二十話 違和感


 ボクと歩美は『城』に戻る。

 それは当然、遺体を右助に預けるため。

 でも、涼のからだも右助に預けてしまうことを考えると、この遺体を預けたくない。だけどまあ、この二人が一つとなった死体を切り分けるわけにもいかない。その行為はあまりにも冒涜的すぎる。だから、この遺体は仕方ないが右助に渡すしかない。


 『城』の地下室への生き方は、今は簡単だ。スイッチを押さずとも、螺旋階段ができていて、そこを下れば地下へと行ける。まったく、どんなカラクリだよと思うけど、金もちの考えていることだから、凡人のボクにはわからないので、気にしない。


 地下に行くと、三人――右助とセバスチャン、そして美華がいた。三人とも、キーボードを弄って映すを移動させ、裏切り者を捜している。


「右助さん、遺体、持ってきましたよ」


「ああ、ありがとう。セバスチャンに渡してくれ。そしてセバスチャン、悪いが、"あそこ"に死体を持って行ってくれ」


 セバスチャンは会釈し、ボクと歩美が持っていた遺体を預かり、持っていく。

 ボクは遺体をここまで、歩美と一緒に持ってきた。それは遺体というのはやはり重いからで、実際、ボクと歩美は休憩しながら運んだのだ。だからボクは、


「セバスチャン……さん? 一人で運ぶのは難しいと思うので、一緒に持っていきましょうか?」


 と、聞いたが、セバスチャンは首を横に振ったし、右助にも「セバスチャン一人で十分だ」と言われてしまった。

 やはり、右助たちはボクたちの中に裏切り者がいると思っている節が多少なりともあるのだろうか?

 セバスチャンは去っていく。遺体を持ちながら去っていく。

 ボクは気になる――セバスチャンがなぜ、両手で遺体を抱えず、片手で遺体をもっていたのか?

 もちろん、それは遺体を袋に入れてた故、そこまで不審とは感じなかった。しかし確かな違和感がボクには残った。まるで、軽々と、自分だけでも遺体は運べるのだと、誇張しているように感じた。







*****






 セバスチャンが遺体をどこかに置いて、『城』の地下室に戻ってきたときに、右助が言った。


「もし暇なら、回帰さんと能登さんはどこかの『休憩の間』で休んでください。そちらのほうが、この部屋で動きやすくなるので」


 確かに、この部屋――『城』の地下は、『休憩の間』と比べるとだいぶ狭い。

 いや、『休憩の間』が変化しただけなので『休憩の間』と広さは変わってはいないのだが、機械類でほとんど面積が埋められていて、人間が動けるスペースが狭くなっているのだ。

 だから、右助に言われるがままに従う――というわけにはいかない。


「美華――お前……大丈夫か?」


 もしも、右助かセバスチャンが、あの継ぎ接ぎ遺体を作り上げた犯人なら、次に殺すのは、孤立した人間だろう。つまり、ボクと歩美がいなくなれば、美華は殺される可能性が十分ある。


「何って……、凡愚はわたくしの何を心配しているんですの? まさかわたくしが死ぬとでも?」


「いや、大丈夫ならいいんだ。ただ、確認しただけだ」


「そんなこと、凡愚に言われずとも凡愚のモル倍は承知していますの。やはり凡愚は凡愚ですわね」


 相変わらず、辛辣だなあ。ってか、モル倍って……。だいたい6.0の10の23乗――どちゃくそ高い値になるぞ……!? というかモルの使い方違うだろ……。

 まあ、ボクに「気にするな」と言いたかったのだろう。それは、解る。だから、


「凡愚で悪かったな。ボクもいろいろ頑張るよ。そっちも犯人捜し頑張れよ」


「……、犯人捜しは縛絞終ロックロックエンドのお得意でしょうに」


 静かに、呟くように美華はそう言った。

 ぼそぼそ声だったのでほとんど聞こえなかったが、縛絞終ロックロックエンド――その単語だけは、はっきりと聞き取れた。

 ……彼女の場合は――美華の場合はその

名を揶揄として使わないことは分かっている。その忌み嫌われる名――忌み名――縛絞終ロックロックエンドは、美華が言うなら忌み名ではないとボクは思ってる。

 だから留飲を下す――否、怒ることも考えない。


「なんか言ったか、美華?」


「いいえ、なんでもないですわ凡愚。では、また会いましょう――夕飯時にでも」


「ああ。またな」


 ボクは美華との言葉の交わし合いを終えて、『休憩の間』に向かいだす。

 もちろん、能登歩美も連れていく。

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