真田 曉壱 過去編
昔、身近な人間が晒し首になって死んだ。大切に思っていた身近な人間。まだ
中学生だった俺には大きいダメージとなった。俺の大切な人は世間でいう
累犯窃盗者の類の人間だった。中学生にして俺の人格は捻じ曲がった。
大切な、愛する人。俺はあの日から世界に絶望して生きてきた。幼い少年の
恋だ。世間はそれぐらい、と思うだろう。しかし俺は当時彼女を大切に
思っていた。誰よりも好きだった。失いたくなかった。なのに突然彼女は俺の
前から消えていき皆に晒された。殺された。彼女の行いは死んでも尚、
ネット上で批判され続けていた。勝手に命を奪われた挙句、死んだ後も彼女は
中傷される。許すことなど出来ない。確かに彼女は何度も物を盗んだ。
窃盗は許される行為では無い。でも窃盗者を更生させる方法なんて幾らでも
ある。彼女はまだ中学生だった。更生の余地はあったはずだ。
死んでいい訳が無い。彼女は物を盗む度に反省していた。彼女は窃盗症
だった事もあったんだ。何度も反省していたのに更生の余地が無いと
殺される。あってはいけないんだ。全てが許せない。でも彼女を自殺に
追い込んだ犯人を裁くことは一般人の俺には無理な話だ。そして俺は
ある方法を自分の中で考えだした。彼女をずっと、ネットで執拗に叩いた
奴らを殺せばいいんだ。彼女がされた事と同じ事をあいつら全員にやって
やる。犯罪者を更生させるという大義名分を掲げ、執拗に叩き、社会的に
孤立させていった塵ども。ネット何てごみ溜め。鶴などいないごみ溜め。
許しはしない。全員殺してやる。死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね!
俺はネットのSNSアカウントをひたすら探った。叩きの投稿を探して
アカウントに飛べば簡単だ。叩いていた奴らの殆どは何かしらの対人ゲームを
していた様だ。アカウントの自己紹介欄にはご丁寧にゲームのアカウントや
名前まで掲載してくれていた。俺は叩きをしていた奴らと同じゲームをして
負かせ、何度も誹謗中傷してやった。彼女を叩いて奴は星の数ほど居た。
彼女が死んでから6年以上たっても全員を中傷することは出来ないでいる。
屑の遺伝子を残すことは世のためにならない。子供を産んだ叩き共は子供も
中傷してやる。屑の子供はイキがる癖して非常に打たれ弱い。俺が軽く
叩いてやっただけであっさり病んで首吊って死んだ。屑の分際で子供なんて
作るな。屑と結婚するやつも屑だ。子供を失って悲しんでも別に良い。俺は
彼女の敵を討つために今ここに居るんだ。自分を偽ってでも敵を討つ。
敵を討つために俺が人を間接的に殺害知っていると知ったら天国にいる彼女は
苦しいだろう。だから俺は絶対に真意は晒さない。俺が世間で叩かれてもいい。
消してしまうんだ。彼女を叩いた塵どもを。6年たった今でも、思い出したかの
様に彼女を叩く醜い人間は地獄の果てまで苦しめてやる。俺は間違っていない。
俺が彼女に助けられた様に俺も彼女を助ける。俺が彼女を助けてあげないと
死んだ彼女が浮かばれない。元々愛される子供じゃ無かった俺にとって、彼女は
唯一愛をくれる人間だった。忌み子や鬼の子と称される子供たちと変わらない
扱いを受けてきた。家族の中でだけだったけど、家族というのは一番関わる時間が
多い人間だ。幼少期に家庭内で愛情を受けられない事は大きい。俺が冷めた目で
人を見る様になったことは自然だった。母は俺を忌み嫌う。父は見てみぬふり。
兄妹は俺に近づきたがらない。そう、だって俺は、母と父の子じゃないから。
母が俺を嫌いな理由は、俺が父の浮気で出来た、父と愛人の子だから。旦那が
自分を裏切って作った子供が可愛いと思う訳ないよね。だから母は俺を決して
可愛がらなかった。幼い頃の純粋で子供としての可愛さのある俺を見て何度か心が
揺らいだ時もあった事を覚えている。しかし絶対に可愛がらなかった。それほど
母は俺を憎んでいた。父も浮気の事で後ろめたく、母に逆らえないからか俺を庇う
事は無かった。兄妹も俺を兄妹だとは認めるはずがない。表では沢山の人に囲まれ
一見幸せに見える俺だった。でも本心ではずっと思っていたんだよ。
誰かに愛する事、愛される事の大切さを教えてほしかった。俺の真意を誰でも
良いから見てほしかった。孤独で紡ぎあげた俺は冷めていた。もう一度人間として
温かくなりたかった。誰かの愛を求めていた俺は中学生で出会った彼女に初めて
人間らしい思いを向けた。本当に初めてだった。誰よりも大切に思えたんだよ。
俺は今まで培ってきた人と関わるスキルを駆使して彼女と幸せな関係になれたんだ。
でもどうして。何で俺は何も無い上に、やっと出来た大切な物まで無くなるんだ。
俺は彼女を失って、何を想えばいい?これからどうすればいい?俺は、少しでも
幸せになったら駄目なのかよ。どれだけ涙を流しても、どれだけ敵を討っても彼女は
決して戻ってこない。俺は敵を討ってきた。敵を討つために誹謗中傷をして、
人を自殺に追い込んできた。そう、彼女を自殺に追い込んだ奴らと同じ事をした。
俺は彼女の敵討ちという大義名分を掲げて、社会的に孤立させて殺したんだ。俺も
一緒なんだ。ごみ溜めに住む塵共と。あはは、俺もおしまいだな。同じレベルまで
堕ちて彼女が喜ぶのだろうか。優しい彼女の事だ、俺が堕落する事なんて望んでは
いない。ごめんな#陽万里__ひまり__#。俺は間違っていた。俺は君の事を大切に思って
いたから敵討ちをした。そう言って自分を騙していた。でも真意は全く違ったんだ。
俺は陽万里の敵討ちと言いながらしていた行為はただの自己満足だったのかも
しれない。陽万里はこんな俺を許してくれるか?失望したと思う。だって俺は、
自分を限界まで追い詰めたいじましい人間と同じレベルにまで堕落したんだから。
俺はもうすぐ死ぬ。君が居るのはきっと天国だ。俺は地獄に行くだろう。君とは
まだ会えない。でもお願いだ、陽万里。俺は地獄でしっかり罪を償って、1秒でも
早く、君のいる天国に行くよ。だから頼むよ、陽万里。俺を待っていてくれ。
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