グッバイ、イソプロパノール
呼続こよみ
プロローグ
——西暦2020年は疫禍に始まった。誰もが予測し得なかったが、一年足らずでそれは世界を変えていった。
数年後、再び同じ疫禍が猛威を振るった。さらに数年後、と繰り返されて、SARS-CoV2ウィルスは人類社会を変えていった。
なかでも大きく変わったのは衛生意識だろう。ニューヨークでは玄関で靴を脱ぎ、"部屋に上がる"というジャパニーズ・スタイルが常識になった。パリではもはや、バゲットを直接買い物袋に入れる人はいない。直接手で食べることは少なく、必ず入念に手を消毒するか、ナイフとフォーク、或いは箸やスプーンで食べるようになった。
00年代からはじまった小売業界の形態も様変わりした。生鮮食品も含めて、購入すると当日か翌日には小口でも配達されるようになった。物を買って帰ることは少なくなり、店頭は主に商品のディスプレイ・体験型のショウルームとなった。
スマートデバイスと呼ばれていた機器の進化も後押しされた。現在位置と体温・脈拍・血中飽和酸素濃度・心電図や心身の疲れ具合を常にモニタし記録する、邪魔にならない小さなデバイスがカリフォルニアで発表された時はついに本命がきたと喝采を浴びた。モニタしたデータはクラウドに蓄積され、ビッグデータ資源として活用されるほかに、必要とあらば緊急通報をし、人々の日々一刻一刻の健康をサポートした。
幾度の危機を乗り越えた世界は、いまふたたび、経済の覇を争って、通貨の新冷戦と呼ばれ、各経済圏を取り込み、国どうしの協調や連帯で冷戦のゲームが進んでいる。
2020を襲ったSARS-CoV2とその仲間のウィルスを、人間社会は乗り越えることができるようになった。そうして世界はパンデミックから遠くなろうとしているのかと、思われていたのだった。
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