイの方に駆けよった。
「わっ」
僕は勢いに押されてその場にしりもちをついてしまう。地味に痛い。
「鶴ノ原さん! 高校からはバスケ部に!」
「バレーだって楽しいよ!」
「陸上部!」
群がる先輩たちは男女関係なく、マイにチラシを渡そうとする。だけど、マイはそれを受け取ろうとはしない。
「すみません。入りたいところは決まっているので」
マイがそう言うと、周りは手を引いた。
まぁ、中学のとき、テニスで全国行ったんだから、高校でもテニス部だよな。そう思っていると、俺の近くにマイが歩いて来てくる。
そして倒れていた僕に無言で手を差し出してきた。僕は思わずその手に手を乗せようとする。すると、
「ぷっ。助け起こされるお姫様じゃん」
どこからか、そんな声が聞こえてきた。途端に顔が熱くなる。
「自分で起きられるって!」
僕はマイの手を跳ね除け、立ち上がった。マイは無表情で自分の手を見つめる。僕は、背を向けて教室に戻った。
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