画材道具
ドキドキしながらキャンバスに近づいた。
絵の周りには様々な道具が所狭しと置かれている。
初めて目にするものがほとんどだ。
絵を立てかけるやつはイーゼル、油壺という絵の具を溶く油を入れる小瓶、パレットは紙で使い捨てということ、筆を洗う専用の油があることや筆の種類など、彼女は朗読するように話してくれた。
彼女が描いているものは、花の絵だった。
俺は何の花か全然わからないので素直に尋ねた所、「シクラメンっていうの。母が好きな花でね」と教えてくれた。
素人の俺からすれば十分に完成しているように見えるのだが、彼女が言うには花びらの質感に苦戦しているなど、まだまだ描き込んでいく必要があるとのことだった。
「俺、佐藤樹っていいます。また見に来てもいいですか?」
「ちょっと恥ずかしいけれど」
彼女はOKサインをした手で筆を取り、そして油壺にそっと入れた。
その日以来あの独特な臭いと、ごちゃごちゃしているのにそれすら奇妙なバランスを取っているあの美術教室のこと、そして花の絵を描いている彼女のことばかり考えるようになっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます