記憶を失っても、あたしが覚えているねっ!!

 「きゅ、キュルル!!!」

 「かばんちゃん!!」 

 「!」

 思い出したかのように、声が上がる。

 それは、キュルルと一緒にいた、ネコ科のフレンズ二人から。

 気付いて僕は、振り返れば。

 虹色の球体が、蠢いていて。

 やがて、形を象っていく最中であって。それこそ、その形は人の形。

 《元の動物に戻っているようだ。》

 「!」

 僕は、呆然と見ていたけれど、通信機から虎猫が話してくれる。

 どうやら、これは、元の動物に戻る最中だと。

 「……って、どうなるの?」

 ただ、こんな状況であっても、知らない僕は聞いてしまう。

 情けなくも、思えるけれど。

 《……文字通り、猫なら猫に戻るってこと。ああ、人の場合、形はそのままだろうけれども。》

 「?……そう、なんだ。」

 虎猫が、言うことには、文字通りと。

 単に、猫のフレンズなら、猫に戻るだけだということ。

 簡単なことみたい。 

 《ま、弊害もあるみたいだけど。例えば、記憶がなくなるとか。フレンズだった記憶はなくなってしまうんだと。例外として、人のフレンズだけは、記憶が残っているようだけど、まあ、この場合も多分、問題はないんじゃない?》

 「!……。」

 ただし、問題はあるようで。

 記憶がなくなるらしい。例外もあるが。

 なお、先の二人は、人のフレンズだから、問題はないとされるけれど。

 そういうものかと思い、僕はまた、救出した虹の球体が戻る様を見た。

 虹色がやがて遠退き、姿が普通の彩色へと戻るなら。

 キュルルは、取り込まれる直前の姿へなり。

 かばんさんは……。

 「?!」 

 姿が異なっている。帽子と鞄を持つのは変わらずだが。

 直前に見た姿とは違い、やや幼くなっている。 

 服装も、変わっていて。

 取り込まれる直前とは、大きく異なっている。

 キュルルの姿には、良かったと思うことはあっても。

 かばんさんの様子には、ぎょっとならざるを得ない。

 何事?

 「か、かばんちゃん?!」

 その状況に、一番に驚くのはサーバルのよう。

 かばんさんのそんな姿に、驚きを隠せないようだ。

 驚きつつ、震えながら歩み寄って。

 かばんさんは……。

 「……?さー……ばる……ちゃん?」

 幼くなりながらも、微かに口を動かして。

 サーバルを呼んだ。 

 「!!うん!!うん!そうだよ!!かばんちゃん!だ、大丈夫?!ねぇ!」

 「?!う、うん……。あれ?どうしたの?ぼく、何で?……何だか、悪い夢でも見ていたみたい……な?」

 呼ばれたならと、サーバルは抱き締めて。

 抱き締められたなら、かばんさんはしかし、戸惑いながら。

 状況を整理しようと思考をしているみたい。 

 「……あれ?思い出せないや。ぼく、ゴコクエリアまで行ったはずじゃ?あれ?でも、ここって?あれ?あれれ?」

 「?!」

 戸惑いながらも、思考をしているものの。

 だが、情報の齟齬を僕は感じ取り、違和感に僕はつい目を丸くしてしまう。

 「?!もしかして……?!」

 「……記憶を、失くしているのです。それも、あの時の旅立ちから、今日のこの時までの記憶を……。」 

 長の二人のフレンズは、降りてきて、そんなかばんさんの様子を見て。

 理解するか、驚きつつも冷静に言ってくる。 

 そう、記憶を失っていると。

 「!……。」 

 その原因はよく分からないが、……長の二人見れば、良かったのか。

 悪かったのか、合わさる複雑な様子をしている。

 ……それは、傷心がないからで?

 記憶喪失と共に、傷心がなくなったから。

 現に、あんなキョトンとしたかばんさんに、最初見た傷心を僕は感じない。

 その傷心がいかほどのものか、僕にはよく分からないでいるが。

 あんな、心が躍らないほどの様子だ、立ち上がれなくなるほどだろう。

 それが今のかばんさんからは、感じられない。 

 「ううん!いいのっ!かばんちゃん!」

 「?!わ、わぁ?!」 

 例え、記憶がなくなっていても、サーバルは関係ない。

 サーバルは、そんなかばんさんに抱き着いて。

 よかったと、安堵する。 

 かばんさんは、サーバルから抱擁を受けて、何事と余計に混乱してしまった。

 「……。」 

 僕は、これがよかったとか分からないでいるが、雰囲気的には、よしなのかも。

 僕は、ならこれくらいにしておこうと思う。

 視線を映して、キュルルに向ければ。

 「き、キュルル!!」

 「……あ?え?な、何?ここ、どこ?え……?」 

 「!」

 もう一人の、ネコ科のフレンズに抱き締められているが。

 こちらも、かばんさんと同じように、キョトンとしている様子。

 おそらく、記憶がなくなっているのだろうが。 

 「……ぼくは?あれ?何で?何で抱き締められて?あなたは……?そして、ぼくは、誰なの……?」

 「!!そ、そんな……っ!……うぅ。」

 「!……。」

 それも、重症のよう。

 たどたどしく繰り返される言葉からは、記憶の欠片さえ感じられない。

 悲しいかな、キュルルの記憶の喪失度合いは、重傷で。

 ここであったこと、一切合切、喪失したらしい。

 感じて、抱き締めているネコ科のフレンズは、悲壮に涙を流してしまった。

 「あっちはもっと、重症のようですね。」

 「記憶の一切がなくなるなんて……。」 

 長の二人のフレンズは見て、重症な様子に、絶句しそうになっている。

 「……。」

 僕は、そのネコ科のフレンズの悲壮見て、思うことがあり。

 つい通信機に目をやる。

 《……君が言いたいことは分かっている。助けたいってね。でも、やっぱりできないのさ、コンピューターみたいに上書きできるわけじゃない。傷には、治療が必要。鎮痛剤では、痛みを一瞬感じなくするだけなんだ、根治じゃない。》

 「……僕らには、やっぱり何もできないってことか。」

 通信に虎猫は応じてくれるけれど。

 僕が考えていたこと、汲み取ってくれて。

 でも、その回答は解決に結びつくものじゃなかった。

 むしろ、僕らでは何もできないということを突き付けるだけの。 

 そのために、僕は視線を落としてしまう。 

 「そんなことないよっ!」

 「?!」

 視線を落とした矢先に、全て聞いていたか、サーバルが声を掛けてきて。 

 嬉しさよりも、何事とか、なぜにとかそんな感情が先に来て、僕は顔を上げて。

 サーバルの方を見た。

 抱擁は終わりか。

 かばんさんから離れて、僕を見据えている。

 にっこりと、元気付けるように笑みを添えて。

 「……!……。」

 その様子が、どこかの誰かをつい思い出しそうで。

 こんな、能天気な様子、僕の、いや多分虎猫のだろうか。

 記憶の先に、似たような誰かを思い出す。

 もし、〝あの子〟と似たようなら、呆れてもきた。

 ……〝らしい〟……か。

 「記憶がなくなっても、いいのっ!だって、かばんちゃんはここにいるんだし、キュルルちゃんもここにいる!だから、何度でも、やり直せるよ!」

 「!……。」

 サーバルは、誰かと似たように言ってくるなら。

 例え、記憶がなくなっても、存在が消えたんじゃない。

 また、やり直せる。 

 なくなってもまた、作ればいい。思い出せるなら、思い出せばいい。

 そう、ポジティブに言ってくる。  

 そう言われると、僕が思うに、その方がいいのかもと。

 こんな、思い出を失ってしまって、悲しいだろうに。

 それでも前を向く様子に、笑みを浮かべることに、僕まで笑みを貰ってしまう。

 口元が、妙に緩んでしまう。

 「それに、またピンチでも、自慢の爪でやっつけちゃうんだから!あと、ええと、あれ君って、何て名前だっけ?」

 「!……ああ、イエネコのベンガルだね。」

 自信の表れに、自分の手を腰に当てて言うが。

 付け加えとして僕を言おうとしているのだろうが。

 僕の名前を知らないでいて、中途半端な形になってしまう。

 僕は、言っていなかったと思い、名前を口にした。 

 「ええと、ベンガルちゃんがいるじゃない!自慢の……光の……棒で、皆を守ってくれるんでしょ?だったら、安心だよぅ!」

 「!……あ、うん……まあ……。」 

 改めて言うなら、僕がいるからと。

 あんな、大立ち回りを見せたのだから、どんなピンチでも乗り越えられると。 

 言われると、戸惑ってしまうが。

 まあ、ピンチならと、僕は頭を掻きつつも答える。

 「……ってサーバル!!それどころじゃないでしょ!キュルルの記憶どうするのよ!それと、そのフレンズだって、妙ちくりんだし!」

 「!あ、カラカル!……でもでも、それでいいじゃない?また、思い出は作っていけばいいよっ!」

 「?!あなた……ああ、もぅ……。」

 「!……。」 

 キュルルを介抱していたであろう、ネコ科のフレンズ。

 ああ、サーバル曰くカラカルはそんな呑気なと反発してくるものの。

 サーバルがそんなものだから、最終的には呆れて、諦めてしまう。

 僕のことも、妙だと言われるものの。

 サーバルが流すものだから、これ以上話が進まないでいる。 

 困ったと、頭を掻いてしまった。

 「ねっ!いいよねっ!」

 「!……ぬぅ。」

 サーバルは、僕のことを気にせず、にっこりと笑みを浮かべながら促してきて。

 それは余計に困惑させてしまう。

 とうとう、頷いていいのか、どうなのか、混乱にまで至りそうに。 

 《まあ、戸惑うよね。仕方ない。でも、いいんじゃないか?君はフレンズ。誰とでも、仲良くできると思うよ。そこは、そんな場所だから。》

 「!……そっか。」 

 背中を押すように、通信機から虎猫が言う。

 フレンズなのだから、誰だって受け入れてくれると。

 そう、背中を押すように言われるなら、僕はいいかと思うようにもなる。

 「……そうだね。」

 虎猫の後押しに、僕は頷くなら、また笑みを浮かべた。

 「……!」

 「えへへっ!いこっ!」

 僕が頷いたとなると、サーバルもまた応じるように笑みを浮かべては。

 僕の前に、誘うように手を差し出してきた。

 「……うん。」

 僕はまたも頷いて、その手を取った。

 「!」 

 サーバルは、僕が手を取ったとなると。

 自分たちの輪の中に入れるように、強く手を引いた。

 その勢いについ、目を丸くするも、フレンズなのだからとして。

 僕は、そんな輪の中に入っていく。


 不思議なフレンズ。 

 異世界から遣わされたフレンズは。

 セルリアンを一撃で倒しちゃうワンパンニャン!

 そんな僕は、誘われて、輪の中に。

 やがて、他のフレンズのように、ジャパリパークへと馴染んていく。

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