世界で一番『可愛い』雨宮さん、二番目は俺。【書籍化&コミカライズ決定】

編乃肌

プロローグ 伝説のモデル『hikari』

 女の子のトキメキをぎゅっと集めて煮詰めた、女性向け大手ファッションブランド『キャンディインザキャンディ』。通称『アメアメ』。

 若い女子たちから圧倒的な人気を誇る、そのブランドの専属モデル『hikari』といえば、いまでは名を知らぬ者がいないほどの有名人だ。



 バランスの取れた肢体に透けるような白い肌。

 小さなお顔に大きなパッチリお目め。

 腰まで流れる特徴的な飴色の髪は、どんな髪型だろうと彼女を引き立て、その愛らしさを持ってあらゆるコーデを完璧に着こなす。


 なによりも彼女は笑顔がすこぶる魅力的だ。

 ぷっくりとした形のいい唇をゆるめ、ふわりとひとつ微笑むだけで、冗談ではなく周囲は花が咲いたように明るくなってしまう。



 始まりは『アメアメ』の公式WEBサイトから。


 新作の白を基調とした夏物ワンピースを着て、ひまわり畑を背景に全身図でアップされた『hikari』の写真に、見る者すべてが心奪われた。



【待って、『アメアメ』の新しいモデルの子誰あれ。むっちゃ可愛いんですけど!】

【天使がいた】

【『hikari』ちゃんヤバイ『hikari』ちゃんヤバイ『hikari』ちゃんヤバイ】

【同性の私でも惚れそう……肌キレイすぎない? スタイルよすぎない? 笑顔まぶしすぎ!】

【これは世界史にひとりの美少女】



 彼女の写真は瞬く間にSNSで拡散され、あっという間にトレンド一位。

 問い合わせが殺到し、着ていたワンピースは秒で完売する異例の事態となった。


 しかしながら『hikari』の素性は一切不明であり、公式サイトには簡素なプロィールしか載っておらず、ブランド側も意図的に情報をセーブしている。

 様々な憶測が飛び交ったが、謎は謎のまま。

 そのミステリアスさがまた話題性を呼んだのだ。



 そんな彼女につけられた称号は『世界一可愛い』女の子。



 誰もが納得のいく称号だ。

 彼女ほど可愛い人類は他にいないとまで、当時は騒がれたくらいだから。




 ――――だからきっと、誰ひとりとして思うことすらしないだろう。




「あー……午後の体育の時間、面倒だな。弁当食べたら早退してえ……」



 昼休みを前にした私立高校の教室。

 窓際の席で頬杖をつきながら、やる気なさそうにグラウンドを眺める黒髪の少年がひとり。


 どこからとっても普通、平凡、これといって特徴なし。


 下手すればクラスメイトにすら「そんな奴いたっけ?」と言われてしまいそうな、モブキャラで影の薄い『俺』が、あの『hikari』の正体だなんて――そんな残念極まりない事実。


 きっと誰も思わないよな。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る