【完結済】地縛霊 根元桜の恋
ウレシノハラ / 狂咲林檎
出会い、そして変化
第1話:俺が死ぬまで
「ああ・・またか・・」
夕方、高校から帰って家のドアを開けるといつものように母さんが父さんに謝る声がきこえる。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
リビングの隅で座わり込んですすり泣く母さんは、全身が痣だらけで見るに堪えない状態だった。リビング中央ではその加害者と思われる父があぐらをかいて酒をあおっていた。
そう、この俺の家はDV家庭だったのだ。
母を可哀想だとは何度も思ったことがある。
しかし父親の標的になるのが怖く見て見ぬふりをして部屋に閉じこもった。
そしてそれから2週間後、ついに事件が起きた。
家に帰るとそこには大振りのナイフを持った母さんとそれに刺されたであろう父さんの遺体が転がっていた。
「ひっ……!!なんだよこれ、そっ、そうだ警察に連絡しなきゃ…」
しかし間に合わなかった。見てしまったのだ、返り血を浴びて、いつもは見せないような狂人じみた笑みをうかべこちらへと近づいてくる母さんの姿を。
「フフッ……フフフ…アハハ…死んだ!あの人はもう死んだ!…………あら?桜、帰ってきたのね、見て?お母さん、綺麗でしょ?」
「……!!」
俺は声が出せなかった。
あまりの恐怖に耐えきれず失禁もしてしまったが今はそんな余裕はない。
逃げなければ。
今の母さんはおかしい。
早く、一刻も早く逃げなければ。
ドスッ
「ねぇ桜?どこに行くの?お母さんを置いてどこに行くつもりなの?」
熱い。
痛い。
苦しい。
寒い。
力が入らない。
俺の頭の中にありえない量の情報がながれ込んでくる。
一体母さんが何を言っているのか、自分が何をするべきなのか。
頭が正常な判断を下せない。
「あら?桜?死んじゃったのかしら?」
そう言うと母さんは俺の背中からナイフを引き抜いた。
そしてあろうことか自分の胸に刺し始めた。
何度も、何度も…笑いながら。
やがて
その手を止めると後ろに倒れかすれる声で
「違うの…本当は……こんなことしたくなかった。私は、もっと幸せで平凡な家庭を作りたかっただけ……なの……………桜…ごめんね……こんなお母さんで…ごめんね…………」
それが、俺、根元桜が最期に聴いた言葉だった。
そして、俺は眠るようにして死んだ。
根元桜 享年17
死因 : 出血多量
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