第16話 本業と期待

 社長と先生と俺でたわいもない世間話をした。最近の仕事のことだったり、美味しい飯のことだったり。

 そんなことを話して休憩も終わり仕事の話になる。

「最近不動が出て行くばっかりで、新しいのが全然入って来ねんだよ。それもどの家に行ってもちょうどいい一尺半ぐらいのやつが出て行くから、困ってるんだよ。あるかい?」

そう先生が言う。本堂を見回すが、そんなに少なくない気がする。だが、言われてみると小さなサイズがほとんどない。

「何体か持って来てるよ。一応、全部無垢を持って来たつもりだが、俺たちも絶対だとは言えないから見て判断してくれ。」

社長は一応なんとなく感じ取れるらしいが、言っても一般人。絶対的な判断ができないらしい。ただ、明らかに訳ありのものは買い取ったり買い付けたりはしない。それだけでも不良在庫を抱えにため会社にとってもプラスになる。

 そう言いながら、俺と社長は持って来ていた五体の仏像を開けていく。

「見てみようかの…って、全部立像じゃねえか。俺毎回言ってんじゃねえか、半跏像探してくれって…。まあ、今回も全部無垢で木造だからありがたいけど。」

そんな文句を言いながら、目をつぶり、手を合わせて不動に聞いていく。その間、手が動いて色々なことを教えてくれているらしい。

「半跏像は滅多に見ないんだよ。それに、先生が言ってる値段で探すとやっぱり立像が多くなっちゃうよ。もうちょっと多く予算見積もってくれけば見つけやすいんだけど。」

「そうしたら、ここに来てくれる人たちに負担がかかってしまうだろう。そんなことせずにできるだけ安く済むようにしてやりたいから、あんまり高いと困るんだよ。」

 俺は驚いた。爺さんはお金のことなんか気にせず、高額な金額を請求していた。しかし、それもわかる。特殊な世界だからこそ、それなりの金額をいただく。しかし、目に見えず効果をしっかりと確かめてから払うわけでもないお客さんは、心配になるだろう。現に、爺さんのところは一見さんが多く、信者となり毎月きてくれる人は少なく感じる。

「お前、意外そうな顔してるな。前のところでは高額な請求してたんだろ?まあ、その方が普通だ。でもな、ここにきてくれる人は、本当に不動を必要にしてくれてる人が、その時期になってここを訪れる。そんな人たちに高額な金額をいうのは俺でも気がひける。それにな、ここにはもっと気軽にきてほしいんだよ。そうすれば俺も頻繁に診てやれるし、大事になる前に対処もできる。そうすればここの信者さんたちも、安心して普段の暮らしができる。それが理想だ。」

 確かにそうだ。ここに定期的に来てもらえれば、大変なことにならず日常生活を普通に遅れる。そんなことを願う気持ちは同じだ。


そんなことを言いながら、次の希望の仏像や仏具の注文を受け、帰る支度をする。その時先生と連絡先を交換し、当面の日程を聞いた。休日の午前中はできるだけ来いとのことだ。そこで修行をしてくれるとのことだ。

「お前は、如来の力を授かることになった。だが俺は不動の力の扱い方しか知らない。たまに、如来の力を借りようとするが、ほとんど借りることはできん。だから当面は、不動の力を使う練習をしつつ、お経を覚えて、人を祈祷するの繰り返しだ。それにお前さんには、まだ御神体がない。それが然るべきタイミングで入ってくるだろうから楽しみに待ってな。」

嬉しそうに言っていた。

 なんでもここに自分以外の人が来て修行するのが、先代の先生が弟子を取っていた時以来らしい。

 そんなこんなで、俺と社長は家路につく。


「面白いだろあいつ。見た目は厳ついし、言葉遣いは荒いが根はいいやつだ。それに、話好きだから話してても面白いぞ。」

 先生のいろんな話をしてくれた。社長と先生は昔からの友達で、学生時代はケンカ三昧だったらしい。


『御主よ。これから様々なことがあると思うが、頼んだぞ。その代わりと言ってはなんだが、我は御主に降りかかってくることから全て守ってやろう。』


 俺は決意した。どこにいても一緒にいてくれる。ごまかしも効かない。だからこそ、誠心誠意尽くせば俺の望む世界に連れて言ってくれる。


 楽しい毎日がまた始まる。日常がまた非日常に変わる。それが今日だった。

 そんなことを考えながら、心が熱くなる。太陽が沈み夜になる。子供の頃は、別の人たちが起き始め、夜な夜な百鬼夜行のように練り歩くのだろうと思っていた。だがそんな想像も大人になるにつれ、絵空事へと変わっていった。そんなことが重なるにつれて、俺はますます非日常に憧れていった。その憧れが現実に変わり、次はどんなことが起こるか楽しみだ。

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