◆◆葉桜の君に◆◆

ぎざ

第1話

 俺は春川桜子が嫌いだ。


 小動物のように弱い。優柔不断で、人に流されやすい。そのくせ集団には交わろうとせず、昼休みなどは一人で過ごしていることが多い。


 自分一人で生きてなどいけないというのに、弱い自分のまま貫き通す、無駄な頑固さが嫌いだ。


 生徒一個人にこのような感情を持つことは良くないことだろうか。

 しかし、生理的に受け付けないものは致し方ない。

 授業で指名しても覇気のない返事は聞こえないし、教科書を読ませても抑揚のない朗読は聞き取りづらい。黒板に解答を書かせても、文字の大きさから形に自信のなさが滲み出ていた。


 行動の一つ一つが遅い。


 怯えているのか。

 躊躇しているのか。

 考えているのか。


 諦めているのか。


 生きるのに苦労する。

 生きていくのに支障が出る。


 誰かが教えてあげた方がいいのだろう。

 俺の話を聞いて、理解できるだろうか。

 自分が弱い脆い存在なのだと。そう理解する体力はあるのだろうか。

 自分の弱さに押しつぶされやしないだろうか。

 その弱さを背負って生きていく強さがあるのだろうか。


 いや、無いだろう。

 俺は、そういう人を知っていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る