3.魔物
「魔物と言ったな。どんな魔物だ?」王子は切り出した。
「えっ」幻導師は少し驚き、顔を上げた。
「こう見えても、私はこの地方を治める義務がある。領内の問題を解決するのも仕事のうちさ」
「身なりが良いとは思っていましたが、まさか領主様でしたか?」幻導師はさらに驚いていた。
「領主か? 少し違うが構わない。魔物のことを教えてくれないか? 貴族として剣術の心得もある。魔物退治に関しては、きっと村人よりも役に立つぞ」
王子は腕に自信があった。これまでも領内の魔物を何度か退治してきた。
その都度、王である父親には、こっぴどく叱られたものだが……。
「魔物は夜に現れます。村人が言うには、狼のような感じで、大きさは人くらいあったそうです」幻導師は身振りを交えて話した。
「キミは見ていないのか?」王子は尋ねた。
「見ていません。ただ、村人が殺された後、死体を見にいきました。そうしたら死体の周りが揺らめいていました」幻導師は手のひらをゆらゆらさせている。
「死体が揺らめいている?」王子は疑問な顔つきで呟いた。
「はい、たぶんですが、これは我々と同じ幻導力が関与していると思うのです」
「幻導力の関与? 説明してくれないか?」
「さっきも言いましたが、我々は大幻導師イソダムの弟子の末裔です。この地域には我々と同様に、大幻導師イソダムの力を引き継いだ人々が暮らす村がいくつかあります。川向こうの隣村もそうです。親交がないので、なんとも言えませんが、きっと我々同様貧困に苦しんでいるはずです。食糧だって我々より少ないかもしれません」
「それと狼の魔物がどう関わるのだ?」
「はい、隣村の奴らは、狼に幻導力をあたえ、魔物に変化させて我々の村を襲わせているのではないかと思っています」
「そんなことが可能なのか?」王子は興味を惹かれていた。
「可能です。そもそも幻導力は魔法のように直接的なことは何一つできません。物を変化させたり幻覚を見せたりする程度です。幻を導く力とはそんなものです」
「だから死体が揺らめいていたのも幻導力だと? 死体は村人だろう?」
「村人も必死に抵抗したのでしょう。襲ってきた魔物に痛手を与えたかもしれません。その返り血のように、魔物の幻導力を浴びて、揺らめいていたのだと思います」
「なるほど。その可能生はあるな」
王子は顎に手を当てながら、昨夜の襲撃を想像していた。
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