47th Memories.

 夜、久しぶりの自室で椅子に座るとコーヒーを口にした。うすぼんやりと昔のことを思い出していた。


 小さい頃、特に秀でたところもなく、よくぼんやりしていたので「ぼんちゃん」とか「のろま」とか呼ばれていた。周りのみんなは、スポーツも勉学も上手でぼくはついていくのがやっとだった。大きくなると、出来る人たちはみんな他の国や都市に出ていった。今、みんながどうしているのか俺は知らない。

 俺が機兵に乗るようになったのは偶々たまたまでたぶん欠員がでたからだ。とりあえず乗っていればいいと言われて、言われるがままにコクピットに乗り込んだ。その時、アリスと出会った。


「私がマスターを守ります。」


 それが彼女の最初の言葉だった。それ以来、色々と作戦に参加するようになった。アリスは機体を動かすのがとても上手で、いや上手というよりはまさに天才てんさいというべきだろう。俺は天地がひっくり返っても同じことをできそうにない。AIというのはこれほどのものかと驚嘆したものだった。

 しばらくして戦況が複雑になってくると、俺にも多少仕事が回ってきて、撤退の判断やどの敵を攻撃するかを少し指示するようになった。それもいつかはAIができるようになって、俺の仕事もまたなくなるのだろうと思っていた。

 とはいえ、アリスと一緒に敵を撃退していくのは楽しかった。砲弾がコクピットを掠め、危険なことも何度もあった。それでも俺たちはなんとか今日までやってきた。


 先日のことを思い出した。敵の最新鋭の機兵が強襲してきて、いのちからがら逃げ帰った。機体はボロボロになり、俺も病院でしばらく昏睡していた。それでしばらく忘れていたものを思い出した。




死。




死ぬこと。



俺でなくてもみんないつか死ぬだろう。これまでの俺の活躍は勿論、機体やアリスが奮闘して、一緒になってやってきたことだ。



「だけど



 



 たまたま

 ほんの偶然ここまでやってこれただけだ。」



俺はそう思った。

インスタントコーヒーをすすると香ばしい匂いが口の中を満たした。

それがなにかとても大切なものに感じられた。

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