第407話 気さくな王族
結局、バルドゥーイン殿下は、俺達が作業を終えるまで見学を続けていた。
繭と埃の山から、お宝を探す作業は確かにワクワクするが、王族としてはやっぱり変わり者なのだろう
ベースキャンプに戻る前に、飛行機、船、列車、自動車などの写真集を渡すと目を輝かせて喜んでいた。
「おぉぉ、これは凄いな、見ろこの大きな船を!」
「殿下、こっちは空を飛んでいますぞ!」
「こんなに長い魔導車、動力が気になりますね」
護衛の騎士たちまで一緒になって目を輝かせている。
きみらは、子供か……。
水着グラドルの写真集も渡そうか迷ったけど……どこからどこへ噂話が流れていくか分からないからやめておこう。
別に、エルメリーヌ姫と結婚できるとか思っていないけど、将来は聖女様と呼ばれそうな光属性魔法使いに幻滅されるのは避けておいた方が良いだろう。
ベースキャンプに戻る間に、どうしてこんなダンジョンの奥にまで来たのかバルドゥーイン殿下に聞いてみた。
「あぁ、本当は王都の学院の調査団の名代として一緒に来たのだが、連中は百科事典などの発掘品に夢中だったから、私はこちらに来たんだよ」
「良かったんですか?」
「まぁ、確かに百科事典は興味深かったが、見ても素人の私には良く分からない。それよりも発掘の現場を見学した方が面白いと思ったから抜け出して来たのだ」
「えぇぇ、抜け出してきたんですか?」
「なぁに、護衛も一緒だから問題ないさ」
あっさり言い切ってるけど、自由すぎじゃないのか。
王城やラガート子爵の屋敷で面談した時も感じたのだが、バルドゥーイン殿下は本当に気さくな人柄をしている。
それは護衛の騎士も同じで、今も俺達の後を歩きながら、セルージョと一緒にグラドルの写真集を眺めているほどだ。
バルドゥーイン殿下がダンジョンにいる理由は分かったのだが、こんな所で油を売っていても良いのだろうか。
「殿下……その、王位継承争いはよろしいのですか?」
「よろしいのか……とは?」
「弟君のディオニージ殿下の応援をなさらなくてもよろしいのですか?」
第四王子ディオニージ殿下は、バルドゥーイン殿下と同じく第二王妃オレアリーヌ妃の子供だが獅子人だ。
この世界の遺伝の法則はよく分からないのだが、別の人種の間に子供が生まれる場合、父親か母親のどちらかの人種を引継ぎ、いわゆる混血の人種は生まれてこない。
獅子人の国王陛下と白トラ人のオレアリーヌ妃が結婚し、生まれてきた兄バルドゥーイン殿下は白虎人、弟ディオニージ殿下は獅子人だったのだ。
そのディオニージ殿下が俺を近衛騎士にしようとラガート子爵の屋敷を訪問した時、バルドゥーイン殿下も付き添ってきたので、てっきり側で支えているものだと思い込んでいた。
「ふふっ、兄に頼っているようでは一国の王にはなれぬさ。ディオが本気で王位を目指すならば、己の実力を示して信頼を勝ち得なければならない」
「心配ではないのですか?」
「それは心配さ。なにしろ『巣立ちの儀』であのような事態が起こったのだから、いつディオの身に凶刃が振り下ろされないとも限らない。だが、そこから身を守ることも、王に相応しいという証明する行為でもあるのだよ」
だが、その言い方では、殺されてしまったアーネスト王子は王に相応しくなかったと言っているようなものだが、その言葉の意図までは確かめられなかった。
「殿下、反貴族派の討伐に、王族の方が出向かれたりはしないのですか?」
「本来であれば、王国騎士団を動かす時点で王族が旗印として同行すべきだろうな。だが、知っての通り、クリスティアン、ディオニージ、エデュアールの三人は王位を競い合っている最中だから、暗殺の危険が高まる場所に行かせられない。それと、私は利用される恐れがあるからな」
「殿下、そのような発言はお控え下さい」
トラ人の騎士が苦言を呈したが、バルドゥーイン殿下はどこ吹く風という感じだ。
「ここで隠したところで、いずれ耳にすることになるだろう。むしろ変に隠し立てする方が疑わしく思われる」
「反貴族派が殿下を利用しようとしているのですか?」
「エルメール卿も耳にしているのではないか? 反貴族派の首謀者は王族だという噂を」
「あっ……はい、聞いたことがありますが、それが殿下だというのですか?」
「そういう噂がある。実際、反貴族派の幹部と思われる者に、私と同じぐらいの年恰好の白虎人の男がいるらしい」
ダンジョンまでの道中、グロブラス伯爵領で捕らえたドーレという男を尋問した時にも、反貴族派の本拠地は新王都の王城で、首謀者は王族だと供述していた。
それに、グロブラス領で反貴族派への勧誘行為を行っていたダグトゥーレという男が白虎人だと聞いている。
それを話すと、バルドゥーイン殿下は大きく頷いてみせた。
「どうやら反貴族派の連中は、私をダグトゥーレという男に仕立て上げようとしているようだ」
「それは、いったい何のために?」
「反貴族派の象徴に祀り上げたいのだろう」
バルドゥーイン殿下は、国王は獅子人から……という暗黙の了解によって王位への道を断たれてしまっている。
旧態依然の貴族制度の廃止を掲げる反貴族派には、バルドゥーイン殿下が首謀者であるかのように見せかけて、自分たちの存在を正当化しようと考えているらしい。
「エルメール卿、私は国のため、民のためならば身を粉にして働く覚悟がある。それは王族として平民よりも遥かに良い生活をさせてもらった王族として当然なのだが……正直、書類仕事は性に合わん!」
「殿下……ぶっちゃけすぎです」
トラ人の護衛騎士が思わず頭を抱えている。
「はははは、別に構わんだろう。父上の平素の仕事を見るにつけ、自分には国王は到底務まらないと私が思っているのは、城にいる殆どの者が承知しておる」
「えぇぇ……殿下は書類仕事が嫌で国王への指名から除外されたのを喜んでいるんですか?」
「その通りだ。出来るものなら、エルメール卿のように冒険者として暮らしてみたいと思っているぞ」
「それは、さすがに難しいのでは?」
「今は許されないだろうな。だが、自分こそが国王に……と思う者が三人もいる。今は互いに競い合っているが、一人が王位に就き、他の二人が支えるようになれば、私などいてもいなくても変わらなくなるだろう」
「本気で冒険者になろうと思ってらっしゃるんですか?」
「勿論、本気だ。本気で取り組まねば、実現などできないからな。はははは……」
なんというか、どこまでも型破りな王族としか思えない。
だが、間違いなく人を惹きつける魅力があるし、半日程度しか一緒に過ごしていないが、バルドゥーイン殿下と護衛騎士の四人は固い絆で結ばれているように見える。
建物の入口に到着したら、バルドゥーイン殿下に食事に誘われた。
まだ話し足りないし、実動するアーティファクトであるスマホも見たいと言われれば無碍には断れない。
地上に上がって、学院か大公殿下の屋敷に向かうのかと思いきや、チャリオットのメンバー共々、連絡通路の脇にギルドが開設した居住区の酒場に連れていかれた。
「えぇぇ……ここですか?」
「あぁ、心配は要らないぞ、支払いは私が全て持つから遠慮せずに食べてくれ」
しかも、通路の拡張工事などに関わっている他の冒険者を追い出す訳でもなく、壁際の席で両脇を騎士に守らせただけで、普通に飲み食いしようという構えだ。
心配になって、思わず護衛の騎士に訊ねてしまった。
「えっと……良いんですか?」
「良いも悪いも、一度言い出したら聞かないんだよ」
「そうそう、我々の苦労を察して下さい、エルメール卿」
バルドゥーイン殿下も笑っているから大丈夫なんだろうけど、本人を目の前にしてその言い方は……。
「皆も構わんぞ、楽にしてくれ。食事の時ぐらいは楽に行こう」
「そうですよ、エルメール卿」
「殿下もこう言ってるんですから、大丈夫ですよ」
どうやら、この主従は食事の場では無礼講らしい。
ただし、良く見ていると料理も酒も、隣に座った騎士がさり気なく毒身をしている。
うん、これは確かに苦労していらっしゃる。
「気楽で良いなら、ニャンゴもいつもの席で良いわよね」
「ふみゃ……レイラ」
バルドゥーイン殿下に気を取られているうちに、レイラに抱えられてしまった。
いつもながら気配を感じないし、絶妙なタイミングなので逃げられる気がしない。
「ほほう、そこがエルメール卿のいつもの席か……これは帰ってからエルメリーヌに伝えておかねばならんな」
「にゃっ、そ、それは……」
「だが、実動するアーティファクトについて詳しい話を聞いたら忘れてしまうかも知れんなぁ……」
「分かりました。こちらが実動するアーティファクトです」
この後、スマホについて根ほり葉ほり訊ねられ、説明させられた。
やっぱり、この人は油断できない人物だと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます