序曲『魔女の息子』(12)

 赤の他人を支援する、見返りを求めない紳士という幻が崩れ、絶望に合点がいく。

 セシルは家族に売られたのだ。魔法を使える希少種として。


「あんた、人買いだな!」


「違う。僕は探偵だ」


 探偵という言葉は、震えるセシルの耳に馴染みが無かった。わからない。信じられない。


「オレをどうするつもり?」


 声を波立たせる少年に、男はゆっくりと近づいた。

 すらりと伸びた長身に圧倒されそうになる。その彼に肩を掴まれ、空色の瞳で貫かれた。


「どうもしない。君の願いと契約書の通り、君を学校へ通わせる。その代わり、僕の仕事を助手として手伝ってほしい。それだけだ」


「嘘だ!」


「嘘じゃない! 天に誓ってもいい! モルフェシアへ着いたら、すぐにきみの故郷へ電話をかけようか?」


 きめ細やかだったテノールが急に爆発し、セシルは身体を縮こまらせた。

 青年の声音はすぐに元通りになった。


「君のお婆様と約束したんだ。ダ・マスケの秘密も、君のことも。絶対に守ると」

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