第626話 討伐終えて

 ゴブリンクィーンを倒しました、はい終わりです……とはいかないみたいで、まだまだ片付けなければならない事が残されている。

 一つは、討伐したゴブリンの魔石の取り出しと配分だ。


 何しろ数が多く、乱戦の最中では、誰がどれを倒したのか分からなくなってしまう。

 特に上位個体の魔石は、通常のゴブリンよりも大きく、内包されている魔力の量も段違いなので取り合いになるのだ。


 今も冒険者たちが突入した洞窟の前では、上位個体の魔石を巡って取り合いが勃発しているようだ。

 てか、そのゴブリンを焼き殺したのって俺じゃないのかい?


 まぁ、俺は戻ってくる前に、他の入口の前で討伐した上位個体を選んで魔石を取り出してきたから、取り合いに加わる気はないけどね。


「おーい! 他の入り口前で焼き殺したゴブリンを放置してあるから、そっちの魔石も取り出して持って行っていいよ!」

「マジっすか!」

「おい、行くぞ!」

「東側は三ヶ所、西側は二ヶ所あるから、早い者勝ちだよ!」

「ありがとうございます、エルメール卿!」


 ちょっと勿体ない気もするけど、もう上位個体だけで三十個以上も魔石の取り出しをしたので、普通のゴブリンまで全部やるのは面倒になっちゃったんだよね。

 それよりも、今はチャリオットのみんなと合流することを優先したい。


 同行していたギルドの職員に、第三砦に戻ると伝えて巣穴の前を離れた。

 何だか、最初から最後までグダグダって感じのする討伐だったし、野営暮らしには飽き飽きしているから、早く旧王都の拠点に戻りたい。


 ふかふかのお布団で、心ゆくまで丸くなって眠りたい。

 第三砦まで戻ってくると、こちらでも砦の周りでゴブリンの死骸から魔石を取り出す作業が行われていた。


 冒険者たちが魔石の取り出し作業に躍起になるのは、魔石自体が買取対象であるのと同時に討伐数としてカウントされるからだ。

 一連の討伐作戦において、どれだけ貢献したかが、ランクアップのための評価に繋がるのだ。


 俺の場合は既にAランクだし、たぶん通常のゴブリンを百や二百倒したところで、ランクの評価には影響しないと思う。

 ランクはAで十分だし、お金もあるから上位個体の魔石だけ取り出してきたのだ。


 上空から血塗れ、泥まみれになって魔石の取り出しを行っている冒険者たちを眺めてみたが、チャリオットのみんなの姿は見付けられなかった。

 たぶん、みんなも早々に魔石の取り出し作業は切り上げたのだろう。


 野営場所に戻ると、チャリオットのみんなは水浴びも着替えも済ませていた。


「ただいま、レイラ。こっちも終わったみたいだね」

「ゴブリンクィーンは討伐されたの?」

「うん、集音マイクで聞いてた限りでは、クィーンの討伐は終わったみたいだよ」

「こっちは、襲って来てた連中が、急に居なくなっちゃって、それっきりね」

「あぁ、たぶんクィーンが呼び寄せたんだと思う」


 クィーンの居るホールに冒険者たちが突入した後、洞窟の外まで聞こえてきた不快な金切り声と、その後に戻ってきたゴブリンの群れについて話した。


「へぇ、こっちは声までは聞こえなかったけど、ゴブリンには聞こえてたんでしょうね」

「結構な数が戻ってきて、対処するのが大変だった」

「でしょうね。これ全部上位個体の魔石でしょ?」


 レイラは、空属性魔法で作ったケースに入れてある魔石を指差した。


「そうそう、普通のゴブリンまで全部取り出ししてたらキリが無いから、最前線まで行った冒険者に任せて帰ってきた」

「私達も、そこそこで切り上げたわ」


 そこそこと言う割には、かなりの数の魔石が積まれている。


「もしかして……」

「そういうこと」


 畳んだ毛布の上には、ヘソ天状態のミリアムが落ちている。

 相変わらず目も口も半開きで、かなり不細工な顔になってるけど、本人は疲労困憊で構っている余裕なんて無いのだろう。


 傍らに座って寛いでいるシューレは、満足そうな表情を浮かべている。


「相当ミリアムの尻を叩いたみたいだね」

「負けたら訓練の量を増やすって条件で、魔石の取り出しの競争をしたわ」

「どっちが勝ったの?」

「勿論……私よ」

「うわぁ、容赦無いねぇ」

「当然、競争は本気でやらなきゃ面白くない……」


 イブーロのギルドでも一目置かれて、いつAランクに上がってもおかしくないシューレと、ガチで対決させられるのだからミリアムも大変だ。


「でも、他の冒険者と取り合いにならなかったの?」

「手前は捨てて、少し先から外に向かっていくと揉めないで済むわ」

「なるほど……」

「ニャンゴも、随分稼いで来たじゃない」

「稼ぎすぎても反感買いそうだし、この程度でいいかな」

「そうね……」

「ライオスとセルージョは?」

「ギルドの職員の所に行ったわ」

「俺も魔石の買い取りを兼ねて行ってくるよ」


 シューレとレイラはリラックスムードだったが、第三砦の中はまだ緊迫した空気が漂っている。

 良く考えたら、まだゴブリンクィーン討伐の知らせが届いていないのだろう。


 ライオスはギルドの職員と何やら話し中で、セルージョ所在なげに空を見上げていた。


「ただいま、セルージョ」

「おぅ、なんだよ、下から戻って来たのかよ。そっちは終わったのか?」

「うん、突入した連中がクィーンを討伐したよ」

「おぉ、やっと帰れるな。おぅ! クィーンが討伐されたってよ!」


 セルージョが声を張り上げると、周囲の視線が一斉に向けられたが、まだ半信半疑といった表情が殆どだ。


「エルメール卿が持ち帰った情報だ、間違いねぇぞ!」

「うおぉぉぉぉ! 終わったぞ!」

「勝ったぞ! 俺達の勝ちだ!」


 湧きあがった歓声が、波紋のように広がっていき、砦の壁を越えて外からも聞こえてきた。

 たぶん、討伐に参加している殆どの冒険者は、遅々として進まない展開にウンザリして居たのだろう。


 クィーンさえ討伐されれば、ゴブリンの異常繁殖は終息するので、後は目についたゴブリンを討伐していくだけだ。

 上位個体が混じっている群れには注意が必要だが、それでも五十頭を超えるような大群にはならないし、Eランク程度のパーティーでも油断さえしなければ倒せるだろう。


 あとは地元の冒険者に任せて、出稼ぎ組は帰り支度を始めている。

 俺も魔石の買い取りを済ませて、ライオス、セルージョと共に野営場所に戻った。


 チャリオットが全員揃ったところで、ライオスが今後の予定を話し始めた。


「今夜は、ここで野営して、明日一番で旧王都に向けて出発しようと思う」

「異議なしだ。さっさと森から出て一杯やろうぜ」


 真っ先に賛成したセルージョを含めて、全員が賛成した。

 ミリアムは鼾で返事をしていたけど、戻るとなれば鍛錬は中止になるから反対はしないだろう。


 砦の中では、防具を脱ぎ捨てて酒盛りを始めた連中もいたが、まだ全てのゴブリンを討伐した訳じゃないと、あえて気を引き締める者達もいた。

 俺はといえば、また女性冒険者お風呂連合に拉致されて、湯舟の支度をさせられた。


 おかしいなぁ……俺、名誉騎士から名誉子爵に陞爵されたのに、良いように使われ過ぎじゃないかな……ふみふみ。

 でも、湯舟は作ったけど石鹸は無いし、湯上りの冷たい牛乳も無いし、なによりフカフカのお布団が無いから、早く旧王都に帰ろう。


 兄貴とガドは元気にしてるかにゃ。

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