奴隷商人ですが奴隷達が商人離れしてくれないので派遣会社に転向します
豚骨ラーメン太郎
悪徳奴隷商人から奴隷を救え作戦
皆さんこんにちは。
僕の名前は
高校2年生の17歳だ。
いや、元高校生といった方が良いかな。
何故なら僕がいるここは日本ではなく、地球でさえない異世界で、この世界には高校なんてものは存在していないんだから。
普通の高校生だった僕がこの世界にやってきたのは、3か月前のことだった。
3か月たった今でも、昨日のことのように覚えているよ。
小さな女の子をかばってトラックに轢かれた僕は、女神さまに会ったんだ。
なんと僕がかばった女の子は神様の加護を持った神子だったらしく、その命を救った褒美として異世界に転移させてくれることになった。
しかもゴッドパワーで身体能力を著しく上げたうえに、魔法という不思議な力を使う為に必要な魔力の保有量も大幅に上げてくれた。
更に魔法の習得が早くなるという、使ってる僕でも何がどうなってそうなっているのかよくわからない不思議能力まで与えられた。
いわゆるチートと呼ばれる力を得た僕は、この異世界に跋扈する魔物という化け物を駆除する冒険者になった。
並外れた身体能力と魔力、そして多彩な魔法。
それらを駆使して、僕はあっという間に一流の冒険者になった。
冒険者の仕事を斡旋するギルドでも奇跡のルーキーとして話題になっている。
しかしそんな僕にも悩みがある。
それは、ザ・主人公な異世界ライフを送っているにもかかわらず、未だに童貞を卒業できていないことだ。
僕が草食系と言われる部類の人間であることだけが原因ではない。
どうやらこの異世界では筋骨隆々なマッチョでダンディーな男がモテるらしく、ゴッドパワーで強くなっただけの見た目ヒョロガリの僕は見た目的に悪いらしい。
これはそう簡単に解決できる問題ではない。
だって僕は太りにくい体質だし、そもそも食が細いからそんなに食べられないし、ていうか身長は自分の意思で伸ばせないし、さらにダンディーさのかけらもない童顔だし。
だから普通の恋愛は半ば諦めている。
金目当ての女ならどうにかなるのかもしれないが、流石に金で童貞を捨てるのは嫌だ。
同じような理由で風俗も行っていない。
せめて童貞は普通に捨てたいと思ってしまうのは、僕が童貞のガキだからだろうか。
異世界には付き物の奴隷も存在しているが、僕が女の奴隷を購入したら、あっという間に噂になってしまうだろう。
根が小動物の僕には非常によろしくない風評…却下だ。
ともあれ、僕は普通に童貞を捨てるチャンスを心から欲していたのだ。
そんなある日、僕は彼女に会った。
今日は自分で決めた休養日。
日ごろから命を懸けている冒険者は、しっかりと休むのも仕事のうちだ。
宿屋暮らしも悪くないが、先のことを考えると心身ともに安らげる家を持ったほうがいいだろう。
ということでそれなりに貯金がたまっていた僕は、良い物件がないか確認するために町の役場へ向かっていた。
その道中、路地裏から男の怒声と女の悲鳴が聞こえてきた。
一瞬の逡巡の後、僕は声の方へと駆け出した。
そこにいたのは大柄の厳めしい顔をした男と超絶美人の女の人。
異世界には綺麗な女の子が沢山いたが、ここまでの美女は初めて見た。
その姿を見た途端、僕は思わず息をのんだ。
立ち止まった僕を、髭面の男が睨む。
「何だお前?」
「ぼ、僕はマサヨシ。冒険者だ!!」
「冒険者がこんなところに何の用だ?」
「悲鳴が聞こえた!お前、その人に何をした!」
「俺はただ生意気なペットにお仕置きをしてただけだぜ?」
何がお仕置きだ!いやらしく笑いやがって!
男の手には鎖が握られており、それは女性の首に付けられた首輪に繋がっている。
女性は潤んだ瞳を僕に向けている。
よくよく見るとやはりとんでもない美人だ。
しかも単なる美人ではない。
艶のある金髪、透き通った碧眼、そしてやや尖った耳。
美人ばかりで有名なエルフという奴だろう。
この世界に存在しているのは知っていたが見たのは初めてだ。
「ペットだと!?ふざけるな!!」
憤る僕に、男は嘲笑を返した。
「はっ!ペットはペットだろうが。こういうどうしようもないペットを調教して顧客に届けるのが俺の仕事でな。」
「お前、奴隷商人か!」
「おうよ。国から正式に認められた奴隷商だ。わかったら失せな。仕事の邪魔だ。」
「し、仕事って……」
「決まってんだろ。このグズを徹底的に調教して、お貴族様に売るんだよ。」
「そ、そんなこと、許せるものか!!」
「お前に許してもらう必要はねぇやな。これは正式なビジネスだ。邪魔すんなら衛兵を呼ぶぞ。」
「ぐっ………」
僕は咄嗟に言い返せず歯噛みする。
奴隷商は国から特殊な認可を受けてできる商売だ。
仮にこの男を害すれば、国から指名手配を受けることになる。
「お優しい人、私のことはどうか気になさらないでください。」
エルフが僕にそう言った。
その瞬間、奴隷商の男が彼女の頬を叩く。
「てめぇ、なに勝手に口を開いてやがる!!」
「きゃぁっ!!」
「や、やめろ!!」
彼女が悲鳴を上げ、僕は思わず止めに入った。
奴隷商は鋭い眼光で僕を睨む。
「邪魔すんじゃねぇクソガキ!営業妨害でギルドに訴えてやってもいいんだぜ!」
「くっ……し、しかし……」
「しかしもかかしもねぇんだよ!こいつは変態貴族の玩具になるって決まってんだ。命令も守れないゴミ奴隷だとクレームを受けちまうからな。今のうちにきっちり調教してやらねぇと。」
「へ、変態貴族だと…!そんなの駄目だ!!」
「駄目かどうかを決めるのはお前じゃねぇんだよ。それともお前が代わりにこいつを買うか?」
奴隷商がニヤリと笑う。
パッとしない見た目の冒険者に買えるわけがない、そう思っているのだろう。
「………いくらだ?」
「あ?」
「値段はいくらだと言っている!」
「……それを聞いてどうすんだよ?」
訝しげな眼差し。
「良いから言え!」
「………白金貨30枚だ。」
「なっ!なんだと!?」
白金貨は日本円で換算すると、1枚で100万円相当だ。
つまりこのエルフの値段は3000万円ということになる。
「ただでさえ希少なエルフ、そしてこの容姿だ。おまけに既に貴族と内約を結んでいる。お前にこいつを打った場合、それを反故にする手間もかかる。」
「うっ…ぐっ……」
「払えねぇなら諦めろ。」
奴隷商は冷たく言い放った。
そして踵を返して立ち去ろうとする。
鎖を乱暴に引っ張られて歩き出す彼女の悲しげな瞳と、目が合った。
「………待てっ!!」
「……あ?」
奴隷商が緩慢な動きで振り返った。
「ぼ、僕が買う。」
「はぁ?金もない癖に何言ってんだ?」
「金は……1週間あれば用意できる。必ず!!」
「それまで俺に待ってろってか?ふざけてんのかクソガキ?」
「白金貨5枚、プラスで払う。前金でだ。」
僕は持ち金の白金貨5枚を取り出した。
「………ほぉ?」
奴隷商はいやらしい笑みを浮かべた。
「もし期日までに金が用意できなかったら?」
「前金はお前のものだ。」
「…良いだろう。1週間だけ、待ってやるよ。」
「その間、彼女に危害を加えないと約束しろ。」
「へっ、仕方ねぇな。がっかりさせんじゃねぇぞ。」
大して期待もしてなさそうな目でそう言い、奴隷商は去っていった。
「……約束の………金だ………」
「まさか本当に用意してくるとはな。見かけによらず優秀な冒険者だったか。」
あれから1週間後、僕は死に物狂いで稼いだ金を持って奴隷商の店で対面していた。
かなり無理をしたせいで心身ともに疲弊している。
ギルドの受付嬢やほかの冒険者たちに心配されながらも休まず強大な魔物を狩り続け、大金を稼いだのだ。
「これで、文句は……ない………だろ。」
「……ふんっ、良いぜ。こいつはお前のもんだ。契約を結ぶぞ。」
奴隷商が隷属魔法で僕とエルフとの間に契約を結ぶ。
この魔法は異世界でもひどく特殊な魔法で適性の有無が重要になるため、僕の特殊能力でも覚えられない。
「……それ、契約は終わりだ。金はいただくぜ。」
奴隷商は大量の白金貨を掻き集め、あとは好きにしろというように部屋を出て行った。
奴隷商が出て行った部屋で、僕はエルフと対面する。
緊張と疲労で頭がうまく回らない。
「えっと……その………」
「私はシルフィエルと申します。」
エルフ…シルフィエルさんが静かに礼をする。
さっきまで潤んだ瞳で感激したように見ていた気がするんだけど、今は無表情だ。
僕、何かしたかな。
「あ、あぁえっと…僕は……」
「存じ上げております、マサヨシ様。」
「は、はい。」
「マサヨシ様はひどくお疲れのご様子。ひとまず休める場所へ参りましょう。」
「はい……」
え………誰これ。
僕はこれ以上ないくらいに混乱していた。
宿に戻った僕はすぐにベッドに倒れ伏し、翌日の夕方になってやっと起きた。
シルフィエルさんはずっと部屋にいたらしい。
慌ててシルフィエルさんを連れて食堂へ行き、食事をとった。
そして再び部屋に戻り、対面して椅子に座る。
「さて、シルフィエルさん。今後の事を話し合おう。」
「はい。」
相変わらずの無表情……契約した途端にこうも変わるのか?
もしやあの奴隷商、何か変な事でもしたんじゃないだろうな。
「知ってると思うけど僕は冒険者だ。魔物を倒して生活している。」
「はい。」
「し、シルフィエルさんは…魔物と戦えたりする?できればシルフィエルさんにも冒険者になってほしいんだけど……。」
「魔法で援護する程度で宜しければ。」
「魔法が得意なんだ?」
「エルフは人間より魔法適性が高いので。」
「そ、そうなんだ。」
「しかし身体能力はあまり高くないので、近接戦闘は不得手です。」
「そっか……でも大丈夫!何があっても、僕が守ってみせるから!!」
「ありがとうございます。」
むむ、決め台詞のつもりだったけど、これでも揺らぎすらしないか……そうだ!!
「ねぇ、シルフィエルさん。奴隷から解放されたい?」
「………解放、ですか?」
お、やっと表情が動いた。
明らかに目を丸くして驚いている。
よしよし。
「うん。僕は奴隷が欲しかった訳じゃない。ただ、君を見捨てておけなかっただけなんだ。だから………」
「解放……して下さるのですか?」
潤んだ瞳から喜色が見てとれる。
やった、好感度アップ!
「君がそれを望むなら…ね。」
ふっ…決まった。
これでシルフィエルさんは僕に惚れるはず。
大体のラノベはそうだったし。
今夜ついに童貞卒業か!?
「それでは……お願い致します。」
「わかった。」
神妙な顔を意識しつつ頷く。
そして契約の破棄をイメージする。
僕とシルフィエルさんを繋ぐように魔法式が可視化された。
「僕は奴隷シルフィエルとの契約を破棄し、彼女を解放する。」
そう言うと、魔法式は細切れになって霧散した。
それを見ていたシルフィエルさんの顔に笑みが浮かぶ。
「さぁ、シルフィエルさん……君は自由だ。」
「はい、ありがとうございます、マサヨシ様。それでは。」
笑顔で一礼したシルフィエルさんが部屋を出て行こうとする。
……………え?
「ちょ、ちょっと待った!」
「はい?」
慌てて止めた僕に、シルフィエルさんは振り返ってキョトンとクビを傾げている。
「ど、どこに行くの?」
「愛しきあの方の元へ。」
どゆこと?
「え、それ……どういうこと?」
「ですから、愛しきあの方の元へ行くのです。」
「え、え?」
愛しき?彼氏?夫?え、なんで?
「ぼ、冒険者は?」
「………私を解放したのは貴方でしょう?」
シルフィエルさんが眉を細めた。
「そ、それはそうだけど……ぼ、僕と一緒は嫌?」
「嫌です。」
おうふっ
「ぼ、僕よりその人が良いの?」
「当たり前でしょう。」
おうふっ!
「ど、奴隷から解放したのに?」
おかしい…ラノベならこれで惚れられてるはず。
「何ですかその恩着せがましい言い方は。」
うっ…確かに、今のは自分でもなかったなと思う。
「で、でも、あの奴隷商から助けたのは僕だ!」
「誰も頼んでいません。言ったでしょう?"気になさらないで下さい"と。」
え、えぇ………
「……愛しき人ってのは、誰なの?」
「貴方には関係ありません。」
おうふっ!!
胸を押さえて膝をつく。
「ぐっ……ち、ちなみに、何で僕じゃ駄目なの?」
「言わないとわかりませんか?」
「き、聞かせてほしい…かな。」
「では……」
コホンっと咳払いを1つ。
「貧相な見た目とパッとしない顔つき、大した苦労も知らなさそうな幼稚な雰囲気、滲み出る子ども臭さ…一目で魅力のない男だとわかります。おまけに童貞臭い。そのくせいやらしい目で見てきますし……貴方に惹かれる女なんているんですか?少なくとも私は絶対にありえません。頭も悪そうですし性格も凡庸。特筆するところのない人間性。何もかもつまらないです。そして童貞臭い。世の中には貴方より優れた人間などいくらでもいるというのに、ちょっと戦えるからと自分が特別な人間であるかのように振る舞う諸々の仕草。隠せてるつもりですか?童貞臭さと同様、全く隠せていませんよ。己の分を知りなさい。」
「……………はい。」
僕は静かに頷いた。
よし、どこか遠く離れた街に行こう。
そして風俗に行くんだ。
童貞さえ捨てられるなら、何でも良いよね。
この日、僕の中で何かが変わった。
「………んで、何でお前がここにいるんだ?シルフィエル。」
「私がご主人様の奴隷だからです。それと、どうかシルフィとお呼び下さい。」
「……シルフィ、お前はマサヨシ君の奴隷になったはずだが?」
「解放されたので戻って参りました。」
「………なんで?」
「さあ?何故解放したのかよくわかりませんが……おそらく、童貞だからでしょう。」
「いや、俺が聞いたのは何で戻ってきたかなんだが………というか童貞関係ねぇだろ。可哀想だからやめろよ。」
「これは失礼致しました。しかしその理由は先程申しましたように、私がご主人様の奴隷だからです。」
「シルフィとの契約は既にないはずだが?」
「はい。ですのでまた契約して下さい。」
「なんで!?」
「ご主人様の奴隷でない私に存在価値などありませんので。」
「いや、ちょっと……かなり意味わかんねぇんだけど。」
「良いではないですか。大金も手に入り、私もこうして戻ったのですから。」
「後者は全く良くねぇんだけど。何の為にあんな芝居したんだよ。」
「1度買われたのですから無駄ではありませんでした。ただあの童貞が勝手に私を手放しただけです。」
「いや、まぁそうなんだけどよ………はぁ。」
「ご主人様……ご主人様は私がいない方が良いのですか?」
「そういう訳じゃねぇけど……俺は奴隷商人だしなぁ。折角育てた奴隷が日の目に当たろうとしてんのに、戻ってこられちゃしょうがねぇだろ。………何でお前らいつも戻ってくんだよ。」
「私達はご主人様だけの奴隷ですから。」
「商人離れするつもりあるのか?」
「勿論ございません。」
「はぁ………もう良いや。また明日、違う手を考えよう。」
「良い手が浮かぶと良いですね、ご主人様。」
「お前が言うな。」
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