楓によく似た周回遅れ

エリー.ファー

楓によく似た周回遅れ

 誰に言っても信用してもらえないので、こんな真夜中に独白をしようと思う。

 寂しい独白だ。およそ、中身などない無味乾燥な独白だ。

 自分で言うのもなんだが、これだけ前置きをしておいてなんだが。

 そういう独白だ。

 申し訳ない。

 特に妻と娘にはこのようなことで最後に迷惑をかけることを心から謝罪する。

 できれば。

 もっと正しい形で、人の耳に言葉を届けたかったと思っている。

 誰もが重要なことばかりを聞こうとして、その周りの些末な情報が結果的にすべてを表現していることに気が付かない。

 そんな事態に陥りがちな世の中で。

 少しでも自分の思いを発信できることに、心からの感謝を込める。

 楓の木の下で。

 このように動画というもので。

 言葉を届けられることを。

 心から。

 嬉しく思う。


 ありがとう。

 君と一緒にいた時間を忘れずにいたいよ。

 もしよかったら。

 君も忘れずにいてくれないかい。


 すれ違った時もあった。

 でも、楽しかった時の方が多い。

 もしかしたら、数えきれないほどの不幸の中を生きて来たのかもしれない。

 でもね。

 思い出せないんだ。

 

 死ぬ時に君に手を握っておいて欲しいんだ。

 頼むよ。

 大したお願いじゃないんだけどさ。


 失われた記憶。

 寂しい名曲。

 投げて捨てて忘れて。

 お願いだから、この部屋に入って来ないで。

 今夜だけは、外で過ごして。

 お願いだから。

 

 君はいない。

 もういない。

 どこにもいない。

 誰かの願いは潰えた。

 猫と戯れる音楽でありたい。

 闇の中に潜む君と光の中に住む僕。

 さようなら。


 何か悲しい思い出があって。

 もう二度と出会えないあなたがいて。

 悲劇にしておくにはもったいない時間があった。

 

 思い出す度に星になり。

 思い出す旅に出かける風となる。


 送り出した君の背中が、寂しそうに見えた。

 世界は鋭く。

 美しく。

 まだ消えぬ世界。

 まだ言えぬ正解。

 いまだ癒えぬ世界。

 いまだ見えぬ正解。

 

 大丈夫だ。

 歩き出すことはできないが。

 そこにとどまることはできている。

 どうか安らかに。

 さようなら。

 強くありたいのだ。

 

 子どもが犠牲になったのだ。

 

 誰もが望んだのだ。

 救いの無い世界をあなたが望んだのだ。

 もう二度と出会えない。


 愛だよ。

 最後は愛だ。

 君と僕の間を埋める愛だ。

 分かりやすい言葉だけが必要だ。

 きっと伝わるはずだ。

 短くてもいいんだ。

 投げ出してしまえばいい。

 生きてくれ。

 もう。

 僕から君に話せることはないんだ。


 愛が鋭すぎて、僕の心に刺さってしまうんだ。

 構わないよね。

 僕のことを忘れる予定なんだから。

 もう、大丈夫だろう。

 現実から出て行くつもりだ。


 この映像に僕らの魂はあるだろうか。

 芸術と愛の間に希望はあるだろうか。

 話しかけてくれよ。


 告白ではない。

 たぶん、独白なんだ。

 誰かに伝わるはずだった愛の言葉なんだ。

 結局のところ、パフォーマンスでしかないんだろうけどね。


 まだ、何かを失った。

 得たものばかりだけど。

 勝っているんだよな。

 負けているわけがないんだよな。

 だから難しいという話なのか。

 そうか。

 そうだよな。

 そうなってしまうよな。


 引きずられていく。

 愛のある方に。

 その方角に。

 気が付けば幻想は途切れている。

 たぶん、これもまた誰かの悪意なのだ。

 

 愛しています。

 本当に。

 愛されています。

 本当に。

 分かりやすい失敗などせず、明日を生きていきます。

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