第33話 ゴブリンの罠

「到着っと……周辺状況を教えて」

<<悪い知らせと最悪の知らせ、どっちがいい?>>

「最悪からで」

<<イネちゃんがいなくなったのを確認したのかセーフルームに向かってゴブリンの集団が集まっている>>

「それで悪い方は?」

<<足止めのつもりかイネちゃんの方にも30匹超の集団が向かっている>>

「要救助者がいる以上こっちを片付けてから向かうことになる。戦力は足りないだろうけど粘って」

<<わかったわ、スーさんもそっちに向かっているから粘れるだけ粘ってみるわね>>

 降りた直後に想定の中でも割と悪い方向に流れは転んだけれど、イネちゃんの方に3桁来ていないのであれば足止めの領域にはならない……けど、正直なところ要救助者という重りを渡されたのが致命的な足止めになりそうな予感がするので、ゴブリンの方はできるだけ速攻で片付けるためにパーフェクトイネちゃんモードで全力を出させてもらうことにする。

 とは言えメイン機動力になるローラーダッシュと背部追加アタッチメントカーゴは無し、過剰火力になるだろう肩部キャノン砲もオミットした、参考にしたアニメで言えば手持ちの火力を増強しただけのノーマル形態で部屋から通路に踊り出ると、左右から大量の軽い足音が走ってきているのが聞こえたので、両手に持った2連想ヘビーマシンガンを通路を埋め尽くすように弾をバラまく。

 時折ギャ程度の鳴き声は聞こえてくるけれど、基本当たればミンチかそれ以上に砕け散る過剰火力を絶え間なく空間を埋め尽くすようにして撃っているのでゴブリンの姿をハッキリと確認することもなくこちらの状況は終了する。

「下層の敵の状況確認をする余裕はある?」

<<幸い2人でしたので、はい。イネさんの方へと向かっていたゴブリンは息のあるのもいるようですが移動を阻害するような体の残り方はしておりません>>

「じゃあこっちは要救助者2人を背中アタッチメントにカーゴつけて運ぶよ」

<<いえ、フロント固定の方が良いでしょう。背部と脚部にアングロサンで使われている歩兵用のバーニアを使えば要救助者と装備で増えた重量も問題なく運べる計算になりますので>>

「背中のは……ユニバーサルブースターポッドだっけか」

<<そのような名前だったかと。急いでください、既に数匹ドローンの銃撃を抜けて来ています>>

 雑談の余裕は無しか……とりあえず要救助者を運ぶためにカーゴユニットを生成して、アングロサンで構造を把握しておいた工作アームを使って要救助者をカーゴに入れて……背負った。

 正直、人間2人を収納できるカーゴとか大きすぎて正面にマウントするのはちょっと無理があったよね、うん。

「ちょいと消耗が激しくなるけど……仕方ないか、最悪のパターンでもないし」

 架空金属粒子を大量に生成し、イネちゃんの周囲に集めてローラーダッシュで移動を始める。

「グワール、どっちの方が早い?」

<<左正面200mから右折5mの階段を上がり直進で外です>>

 外から見た感じでも結構大きい砦ではあったけれど、200m以上伸びる通路か……厳密にはもっと何かあるのだろうけれど、構造的に見れば恐らくは砦の中心部付近とって感じだろうか。

<<左からきます>>

「数!」

<<最低で3>>

「焼夷グレネードで対応する」

 イネちゃんが勇者の力で生成ができそうでまだできていない貴重な焼夷グレネードをここで使うのを少し躊躇いはしたものの、今優先すべきは要救助者の安全確保である以上出し惜しみはせずに使える物は使い、イネちゃん自身の消耗も最小限に抑えておきたい。

 ビームや架空金属粒子、ミスリルは凄く便利で汎用性も高いけれど勇者の力で常用するには消耗大きめだからね、最初は使ったら脱力感に苛まれるレベルだったことを考えるとだいぶ慣れているし省エネを意識してても最初に使った時よりも縮退率も威力も思いのままで強力にできるものの、本来存在しないものを運用するのはそれだけ消耗するし、例え存在していても純粋なエネルギー量が増えれば増える程制御でイーアに負担もかけるしイネちゃんだって無意識で制御を頑張ることになるから自分で思っている以上に消耗しちゃうんだよね。

<<来ますが、すぐに曲がってください>>

「言われるまでも……って上り階段か!」

 下りなら勢いで行けると思っていただけに移動速度を思わず下げてしまうも、移動しながらあらかじめ腰部にマウントしておいた焼夷グレネードの固定を外して地面に落ちた反動でピンが外れて破裂し今までイネちゃんがいた場所は燃焼ジェルで激しく炎上する。

<<そこは地下ですので>>

「その情報は遅い!」

<<すみません>>

 言い訳しなかっただけマシと思いつつ、ローラーダッシュの回転数を変えないままに架空金属粒子の力とミスリル、左腕の籠手からワイヤーを射出して速度下げずに無理やり突破すると、恐らくは砦内部の公会堂とかそういう施設だったのだろう大きな部屋に出て、真っ先に人だったものの残骸が視界に入り、腐敗臭が鼻を刺激してくる。

「埋葬は後にする。キハグレイスの主流な埋葬手段もわからないし」

<<土葬ではないので?>>

「スクラミアスさんの性格とかを考えれば復活の日があるとはあまり考えられないよ。大陸では土葬推奨だけど」

<<命の循環でしたか>>

「次の命に繋がりますようにってね。見方次第ではゴブリンの命に繋がってるとか言えなくもないけれど、それぞれの生き物の尊厳に合わせた葬儀をすべきってのもヌーリエ教会の教えだからね」

<<次の命に繋げるにも敬意がなければいけないということですか>>

「そういうこと。で、出口は」

<<階段以外の出口であればどこでも構いません>>

「了解」

 とりあえず目に付いた扉を抜けて外に出ると、クロスボウを構えたゴブリンの集団が一斉にイネちゃん目掛けてボルトを飛ばしてきた。

「ちょっと?」

<<むしろパワーアップになるかと思いましたので>>

「そうだけど要救助者もいるんだから情報はきちんと報告して」

<<次からはそうします。そろそろこちらも限界ですので……>>

「ここは無視する」

 架空金属粒子による質量軽減や慣性軽減の効果をご都合主義的と思いつつも便利に使わせてもらい、要救助者を収納しているカーゴの装甲厚も増加させ、材質もアングロサンの宇宙船に使われる標準のものに変化させてからブースターに火を入れてV-TOLの要領で空に浮かぶ。

 カーゴコンテナに外付けすれば良かったことに気づいたからこそだけど、これはこれで背中の推進力が一方的に強くなってうつぶせに倒れてしまう可能性はあるのだけれど、架空金属粒子とミスリルをうまいこと使って姿勢制御もしてから浮上することで初速を強くしても姿勢を崩すことなく屋上まで一気に飛ぶと屋上の状況を俯瞰で確認することで現在の事態を把握できた。

「なる程、これは確かにドローンだけだとキツい」

<<わかってるならお願いするわ、そろそろこのドローンのエネルギーも尽きそうなのよ>>

「了解、建物壊さない程度の爆撃で数を減らしてからセーフルームに入る」

<<了解、そっちの攻撃に合わせてセーフルーム防衛に下げるわ>>

 月詠さんの言葉が終わるタイミングとほぼ同時に両手のヘビーマシンガンを屋上通路に向けて掃射を行う。

 これで簡単な掃除はできるとは思うけれど……ちょっとイネちゃんの想像以上にゴブリンの数が多く、ヘビーマシンガンでミンチにする程度では何故か死を恐れずに動き続けるゴブリン相手では時間がかかりすぎるし、何より空中に浮いている状態ではイネちゃんの勇者の力を純然と使えない上に銃弾の補充もできないのでこの状況が続けばジリ貧になってしまう……とりあえず攻撃をされるリスクはあるけれど、着地して対応するか……。

『炸薬量を少なくしたミサイルのシャワーで一掃した方が消耗が少ない、移動制御はこっちに回してイネは攻撃に集中して』

「……わかった、イーア任せた」

 機動力をイーアに委ねてから、私はヘビーマシンガンにミスリルを勢いよく突っ込ませて質量を増加してから多連装ミサイルランチャーに変換して一斉射の後、ひと呼吸置いてから。

「いいよ!」

『残ってても強引に行く!』

 イーアの言葉に合わせて多連装ミサイルランチャーの質量を脚部装甲に移動させて着地に備える。

「グギャギャ!」

「ギェァ」

 ゴブリンの何匹かを重装甲化した脚部装甲と化した鋼鉄靴でひき肉にしながら着地し、少し滑りそうになったものの着地と同時にバーニアを一瞬噴射して車輪ではなく無限軌道型にしてからセーフルームに向かう。

「中の状況を教えて!」

「抜けてきたのはチャームで同士打ちにさせましたが……もう限界です!」

「了解、お疲れ様。この中の人もそっちに」

 カーゴで入口を塞ぐようにして開放してから改めて建物からヘビーマシンガンを生成して構える。

「治療をしておきます!ご武運を」

 ここから私は、スーさんが到着するまで持久戦をすることになるのであった。

 正直、ここで戦っているゴブリンが私を消耗させる形になってるのって、このあとの展開が不安になる程度には罠っぽいという思考を抱えながらだったから本当辛かった……。

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