第24話

「工口さん」



 懐かしい色、懐かしい匂い。

 そして、懐かしい声。



「……」



 工口が再び目覚めたのは、何度かの寝食を繰り返した。

 異世界の魔王城寝室のベッドの上だった。



(……夢だったのか)



 テーブルナイフで傷つけられた、床や壁。

 勇者の剣で割かれたテーブル。

 半年と少し前のことなのに、随分遠く感じる。



「~♪」



 そして、その中で。

 ペドは椅子に揺られながら、リンゴを剥いている。



「……俺は結構、眠っていたのかな」

「……一週間くらいですかね。一つのことに夢中になる様に、眠ることに夢中になってるんだと思って。あまり気にしませんでしたけど」



 工口は、目を遠くする。



「疲れが、溜まっていたみたいですよ」



 小分けに、綺麗に切ったリンゴを渡す、ペド。



「ありがとう……。あそこの大きな穴は、火星人の葉巻型UFOが空けた穴だよな? 魔王城は結界で入れなかったんじゃないのか」

「……色々と事情が変わったんですよ。事情が。明日にでも、大型ショッピンセンターに二人で出向かないといけません」



 楊枝の刺さったリンゴをくるくる回す、工口。



「……あ、遊びに?」

「あっ、遊びじゃないですよ。真面目にやってください」

「……」



 工口は、一口リンゴをかじった。



「すっぱ……」



 予想通りの味が、口に広がった。




                     第五部   現実へ…… おわり。

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