1-1 遠い伝言(2)

 他人を養える財力を持ち、ヴァイオレットと既知の仲でセシルに魔女の力と女装を求める男とは。あるときセシルは屋敷に誰もいないのを見計らって〈風のアリア〉に乗せてこっそりとヴァイオレットに尋ねてみた。


「あの人は何者なの? なんでオレやダ・マスケのことを知ってるの?」


「大丈夫。彼のことは、生まれる前から知っている。嘘のつけない、まっすぐな男だともね。信じるに足る人間だよ」


「信じられないから聞いてるんだよ!」


「では、信じられるよう、努力してごらん」


 ダ・マスケの村の長老を務める大好きな祖母に言われて、少年はしぶしぶ引き下がった。

 同様のことを探偵本人に問いただしてもよかった。

 けれども、心のどこかであの美しい男の反感を買うことを恐れていたので、できなかった。

 すぐに田舎へ押し戻されてはモルフェシアに来た意味が無いのだ。


「今は我が家での生活とケルム、それからアカデミーに慣れるといい。そうして余裕ができた頃に君の〈力〉を貸してもらいたい」


 セシルの入学に際し、そう言ったそつのない笑顔すらなんだか呪わしく思いだす。

 ふと、ちらりと見たフロントミラーで運転手と目があった。


「なにかご不満でも、セシル様?」


「ナズレさんにはないよ。でも聞いてもいい?」


「今ですか? わたくしはそんな――器用に運転しながらご希望の答えをご用意できるような人間ではありませんよ」


 執事の男にそれとなくいなされてしまい、セシルは口を曲げた。できる癖に。

 パーシィもそうだ。探偵の顔を持つ彼は、契約書通り、セシルを助手としてあちこちへ連れ歩いた。だがセシルがやったことと言えばメモを取ることぐらいで「魔女として雇った」意味はどこにも見出せなかった。

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