7.前夜
それからのジャニィに日々は慌ただしく過ぎていった。
後任に選ばれた若き騎士団の青年への引き継ぎ、子供たちへの別れの挨拶、また、書記官としての基本的な振る舞いや、ヴォーアム王国のしきたり、広くは半島全体の風習や情勢などを急いで学ぶ必要があった。
しかし、肉体の鍛錬は不得意であったジャニィだが、これらを学ぶことは得意だった。
ほんの二週間でこれらの教養を詰め込み、ジャニィはせっせと旅支度を初めていた。
ヴォーアムに来て五年、長期でここを離れることはジャニィにとっても初めての経験で、どこか心が弾んでいた。
真歴一四九八年二月、王子の旅立ちが近づきつつあった。
「地図、地図、地図はどこだ?」
ジャニィは埃っぽい宝物庫で地図を探していた。
「しかし、ここはいつから倉庫になったんだ?」
ジャニィは愚痴をこぼしながら、奥へ進んだ。
すると、カランっと、何かを蹴飛ばした感触が足に伝わった。
「うん? なんだ?」
ジャニィは足元に転がるガラクタを手に取った。
「この模様は……、まさかジンのランプか?」
ジャニィは埃の被ったガラクタの側面の模様をまじまじと見つめた。
「まずいな」
ジャニィは辺りに気配がないか神経を研ぎ澄ませた。
「大丈夫そうだな。俺には憑いてなさそうだが、一応、祭事長に見てもらうか? しかし、旅の前だってのに縁起が悪いな」
ジャニィは地図探しもそこそこに祭事長の元へ急いだ。
「祭事長、入ります」
ジャニィは扉をノックすると、返事を待たずに扉を開け、首だけを部屋の中に入れ覗き込んだ。が、祭事長はおらず、部屋は鎮まりかえっていた。
「やっぱり、いないか?」
ジャニィはキョロキョロと首を回して部屋を確認していた。
「王子とシュラバリー邸に向かったってのは噂じゃなかったんだな」
ジャニィがそう思っていると、背後から急に声が聞こえた。
「誰だ! 何をやっている!」
王宮の衛兵だ。
「やべぇ」ジャニィは扉を閉めると王宮の廊下を一目散に走って逃げた。
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