シャドウミラージュ~ゲームの最推しキャラで固めた最弱パーティー、異世界では最強でした~

夜宮鋭次朗

第1話:推しを馬鹿にされたので王様の顔面に靴をスパーキング!


「なんという期待外れだ! この無能のクズめ!」

「ブハハハハ! マジありえねー! 生きてる価値ない雑魚じゃん!」


 なぜだ。なぜ俺がこんな仕打ちを受けなくちゃいけない。

 俺はただ、自分が大好きなキャラたちとゲームを楽しんでいただけなのに。

 最弱でも構わない、最推しのキャラで固めた最高のパーティーで。

 自分が好きなやり方でゲームを楽しむ、そんなの当たり前のはずだろ?


 だが――ゲームの世界が画面越しでない『現実』と化した今、俺のプレイングには「無能」の烙印が押されてしまった。





 どうやら俺、鏡音影明かがみねかげあきは愛するスマートフォン向けゲーム《シャドウミラージュ》の世界に召喚されたらしい。最近流行りの、いわゆる異世界召喚というヤツだ。


 召喚されるまでの経緯は、実のところ全く記憶にない。


 自分のことはちゃんと覚えている。

 地球の日本生まれで、就活に失敗して人生の暗礁に乗り上げた崖っぷち大学生。友人も恋人もいない、ゲームアプリ満載のスマホだけが相棒のぼっち野郎だ。


 中でも最推しのゲームが《シャドウミラージュ》。通称《シャドミラ》とは、地球と鏡合わせの関係にある鏡面界きょうめんかい《ミラアース》を舞台に、地球の英雄や神々の力を宿す戦士《シャドウミラージュ》を従えて戦うRPG。

 大人気……とは言い難いが、良くも悪くも世界的に有名なアプリゲームである。


 世間の評価はともかく、俺は大いにこのゲームを愛していた。システム面での文句は多々あったが、登場するキャラクターがとにかく大好きなのだ。今日も今日とて、最推しの中でも特に最愛のキャラ《ハクメン》を愛でていた……はず。


 そこから異世界召喚されるまでの、前後の記憶がブツリと途切れているのだ。


 自分の部屋にいたから、トラックに轢かれたり通り魔に刺されたり、最近の異世界転生のテンプレは踏んでいないはず。一面真っ白な世界で神様やら天使やらにも会った覚えがない。転生じゃなくて召喚だし、部屋に突然魔法陣が現れたとか?


 なんにせよ、気づけば俺は如何にもな玉座の間に座り込んでいた。


『おお、召喚は成功だ! よくぞ参られた、《ミカガミ》殿よ!』


 これまたテンプレートな、白髭をたくわえた王様が歓喜の笑みで叫ぶ。うるさい。


 王様の言う《ミカガミ》とは、《シャドミラ》でのプレイヤーを指し示す呼び名だ。俺がここをシャドミラの世界だと即座に理解したのもこれが理由。


 しかし……このゲームに於いてプレイヤーは本来、《境渡さかいわたりの神鏡しんきょう》というアイテムを介して地球から語りかける存在だ。それはスマホを通じたプレイングに、リアルで異世界と交信しているかのような臨場感を与えるための設定。

 こんな風に、プレイヤーが直接シャドミラの世界に立つことはありえないはず。


『そなたらは我がマグニス王国を救うべく、《創造神》様がお遣わしになった救世主! その腕にある《境渡りの神鏡》こそ、なによりの証である!』


 王様の言葉で遅まきながら存在に気づいた、手首に巻かれた腕時計サイズの鏡。手で触れた途端に台座から離れて浮遊し、タブレットほどの大きさに変じたそれは、やはり俺の知る《境渡りの神鏡》そのものだった。


 やはり、ここがシャドミラの世界なのは間違いない。でも、プレイヤーを召喚できるなんて設定あったか? それに《創造神》だと? 神の力を宿す上位ミラージュはいるが、そんな呼び方をされるヤツいたっけか?


 俺の困惑なんて知ったことかとばかりに、王様の話は進む。要約すると『世界に危機が迫っておる! 勇者よ、世界を救うのじゃ!』というお約束の感じだ。


『異世界召喚キター! さらばクソリアル! おいでませハーレムライフ!』

『じゃあ私のイケメンハーレムも現実に!? なにそれサイコー!』

『やれやれ、世界の危機と言われては無下にできないな』


 俺と同じ境遇と思しき少年少女が他に三名いて、反応がこれである。

 欲望丸出しだったり主人公ムーブに浸ったり、なんというかこう、イタイタしい。


 まあ「元の世界に返せ」と抗議しない時点で、俺も他人のことは言えないが。

 夢かドッキリかと疑う気持ちが咄嗟に湧かないくらいには、俺も一度ならず夢想した、この状況に浮かれていたのだ。


 ――問題は王様の傍らに立つ、目元を眼帯で覆い隠した魔女。彼女が【鑑定】なる力で、俺たちが持つミラージュの戦力を暴き出したこと。


 他の三人は最高レアSSRのミラージュを数多く揃えていて、流石は救世主様と称賛の嵐。王様や、左右の壁際に並ぶ騎士と貴族たちが揃って喝采を上げた。

 しかし俺の番になった途端、玉座の間が静まり返る。


 おそらく、三人とも相当な額をガチャに突っ込んだ、重課金あるいは廃課金勢というヤツなんだろう。対して俺は無課金でこそないが、したのは三度切りの、強いて言うなら微課金勢。所持するSSRの数は、たった七体。


 他にイベントをこなせば確定で入手できる、配布枠を含むSRが二十三体。後はフリークエストでドロップする低レアばかり。そして、性能度外視の推しキャラのみで固めた俺の主力パーティーは、性能面では間違いなくこの場で最弱だった。


 結果、降り注ぐ嘲笑と罵声の雨あられ。


「召喚の儀式には多大な費用がかかったというのに、貴様のせいで一枠無駄になった! どう責任を取ってくれる!? 薄汚い闇属性の、それもおぞましい畜生モドキばかりが手駒とは、どうせ貴様も卑しい生まれの――「だらっしゃああああ!」ぶへあ!?」


 とりあえず、ムシャクシャしたので王様の顔面に靴を投げつけてやった。

 ……部屋にいたはずなのに俺、なんで靴履いてるんだろ?

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